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聖女のピアス

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「……えっ」

あまりの出来事に、私は言葉を失った。
そして……。涙は出なかった。
きっと、心が憎悪と怒りに満たされてしまっているせいで、悲しみが湧いてこないのだ。

触らずともわかる。母は……。死んでいるだろう。

「どうだい? ロベリア。君に似て、端正な顔立ちをしていると思うよ。あんな村に生まれていなければ……。今頃、もっと裕福な暮らしをしていても不思議じゃない。それくらい美しい」
「……はい」
「彼女はね。聖女のピアスに関しての責任を、君に取らせると言ったら……。私が死ぬから、娘は勘弁してください。そう言ったんだ。勇敢な母親だろう?」
「はい」
「元々私だって、十二歳の子に、拷問をする趣味は無いさ……。だから、彼女からその言葉を引き出すため、あえてそう言ったんだよ。だから、色々してやったさ。何をしても、ずっと彼女はね……。ロベリア。君の名前を呼んでいた。きっと、君の笑顔を思い出して、少しでも苦痛を紛らわせたかったんだね」

吐きそうだ。だけど、吐くものが胃になかった。

「ロベリア? 見てなさい?」

いきなりミシェーラが、棺桶を覗き込み……。
――母の死体に、口づけをした。

「……びっくりした?」

なにを――。しているんだ。こいつは。

「びっくりした? って訊いてるの」
「はいっ」

顎を掴まれながら、私はなんとか返事をした。

「お父様はああ言ってるけど、私はあなたを許さないわ。私の耳に穴を空けたのよ……」
「すいません」
「あなたの母親……。臭かったわね。死体があんなに臭いなんて思わなかったの。どうして口づけしたのかって?――汚してやりたかったのよ。それだけ」

そう言うと、ミシェーラは大声で笑い始めた。

「酷い顔してるわあなた! よっぽど辛いのね! ……でも、辛いのは私も同じなのよ? 耳が痛くて仕方ない……」

ミシェーラは小さく声を上げながら、両耳からピアスを外した。

「痛っ……。ほら、あなたも味わってみなさいよ」

そんな。回復魔法をかけないで、ピアスを……?
ありえない。そんなの、耐えられるわけがっ――。

「いあああ!!」
「黙りなさい!」
「~~~~!!!!!!」

兵に口を塞がれながら、私の耳たぶに、鋭い針が突き刺された。
鉱山でのどんな苦痛よりも耐えがたい痛みに、私は体を痙攣させる。
口や鼻から、液体がどんどん流れ出た。まともに水分も補給していないはずなのに、ドロドロと、滝のように溢れ、兵の手を汚した。

それが気に食わなかったらしく、ピアスを嵌め終わった後、兵に数発、顔面を殴られた。

「うふふ。良い気味ね。でもよく失神しなかったわ……。毎日訓練しているだけのことはあるわね」

ミシェーラは、満面の笑みを浮かべている。
……なんで笑えるの? この状況で。

「さぁ~て。どうしてやろうかしらねこれから。殺す前に、散々遊んであげないと、今度は熱い鉄板の上で踊ってもらおうかしらね。それとも――」

ミシェーラの言葉は、そこで途切れた。

それはなぜか。

――いきなり、私の両耳のピアスが、輝きだしたからだ。
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