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ルルエ 十歳
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妹ができたとき、最初はとても嬉しかった。
でも、素直に祝福できたのは、私が七歳。彼女が五歳の時まで。
私は侯爵令嬢の長女として、いずれ王族の長男と結婚することが決まっている。だから、両親には厳しく育てられた。
剣技、魔法、それらはどれも難解だったけれど、私は必死で努力して、同い年の誰よりも素晴らしい成績を収めていた。
そんな私が、唯一できなかったのは、読み書きだ。
読み書きができなくたって、剣も魔法も扱える。だから両親も、そこに関しては、生まれ持ったものだとして、あまり追及してこなかった。
……なのに、妹のリリナが、五歳にして、難しい書物を読破したことを機に、周りの目が変わった。
妹にできて、姉にできないことなど、あってはならない。当然の考えだ。私のような、侯爵令嬢であれば、より一層その意識は強くなる。
けど、どれだけ頑張っても、私は読み書きができなかった。頭がちっとも理解してくれない。思い悩んだ。死ぬ気で努力した。でも……。結果は出なかった。
それを朝笑うかのように、リリナは文字を読めるようになったことで、徐々にではあるが、能力を多方に伸ばしていった。いずれ私は、越えられてしまうかもしれない。妹より不出来な長女の行きつく先は、一生屋敷に軟禁……。あるいは、国外追放。
だから私は、リリナへの嫌がらせを始めた。
少しでも心を乱し、私よりも劣るように、敗北感を与え続けた。
リリナが文字を読む時間を少しでも減らすため、起きている間は遊びに誘い、精神的に追い詰める。
……それでもリリナは、くじけずに、僅かな時間を活用して、読み書きをするのだった。
「嫌よ……。あの子に負けたくない!」
部屋に戻ると、気持ちを抑えられなくなる。ベッドに潜りながら、叫ぶ日々が続いていた。
事件が起きたのは、私がいつも通り彼女を庭に誘い出したある日のこと。
今日は何としても、リリナの腕を折るつもりでいた。書くことを防げば、彼女の学習の効率が落ちると思ったのだ。
あらかじめ木の枝に細工をしてから、木登りをしようと持ち掛けた。
リリナは何も疑うことなく、その木の枝にぶら下がり……。落ちた。
酷い怪我だった。自分がやったとは思いたくないくらい。右腕が、見たことの無い曲がり方をしていた。
「リリナはどうなったのですか!?お父様!」
「……もう、二度と右腕は動かないそうだ」
「……そんなぁ!私のせいですわ!私がリリナを木登りになんて誘わなければ」
「いいえルルエ。あなたは悪くないわ。泣かないで?」
「お母様……」
二人は、私がやったことなんて、気が付くはずもない。表向きは仲良し姉妹だったから。
私は、あの子が好きな林檎を持って、お見舞いに行ってあげることにした。これでも姉だから、形だけでも行っておく必要があったのだ。
部屋に入って来た私を見るリリナの目は、憎悪に満ちていた。
「あらリリナ。かわいそうに。もう読み書きは一生できないわね。あなた、右利きだものね」
リリナは答えなかった。ただ、私を睨みつけるだけ。
生意気だから、この林檎をぶつけてやりたかったけど、外にメイドがいるので、やめておくことにした。
「ほら。あなたの好きな林檎よ。ここに置いておくから、好きな時に食べなさい。その不自由な手でね。あははっ!」
リリナは結局、何も言わなかった。相当怒っている様子だった。私は少々の物足りなさを感じつつも、部屋を後にした。
……これが、リリナとの、最後の会話になるとも知らずに。
でも、素直に祝福できたのは、私が七歳。彼女が五歳の時まで。
私は侯爵令嬢の長女として、いずれ王族の長男と結婚することが決まっている。だから、両親には厳しく育てられた。
剣技、魔法、それらはどれも難解だったけれど、私は必死で努力して、同い年の誰よりも素晴らしい成績を収めていた。
そんな私が、唯一できなかったのは、読み書きだ。
読み書きができなくたって、剣も魔法も扱える。だから両親も、そこに関しては、生まれ持ったものだとして、あまり追及してこなかった。
……なのに、妹のリリナが、五歳にして、難しい書物を読破したことを機に、周りの目が変わった。
妹にできて、姉にできないことなど、あってはならない。当然の考えだ。私のような、侯爵令嬢であれば、より一層その意識は強くなる。
けど、どれだけ頑張っても、私は読み書きができなかった。頭がちっとも理解してくれない。思い悩んだ。死ぬ気で努力した。でも……。結果は出なかった。
それを朝笑うかのように、リリナは文字を読めるようになったことで、徐々にではあるが、能力を多方に伸ばしていった。いずれ私は、越えられてしまうかもしれない。妹より不出来な長女の行きつく先は、一生屋敷に軟禁……。あるいは、国外追放。
だから私は、リリナへの嫌がらせを始めた。
少しでも心を乱し、私よりも劣るように、敗北感を与え続けた。
リリナが文字を読む時間を少しでも減らすため、起きている間は遊びに誘い、精神的に追い詰める。
……それでもリリナは、くじけずに、僅かな時間を活用して、読み書きをするのだった。
「嫌よ……。あの子に負けたくない!」
部屋に戻ると、気持ちを抑えられなくなる。ベッドに潜りながら、叫ぶ日々が続いていた。
事件が起きたのは、私がいつも通り彼女を庭に誘い出したある日のこと。
今日は何としても、リリナの腕を折るつもりでいた。書くことを防げば、彼女の学習の効率が落ちると思ったのだ。
あらかじめ木の枝に細工をしてから、木登りをしようと持ち掛けた。
リリナは何も疑うことなく、その木の枝にぶら下がり……。落ちた。
酷い怪我だった。自分がやったとは思いたくないくらい。右腕が、見たことの無い曲がり方をしていた。
「リリナはどうなったのですか!?お父様!」
「……もう、二度と右腕は動かないそうだ」
「……そんなぁ!私のせいですわ!私がリリナを木登りになんて誘わなければ」
「いいえルルエ。あなたは悪くないわ。泣かないで?」
「お母様……」
二人は、私がやったことなんて、気が付くはずもない。表向きは仲良し姉妹だったから。
私は、あの子が好きな林檎を持って、お見舞いに行ってあげることにした。これでも姉だから、形だけでも行っておく必要があったのだ。
部屋に入って来た私を見るリリナの目は、憎悪に満ちていた。
「あらリリナ。かわいそうに。もう読み書きは一生できないわね。あなた、右利きだものね」
リリナは答えなかった。ただ、私を睨みつけるだけ。
生意気だから、この林檎をぶつけてやりたかったけど、外にメイドがいるので、やめておくことにした。
「ほら。あなたの好きな林檎よ。ここに置いておくから、好きな時に食べなさい。その不自由な手でね。あははっ!」
リリナは結局、何も言わなかった。相当怒っている様子だった。私は少々の物足りなさを感じつつも、部屋を後にした。
……これが、リリナとの、最後の会話になるとも知らずに。
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