一人の子供が聖女になり、聖女を引退するまでの物語。

冬吹せいら

文字の大きさ
上 下
2 / 19

呼び出し

しおりを挟む
「っ……」

また、いつもの悪夢を見た。

村で兵に捕まえられた私は、そのまま国に連れていかれ……。
奴隷として、働かされている。

「起きろ~! ゴミ共! 労働の時間だ!」

私たちに寝床なんてものは存在しない。
この鉱山から、出ることはできないのだ。

起きている間はずっと労働。
睡眠時間は、たったの三時間。

この固い岩の感触にも、もう慣れてしまった。

「よ~し。十八番のB。起きてるな」
「はい!」
「良い返事だ」

兵がやってきて、一人一人、起きているかを確認していく。
十八番のB……。それが今の、私の名前だ。

「十五番のF……。反応無し。おいお前、そいつを殴れ」
「は、はい!」

指示された奴隷が、目を覚まそうとしない、十五番のFの顔面を、思いっきり殴った。

――しかし、反応が無い。

「……運べ」
「はい!」

死体の処理すら、奴隷の仕事だ。
毎日、少なくとも十人程度は死ぬ。
私はここにきて、三か月程度経つけど……。まだなんとか、生きていた。

いつまで生きられるかなんて、わからないけど。

こうして、全員の状態を確認した後、労働が始まる。
斧で岩を砕き、台車に乗せ、運ぶ。
この作業を、一日続けるのだ。

気が狂いそうになる。だけど、体の動きを止めれば――。

「六番のC! こっちへ来い!」

呼び出され……。暴行を受ける。

男であれば、血を吐くまで殴られ、女であれば……。

「おい……。十八番のB。お前はよく働くなぁ」
「ありがとうございます!」

返事はいつも大声。そして丁寧な発音。
これを破れば、拷問を受ける。

ブクブクに太った、髭面の兵が、私の顔を覗き込んだ。
これで兵が務まるのか。そう疑いたくなるほどの、醜い体系。

内地で働く兵は、兵としての能力よりも……。
いかに、人の心を支配し、踏みにじるか。
それに長けているかどうかが、重要になる。

この太った兵は、女にだけ話しかけ、希望を持たせるようなことを言うのだ。
その反応を見て、楽しむ。最低の男。

「それだけ働ければ、きっと他にも仕事があるぜ~……?」
「ありがとうございます!」
「信じてれば、きっと道は開けるんだ」
「ありがとうございます!」
「……もっとも。俺は早く、お前みたいな可愛い女に脱落してもらいたいがな」
「……ありがとうございます!」

汚い息を私に吹きかけた後、太った兵は、次の女にターゲットを定めた。
……本当に気持ち悪い。憎悪で脳が破壊されてしまいそうだ。

――母は、無事なのだろうか。

私たちは子供だから、こうして労働する役割を担っている。
が、大人で、しかも女性。なおかつ、ここで働いていないということは……。

……考えても、仕方のないことだ。
私は今、自分が生きることで精一杯で、他のことに頭が回らない。

溢れる憎悪、怒りをエネルギーに変え、体を動かしているだけの、ただの人形だ。

「おい十八番のB! 呼び出しだ!」
「はい!」

……なぜ?
体の動きは止めていない。ミスもしていないはずなのに。

私は監視官の元に、駆け足で向かった。

「十八番のBです! お呼び出しいただき、ありがとうございます!」
「あぁ。お前に、王宮から呼び出しがかかっている」

……王宮から?
そんなパターンは、これまで聞いたことがない。

「命までは取られんだろうが……。まぁ、無事で帰って来いよ。お前は優秀だからな。他の奴隷の見本になる」
「はい!」
「よし。では、馬車に乗れ。民に奴隷の姿なんて、見せるわけにはいかんからな。絶対に顔を出すなよ……。いいな?」
「はい!」

私は手足を縛られ、馬車に乗せられた。

……まるで、ここに連れてこられた時のようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

婚約破棄された令嬢の父親は最強?

岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

勘違い

ざっく
恋愛
貴族の学校で働くノエル。時々授業も受けつつ楽しく過ごしていた。 ある日、男性が話しかけてきて……。

月が隠れるとき

いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。 その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。 という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。 小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。

処理中です...