上 下
2 / 8

ルルエ 十歳

しおりを挟む
妹ができたとき、最初はとても嬉しかった。
でも、素直に祝福できたのは、私が七歳。彼女が五歳の時まで。
私は侯爵令嬢の長女として、いずれ王族の長男と結婚することが決まっている。だから、両親には厳しく育てられた。

剣技、魔法、それらはどれも難解だったけれど、私は必死で努力して、同い年の誰よりも素晴らしい成績を収めていた。

そんな私が、唯一できなかったのは、読み書きだ。
読み書きができなくたって、剣も魔法も扱える。だから両親も、そこに関しては、生まれ持ったものだとして、あまり追及してこなかった。

……なのに、妹のリリナが、五歳にして、難しい書物を読破したことを機に、周りの目が変わった。
妹にできて、姉にできないことなど、あってはならない。当然の考えだ。私のような、侯爵令嬢であれば、より一層その意識は強くなる。

けど、どれだけ頑張っても、私は読み書きができなかった。頭がちっとも理解してくれない。思い悩んだ。死ぬ気で努力した。でも……。結果は出なかった。

それを朝笑うかのように、リリナは文字を読めるようになったことで、徐々にではあるが、能力を多方に伸ばしていった。いずれ私は、越えられてしまうかもしれない。妹より不出来な長女の行きつく先は、一生屋敷に軟禁……。あるいは、国外追放。

だから私は、リリナへの嫌がらせを始めた。
少しでも心を乱し、私よりも劣るように、敗北感を与え続けた。
リリナが文字を読む時間を少しでも減らすため、起きている間は遊びに誘い、精神的に追い詰める。

……それでもリリナは、くじけずに、僅かな時間を活用して、読み書きをするのだった。

「嫌よ……。あの子に負けたくない!」

部屋に戻ると、気持ちを抑えられなくなる。ベッドに潜りながら、叫ぶ日々が続いていた。

事件が起きたのは、私がいつも通り彼女を庭に誘い出したある日のこと。

今日は何としても、リリナの腕を折るつもりでいた。書くことを防げば、彼女の学習の効率が落ちると思ったのだ。
あらかじめ木の枝に細工をしてから、木登りをしようと持ち掛けた。
リリナは何も疑うことなく、その木の枝にぶら下がり……。落ちた。

酷い怪我だった。自分がやったとは思いたくないくらい。右腕が、見たことの無い曲がり方をしていた。

「リリナはどうなったのですか!?お父様!」
「……もう、二度と右腕は動かないそうだ」
「……そんなぁ!私のせいですわ!私がリリナを木登りになんて誘わなければ」
「いいえルルエ。あなたは悪くないわ。泣かないで?」
「お母様……」

二人は、私がやったことなんて、気が付くはずもない。表向きは仲良し姉妹だったから。
私は、あの子が好きな林檎を持って、お見舞いに行ってあげることにした。これでも姉だから、形だけでも行っておく必要があったのだ。

部屋に入って来た私を見るリリナの目は、憎悪に満ちていた。

「あらリリナ。かわいそうに。もう読み書きは一生できないわね。あなた、右利きだものね」

リリナは答えなかった。ただ、私を睨みつけるだけ。
生意気だから、この林檎をぶつけてやりたかったけど、外にメイドがいるので、やめておくことにした。

「ほら。あなたの好きな林檎よ。ここに置いておくから、好きな時に食べなさい。その不自由な手でね。あははっ!」

リリナは結局、何も言わなかった。相当怒っている様子だった。私は少々の物足りなさを感じつつも、部屋を後にした。

……これが、リリナとの、最後の会話になるとも知らずに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄、果てにはパーティー追放まで!? 事故死を望まれた私は、第2王子に『聖女』の力を見出され性悪女にざまぁします

アトハ
恋愛
「マリアンヌ公爵令嬢! これ以上貴様の悪行を見過ごすことはできん! 我が剣と誇りにかけて、貴様を断罪する!」  王子から突如突き付けられたのは、身に覚えのない罪状、そして婚約破棄。  更にはモンスターの蔓延る危険な森の中で、私ことマリアンヌはパーティーメンバーを追放されることとなりました。  このまま私がモンスターに襲われて"事故死"すれば、想い人と一緒になれる……という、何とも身勝手かつ非常識な理由で。    パーティーメンバーを追放された私は、森の中で鍋をかき混ぜるマイペースな変人と出会います。  どうにも彼は、私と殿下の様子に詳しいようで。  というかまさか第二王子じゃないですか?  なんでこんなところで、パーティーも組まずにのんびり鍋を食べてるんですかね!?  そして私は、聖女の力なんて持っていないですから。人違いですから!  ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る

青の雀
恋愛
婚約破棄から聖女にUPしようとしたところ、長くなってしまいましたので独立したコンテンツにします。 卒業記念パーティで、その日もいつもと同じように婚約者の王太子殿下から、エスコートしていただいたのに、突然、婚約破棄されてしまうスカーレット。 実は、王太子は愛の言葉を囁けないヘタレであったのだ。 婚約破棄すれば、スカーレットが泣いて縋るとおもっての芝居だったのだが、スカーレットは悲しみのあまり家出して、自殺しようとします。 寂れた隣国の教会で、「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない。」司祭様の言葉を信じ、水晶玉判定をすると、聖女であることがわかり隣国の王太子殿下との縁談が持ち上がるが、この王太子、大変なブサメンで、転移魔法を使って公爵家に戻ってしまう。 その後も聖女であるからと言って、伝染病患者が押しかけてきたり、世界各地の王族から縁談が舞い込む。 聖女であることを隠し、司祭様とともに旅に出る。という話にする予定です。

私、悪役令嬢ですが聖女に婚約者を取られそうなので自らを殺すことにしました

蓮恭
恋愛
 私カトリーヌは、周囲が言うには所謂悪役令嬢というものらしいです。  私の実家は新興貴族で、元はただの商家でした。    私が発案し開発した独創的な商品が当たりに当たった結果、国王陛下から子爵の位を賜ったと同時に王子殿下との婚約を打診されました。  この国の第二王子であり、名誉ある王国騎士団を率いる騎士団長ダミアン様が私の婚約者です。  それなのに、先般異世界から召喚してきた聖女麻里《まり》はその立場を利用して、ダミアン様を籠絡しようとしています。  ダミアン様は私の最も愛する方。    麻里を討ち果たし、婚約者の心を自分のものにすることにします。 *初めての読み切り短編です❀.(*´◡`*)❀. 『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載中です。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

私とは婚約破棄して妹と婚約するんですか?でも私、転生聖女なんですけど?

tartan321
恋愛
婚約破棄は勝手ですが、事情を分からずにすると、大変なことが起きるかも? 3部構成です。

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

婚約破棄されてしまいました。別にかまいませんけれども。

ココちゃん
恋愛
よくある婚約破棄モノです。 ざまぁあり、ピンク色のふわふわの髪の男爵令嬢ありなやつです。 短編ですので、サクッと読んでいただけると嬉しいです。 なろうに投稿したものを、少しだけ改稿して再投稿しています。  なろうでのタイトルは、「婚約破棄されました〜本当に宜しいのですね?」です。 どうぞよろしくお願いしますm(._.)m

処理中です...