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サンバスタ
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ライロットから事情を聞いたクリムは……、表情を歪ませた。
「それは辛かったですね……」
重々しく、そう呟きながら、ライロットを抱きしめる。
久々に、人に抱き着かれたライロットは、どうしていいかわからず、ただそれを受け入れた。
しかし、すぐに、抱きしめ返すべきであることを思い出し、クリムの背中に、手を回す。
抱きしめ合うと、より一層、人の温もりを感じることができた。
「……ありがとう。クリム」
「もう、泣かなくて大丈夫です。今日からは……。このサンバスタで、幸せな日々を過ごしましょう?」
クリムの笑顔に励まされ、ライロットの気持ちは前向きになっていた。
……いつまでも泣いていたら、迷惑をかけてしまう。
もう大丈夫だから。と言って、ライロットはクリムから離れた。
「ところで、ライロットは、今、何歳なんですか?」
「二十一歳だよ」
「えっ。もっと年上かと……。すごく大人っぽい雰囲気だったので」
「あれ、クリムは?」
「私は二十歳です!」
改めて、ライロットは、クリムの容姿を確認した。
身長は、自分よりもかなり低い。百五十センチ程度しかなさそうだ。
声が高く、身振り手振りを交えて会話する様は……。まるで、子供を見ているような感覚にさせる。
「どうかしましたか?」
「あ、ううん。大丈夫……」
首を傾げるクリムに、ライロットは愛想笑いを浮かべた。
追及されるのを防ぐため、話題を変えることにする。
「あっ、でも、明日で、二十二歳だけどね……」
「そ、それは本当ですか!?」
クリムが、ややオーバーなリアクションをしたことで、ライロットはお茶を零しそうになった。
「絶対に、お祝いのパーティをしなければ!」
「そんな……。大げさだよ」
ライロットは笑うが、クリムの表情は、真剣そのものだった。
「大げさではありません。サンバスタでは、島民の誕生日は、必ず全員で祝うようにしているんです!」
「ぜ、全員……? それって、大変じゃない?」
「いえ。五十人くらいしか、住んでませんから……」
五十人……。
王宮で働いている人々の数よりも、少ないかもしれない。
「サンバスタのことは、あまり知らないのですか?」
「恥ずかしながら……全然知らないの。色々教えてくれる? どんな国なのか……とか」
「もちろんです。観光ガイドの腕の見せ所ですね!」
そう言って、クリムは腕まくりをした後、棚の上に置いてあった、観光用のパンフレットを、ライロットに手渡した。
「まず、サンバスタは、その大半が、森と山で構成されています。……人が住めるのは、この港町くらいなんです。だから、広いように見えて、意外と島民は少ないんですよね」
ライロットは、パンフレットを見ながら、ふむふむと頷いた。
「観光業と、漁業。この二つが、主な収入源になってます。特に漁業に関しては……。お向かいの王都が、あまり乗り気ではないおかげもあってか、ほぼ独占状態ですね」
エージャリオンは、資源が豊富な国なので、わざわざそれに頼る必要もないということだろう。
サンバスタの漁師が捕った魚を、買うだけの話だ。
「てなわけで……。ライロットは、さすがに漁業はやりませんよね?」
「そうだね……。向いてないと思う」
「今から、役場に行って、手続きをしましょう! そうすれば、晴れて観光課の一員です! みんな一緒の宿で生活してるんですよ? とっても楽しいんですから!」
宿という言葉を聞いて、ライロットは、孤児院での生活を思い出した。
どちらかと言えば、一人で暮らすよりも、大勢で暮らす方が好きなタイプのライロットにとっては、喜ばしいことだった。
……しかし、同時に、思い出さなくても良い、甘い思い出まで、頭を過ってしまう。
「ライロット? どうかしましたか?」
クリムが、ライロットに尋ねた瞬間。
いきなり、一人の男が、休憩所に入ってきた。
「ク、クリム! 今日はとんでもねぇ大漁だ! 祭りやっぞ! 祭り! すぐに観光客と、みんなに知らせねぇと!」
「えっ!? 本当ですか!? ごめんなさいライロット! もう少しだけ、ここで待っていてください!」
「あ、うん……」
