一人の子供が聖女になり、聖女を引退するまでの物語。

冬吹せいら

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認知という能力

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マリッカは、真剣な表情で、私の話を聞いてくれた。

村にいきなり、兵がやってきたこと。
母を殺されたこと。
ピアスのおかげで、聖女に目覚めたこと。

「……お姉ちゃん、辛かったよね」

マリッカに抱きしめられて、私は少し泣いてしまった。
けど、私が泣いてしまうと、マリッカが不安を感じてしまう。
だからすぐに、目元を拭って、笑顔を向けた。

「今は、みんなが……。マリッカがいるから。平気よ」
「ありがとう……」
「ごめんね? こんなに暗い話を聞かせちゃって。でも、話すことができて、私も良かった」

一人で抱え込んでいたことを、吐き出すことができたから。
六歳のマリッカが、全部を把握できたとは思わないけど……。
それでも、心は少し、軽くなった気がする。

「さぁて。お腹も空いたし、みんなのところに」
「待って」

立ち上がろうとしたら、マリッカに服を掴まれた。

「どうしたの?」
「あのね。私……。お姉ちゃんのお母さんの、死体の場所、わかるよ」
「……えっ?」

……そんな。
何も頼んでないのに。

もしかして、認知の能力は、文字通り、物事を理解する能力すらも、伸ばしてしまうのだろうか。

六歳の女の子の判断力とは、思えない。
それに……。させて良いことだとも。

「……マリッカ。すごく嬉しいけど。……でも、あなたにトラウマを与えたくないの」
「だけど、すごく複雑な場所にあるから、私が一緒に行かないと……」
「ダメよ。そんなの」
「私、お姉ちゃんの役に立ちたいの。毎日毎日、兵にバレないように、私を元気づけてくれた……。その恩返しがしたい」
「マリッカ……」

……どうしよう。

私が母の死体を手に入れたい理由は、たった一つ。
――聖女の力を使えば、きっと生き返らせることができるから。

だけど、こんな小さな子に……。

「……大丈夫。死体なんて、何回も見てるから」

……言われてみれば、そうだった。
私たちは毎日のように、何人も、動かなくなった人を、見てしまっている。

「お願い。私がお姉ちゃんを助けたいの」
「……うん」

みんなが寝静まった後。

――私たちは、二人で死体を取り返しに行くことを決めた。
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