上 下
6 / 14

両想い

しおりを挟む
 翌日。

 オズベル家の庭にて、レイダーとスミリーが紅茶を飲んでいた。
 ハナンはその様子を、こっそりと覗き見ている。
 そのことに、レイダーは気が付いていたが、注意したところで、あの手この手を尽くして様子を確認するだろうと思い、何も言わなかった。

「お、お久しぶりですね。レイダー様」
「様はやめてくれよ……。スミリー」
「しかし……。今や男爵家と子爵家という関係性でして……」

 スミリーは、今や。と言ったが、出逢った時からそうである。
 しかし、幼かったので、そんなことを注意する大人はいなかった。

 スミリーは誰に対しても礼儀正しい。レイダーを呼び捨てにしたくらいで、怒る人間の方が少ないはずだ。

「だったら僕も、君のことをスミリー様と呼ぶことにするよ」
「えっえぇ……。それはご勘弁願います」
「じゃあ、レイダーと呼んでくれ」
「……レイダー」
「うん。ありがとうスミリー」
「……っ」

 スミリーの顔が、はっきりと赤くなった。
 ハナンは、スミリーの恋心が、まだ残っていることを確認し、小さくガッツポーズをする。
 ……とはいえハナンは、スミリーを呼びに行く時点で、その好意に関しては、かなり細かく尋ねていたので、ただの再確認ではあったのだが。

「その……。この度は本当に、なんと申し上げたらよいか」
「あぁ。気を遣わないでくれ。元から……。不相応な婚約だったから」
「そんなこと……」

 きっとスミリーも、ハナンと同じことを考えている。
 こんな美少年との婚約を破棄するなんて、一体何を考えているのだろうと。

 そして……。このチャンスを逃すまいと考えていた。

『スミリー。レイダーは押しに弱いわ。さっさと手を繋いで、好意を伝えるの。そしたら婚約成立間違いなしなんだから!』

 ハナンはスミリーに、そう言ったアドバイスを送っていた。
 
「あ、あの」
「どうした?」
「手を……。繋いでもよろしいでしょうか」
「……」

 レイダーが、ゆっくりと後ろを振り返った。
 それはまさに、ハナンの隠れている位置である。
 さすがのハナンも、レイダーに気が付かれていることを悟り、大人しく姿を現した。

「ハ、ハナン様!?」

 スミリーだけが、驚いている。

「あのねレイダー。やっぱりスミリ―が、あなたにお似合いだと思うのよ」
「しかしまだ、再開して日が浅いです……。早急な判断は避けるべきかと」

 レイダーの態度は正しかった。
 ……しかし、ハナンには通用しない。

「二人が一緒の時間を過ごしたのは、十歳までだったわよね。それからレイダーの婚約が決まってしまい、十四歳で婚約破棄……。この失われた四年間も、ずっとスミリーは、あなたのことを思っていたのよ。後はあなたがそれを受け止めるだけじゃない」
「……」
「レイダー……。ハナン様の言う通りです。私はずっと、あなたのことを思ってきました! すぐにとは言いません! 少しづつでも、また関係を――」
「落ち着いて」

 レイダーが、優しくスミリーの手を握った。

「焦りすぎですよ。二人とも」
「ひ、ひぅ……」
「そりゃあ焦るわよ。あなたって人気者だから。また変な女に騙されるんじゃないかってね」
「僕は別に、騙されたわけでは……」
「はいはい。じゃあ後は二人で仲良くね~」

 レイダーから手を握った。
 相手を落ち着かせるための行動だったとはいえ、多少は好意が無いと、できないはず。

 ……レイダーもきっと、そのつもりなのだ。

 ハナンは安心した様子で、その場を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

穏便に婚約解消する予定がざまぁすることになりました

よーこ
恋愛
ずっと好きだった婚約者が、他の人に恋していることに気付いたから、悲しくて辛いけれども婚約解消をすることを決意し、その提案を婚約者に伝えた。 そうしたら、婚約解消するつもりはないって言うんです。 わたくしとは政略結婚をして、恋する人は愛人にして囲うとか、悪びれることなく言うんです。 ちょっと酷くありません? 当然、ざまぁすることになりますわね!

遊び人の婚約者に愛想が尽きたので別れ話を切り出したら焦り始めました。

水垣するめ
恋愛
男爵令嬢のリーン・マルグルは男爵家の息子のクリス・シムズと婚約していた。 一年遅れて学園に入学すると、クリスは何人もの恋人を作って浮気していた。 すぐさまクリスの実家へ抗議の手紙を送ったが、全く相手にされなかった。 これに怒ったリーンは、婚約破棄をクリスへと切り出す。 最初は余裕だったクリスは、出した条件を聞くと突然慌てて始める……。

勘違いも凄いと思ってしまったが、王女の婚約を破棄させておいて、やり直せると暗躍するのにも驚かされてしまいました

珠宮さくら
恋愛
プルメリアは、何かと張り合おうとして来る令嬢に謝罪されたのだが、謝られる理由がプルメリアには思い当たらなかったのだが、一緒にいた王女には心当たりがあったようで……。 ※全3話。

クズな義妹に婚約者を寝取られた悪役令嬢は、ショックのあまり前世の記憶を思い出し、死亡イベントを回避します。

無名 -ムメイ-
恋愛
クズな義妹に婚約者を寝取られ、自殺にまで追い込まれた悪役令嬢に転生したので、迫りくる死亡イベントを回避して、義妹にざまぁしてやります。 7話で完結。

見た目普通の侯爵令嬢のよくある婚約破棄のお話ですわ。

しゃち子
恋愛
侯爵令嬢コールディ・ノースティンはなんでも欲しがる妹にうんざりしていた。ドレスやリボンはわかるけど、今度は婚約者を欲しいって、何それ! 平凡な侯爵令嬢の努力はみのるのか?見た目普通な令嬢の婚約破棄から始まる物語。

処理中です...