慌てた様子で、男とクリムは、行ってしまった。
祭り……。一体、どんなことが、行われると言うのだろう。
「それは辛かったですね……」
重々しく、そう呟きながら、ライロットを抱きしめる。
久々に、人に抱き着かれたライロットは、どうしていいかわからず、ただそれを受け入れた。
しかし、すぐに、抱きしめ返すべきであることを思い出し、クリムの背中に、手を回す。
抱きしめ合うと、より一層、人の温もりを感じることができた。
「……ありがとう。クリム」
「もう、泣かなくて大丈夫です。今日からは……。このサンバスタで、幸せな日々を過ごしましょう?」
クリムの笑顔に励まされ、ライロットの気持ちは前向きになっていた。
……いつまでも泣いていたら、迷惑をかけてしまう。
もう大丈夫だから。と言って、ライロットはクリムから離れた。
「ところで、ライロットは、今、何歳なんですか?」
「二十一歳だよ」
「えっ。もっと年上かと……。すごく大人っぽい雰囲気だったので」
「あれ、クリムは?」
「私は二十歳です!」
改めて、ライロットは、クリムの容姿を確認した。
身長は、自分よりもかなり低い。百五十センチ程度しかなさそうだ。
声が高く、身振り手振りを交えて会話する様は……。まるで、子供を見ているような感覚にさせる。
「どうかしましたか?」
「あ、ううん。大丈夫……」
首を傾げるクリムに、ライロットは愛想笑いを浮かべた。
追及されるのを防ぐため、話題を変えることにする。
「あっ、でも、明日で、二十二歳だけどね……」
「そ、それは本当ですか!?」
クリムが、ややオーバーなリアクションをしたことで、ライロットはお茶を零しそうになった。
「絶対に、お祝いのパーティをしなければ!」
「そんな……。大げさだよ」
ライロットは笑うが、クリムの表情は、真剣そのものだった。
「大げさではありません。サンバスタでは、島民の誕生日は、必ず全員で祝うようにしているんです!」
「ぜ、全員……? それって、大変じゃない?」
「いえ。五十人くらいしか、住んでませんから……」
五十人……。
王宮で働いている人々の数よりも、少ないかもしれない。
「サンバスタのことは、あまり知らないのですか?」
「恥ずかしながら……全然知らないの。色々教えてくれる? どんな国なのか……とか」
「もちろんです。観光ガイドの腕の見せ所ですね!」
そう言って、クリムは腕まくりをした後、棚の上に置いてあった、観光用のパンフレットを、ライロットに手渡した。
「まず、サンバスタは、その大半が、森と山で構成されています。……人が住めるのは、この港町くらいなんです。だから、広いように見えて、意外と島民は少ないんですよね」
ライロットは、パンフレットを見ながら、ふむふむと頷いた。
「観光業と、漁業。この二つが、主な収入源になってます。特に漁業に関しては……。お向かいの王都が、あまり乗り気ではないおかげもあってか、ほぼ独占状態ですね」
エージャリオンは、資源が豊富な国なので、わざわざそれに頼る必要もないということだろう。
サンバスタの漁師が捕った魚を、買うだけの話だ。
「てなわけで……。ライロットは、さすがに漁業はやりませんよね?」
「そうだね……。向いてないと思う」
「今から、役場に行って、手続きをしましょう! そうすれば、晴れて観光課の一員です! みんな一緒の宿で生活してるんですよ? とっても楽しいんですから!」
宿という言葉を聞いて、ライロットは、孤児院での生活を思い出した。
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……しかし、同時に、思い出さなくても良い、甘い思い出まで、頭を過ってしまう。
「ライロット? どうかしましたか?」
クリムが、ライロットに尋ねた瞬間。
いきなり、一人の男が、休憩所に入ってきた。
「ク、クリム! 今日はとんでもねぇ大漁だ! 祭りやっぞ! 祭り! すぐに観光客と、みんなに知らせねぇと!」
「えっ!? 本当ですか!? ごめんなさいライロット! もう少しだけ、ここで待っていてください!」
「あ、うん……」
慌てた様子で、男とクリムは、行ってしまった。
祭り……。一体、どんなことが、行われると言うのだろう。
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