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両想い
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翌日。
オズベル家の庭にて、レイダーとスミリーが紅茶を飲んでいた。
ハナンはその様子を、こっそりと覗き見ている。
そのことに、レイダーは気が付いていたが、注意したところで、あの手この手を尽くして様子を確認するだろうと思い、何も言わなかった。
「お、お久しぶりですね。レイダー様」
「様はやめてくれよ……。スミリー」
「しかし……。今や男爵家と子爵家という関係性でして……」
スミリーは、今や。と言ったが、出逢った時からそうである。
しかし、幼かったので、そんなことを注意する大人はいなかった。
スミリーは誰に対しても礼儀正しい。レイダーを呼び捨てにしたくらいで、怒る人間の方が少ないはずだ。
「だったら僕も、君のことをスミリー様と呼ぶことにするよ」
「えっえぇ……。それはご勘弁願います」
「じゃあ、レイダーと呼んでくれ」
「……レイダー」
「うん。ありがとうスミリー」
「……っ」
スミリーの顔が、はっきりと赤くなった。
ハナンは、スミリーの恋心が、まだ残っていることを確認し、小さくガッツポーズをする。
……とはいえハナンは、スミリーを呼びに行く時点で、その好意に関しては、かなり細かく尋ねていたので、ただの再確認ではあったのだが。
「その……。この度は本当に、なんと申し上げたらよいか」
「あぁ。気を遣わないでくれ。元から……。不相応な婚約だったから」
「そんなこと……」
きっとスミリーも、ハナンと同じことを考えている。
こんな美少年との婚約を破棄するなんて、一体何を考えているのだろうと。
そして……。このチャンスを逃すまいと考えていた。
『スミリー。レイダーは押しに弱いわ。さっさと手を繋いで、好意を伝えるの。そしたら婚約成立間違いなしなんだから!』
ハナンはスミリーに、そう言ったアドバイスを送っていた。
「あ、あの」
「どうした?」
「手を……。繋いでもよろしいでしょうか」
「……」
レイダーが、ゆっくりと後ろを振り返った。
それはまさに、ハナンの隠れている位置である。
さすがのハナンも、レイダーに気が付かれていることを悟り、大人しく姿を現した。
「ハ、ハナン様!?」
スミリーだけが、驚いている。
「あのねレイダー。やっぱりスミリ―が、あなたにお似合いだと思うのよ」
「しかしまだ、再開して日が浅いです……。早急な判断は避けるべきかと」
レイダーの態度は正しかった。
……しかし、ハナンには通用しない。
「二人が一緒の時間を過ごしたのは、十歳までだったわよね。それからレイダーの婚約が決まってしまい、十四歳で婚約破棄……。この失われた四年間も、ずっとスミリーは、あなたのことを思っていたのよ。後はあなたがそれを受け止めるだけじゃない」
「……」
「レイダー……。ハナン様の言う通りです。私はずっと、あなたのことを思ってきました! すぐにとは言いません! 少しづつでも、また関係を――」
「落ち着いて」
レイダーが、優しくスミリーの手を握った。
「焦りすぎですよ。二人とも」
「ひ、ひぅ……」
「そりゃあ焦るわよ。あなたって人気者だから。また変な女に騙されるんじゃないかってね」
「僕は別に、騙されたわけでは……」
「はいはい。じゃあ後は二人で仲良くね~」
レイダーから手を握った。
相手を落ち着かせるための行動だったとはいえ、多少は好意が無いと、できないはず。
……レイダーもきっと、そのつもりなのだ。
ハナンは安心した様子で、その場を後にした。
オズベル家の庭にて、レイダーとスミリーが紅茶を飲んでいた。
ハナンはその様子を、こっそりと覗き見ている。
そのことに、レイダーは気が付いていたが、注意したところで、あの手この手を尽くして様子を確認するだろうと思い、何も言わなかった。
「お、お久しぶりですね。レイダー様」
「様はやめてくれよ……。スミリー」
「しかし……。今や男爵家と子爵家という関係性でして……」
スミリーは、今や。と言ったが、出逢った時からそうである。
しかし、幼かったので、そんなことを注意する大人はいなかった。
スミリーは誰に対しても礼儀正しい。レイダーを呼び捨てにしたくらいで、怒る人間の方が少ないはずだ。
「だったら僕も、君のことをスミリー様と呼ぶことにするよ」
「えっえぇ……。それはご勘弁願います」
「じゃあ、レイダーと呼んでくれ」
「……レイダー」
「うん。ありがとうスミリー」
「……っ」
スミリーの顔が、はっきりと赤くなった。
ハナンは、スミリーの恋心が、まだ残っていることを確認し、小さくガッツポーズをする。
……とはいえハナンは、スミリーを呼びに行く時点で、その好意に関しては、かなり細かく尋ねていたので、ただの再確認ではあったのだが。
「その……。この度は本当に、なんと申し上げたらよいか」
「あぁ。気を遣わないでくれ。元から……。不相応な婚約だったから」
「そんなこと……」
きっとスミリーも、ハナンと同じことを考えている。
こんな美少年との婚約を破棄するなんて、一体何を考えているのだろうと。
そして……。このチャンスを逃すまいと考えていた。
『スミリー。レイダーは押しに弱いわ。さっさと手を繋いで、好意を伝えるの。そしたら婚約成立間違いなしなんだから!』
ハナンはスミリーに、そう言ったアドバイスを送っていた。
「あ、あの」
「どうした?」
「手を……。繋いでもよろしいでしょうか」
「……」
レイダーが、ゆっくりと後ろを振り返った。
それはまさに、ハナンの隠れている位置である。
さすがのハナンも、レイダーに気が付かれていることを悟り、大人しく姿を現した。
「ハ、ハナン様!?」
スミリーだけが、驚いている。
「あのねレイダー。やっぱりスミリ―が、あなたにお似合いだと思うのよ」
「しかしまだ、再開して日が浅いです……。早急な判断は避けるべきかと」
レイダーの態度は正しかった。
……しかし、ハナンには通用しない。
「二人が一緒の時間を過ごしたのは、十歳までだったわよね。それからレイダーの婚約が決まってしまい、十四歳で婚約破棄……。この失われた四年間も、ずっとスミリーは、あなたのことを思っていたのよ。後はあなたがそれを受け止めるだけじゃない」
「……」
「レイダー……。ハナン様の言う通りです。私はずっと、あなたのことを思ってきました! すぐにとは言いません! 少しづつでも、また関係を――」
「落ち着いて」
レイダーが、優しくスミリーの手を握った。
「焦りすぎですよ。二人とも」
「ひ、ひぅ……」
「そりゃあ焦るわよ。あなたって人気者だから。また変な女に騙されるんじゃないかってね」
「僕は別に、騙されたわけでは……」
「はいはい。じゃあ後は二人で仲良くね~」
レイダーから手を握った。
相手を落ち着かせるための行動だったとはいえ、多少は好意が無いと、できないはず。
……レイダーもきっと、そのつもりなのだ。
ハナンは安心した様子で、その場を後にした。
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