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そして、元令嬢は……
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真っ白に脱色した髪をたなびかせ、妖艶な雰囲気を醸し出しながら、王都の広い道を歩く女性。
……彼女が、かつて、この街で暮らしていた、エイリャーン家の令嬢、ミリス・エイリャーンだと気が付く者は、誰一人としていないだろう。
隣国で、娼婦として大金を稼ぎ、生活にも余裕が出てきたミリスは、二年ぶりに、王都へと戻っていた。
とはいえ、長く留まるつもりはない。
自分が休めば、店にも迷惑がかかる。
せっかく掴んだ、指名一位の称号を、自ら手放すようなことは、したくなかった。
かつて、自分の家があった場所には、すでに別の建物が建っていた。
貴族の家など、残しておいたところで、扱いづらいだけ。きっとすぐに取り壊されてしまったのだろう。
どこにも、自分の暮らした面影が無いことに、ミリスは、切なくなったが、ぐっと涙をこらえた。
次に向かったのは、末期患者を収容する施設。
受付で、ビアール・エイリャーンの名前を告げると、すでに死んだと返されてしまった。
……予測できていたことだったが、いざ現実を叩きつけられると、胸が締め付けられる想いになる。
フラフラと、施設を後にしたミリスは、ただ茫然と、路地裏で立ちつくしていた。
なぜ、路地裏に向かったか。
……街中に、アンリカの名前があったから。
奇跡的な研究結果を示すことに成功した、ハーリス・エンネット。
その助手として……。
さらに、妻として。
彼を支え続けた、アンリカのことは、大きく取り上げられていた。
路地裏に転がっている、腐ったパンを踏みつけ、形が崩れていくのを見ながら、ミリスは、少し微笑んだ。
たった一つの出来事が、ここまで明暗を分けてしまうのか。
……自分は、そんなに、酷いことをしたのだろうか。
ミリスは、未だに、自分の境遇に、納得できていなかった。
しかし、プライドだけは、見事捨て去ることに成功している。
今のミリスは、金を稼ぐことができるのなら、手段は選ばなかった。
「おいおめぇ。こんなとこで何ボーっとしてんだ?」
小太りの男が、声をかけてきた。
ミリスは、ゆっくりと顔をあげ、男の身なりを確認する。
金持ちの太り方を、この二年で、見分けることができるようになっていた。
「いいえ? 素敵な男性が、やってくるのを、ただ待っていただけよ?」
「……いくらだ?」
「これでどう?」
数本の指を立てたミリス。
男は……。ゆっくりと、その指を握った。
「へへっ。さすがは美人。安かねぇな」
「そうかしら。お店だったら、もっとするのよ?」
「……いいさ。払ってやる」
二人の指が、複雑に絡み合う。
路地裏の、さらに奥へと……歩みを進めた。
……彼女が、かつて、この街で暮らしていた、エイリャーン家の令嬢、ミリス・エイリャーンだと気が付く者は、誰一人としていないだろう。
隣国で、娼婦として大金を稼ぎ、生活にも余裕が出てきたミリスは、二年ぶりに、王都へと戻っていた。
とはいえ、長く留まるつもりはない。
自分が休めば、店にも迷惑がかかる。
せっかく掴んだ、指名一位の称号を、自ら手放すようなことは、したくなかった。
かつて、自分の家があった場所には、すでに別の建物が建っていた。
貴族の家など、残しておいたところで、扱いづらいだけ。きっとすぐに取り壊されてしまったのだろう。
どこにも、自分の暮らした面影が無いことに、ミリスは、切なくなったが、ぐっと涙をこらえた。
次に向かったのは、末期患者を収容する施設。
受付で、ビアール・エイリャーンの名前を告げると、すでに死んだと返されてしまった。
……予測できていたことだったが、いざ現実を叩きつけられると、胸が締め付けられる想いになる。
フラフラと、施設を後にしたミリスは、ただ茫然と、路地裏で立ちつくしていた。
なぜ、路地裏に向かったか。
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その助手として……。
さらに、妻として。
彼を支え続けた、アンリカのことは、大きく取り上げられていた。
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たった一つの出来事が、ここまで明暗を分けてしまうのか。
……自分は、そんなに、酷いことをしたのだろうか。
ミリスは、未だに、自分の境遇に、納得できていなかった。
しかし、プライドだけは、見事捨て去ることに成功している。
今のミリスは、金を稼ぐことができるのなら、手段は選ばなかった。
「おいおめぇ。こんなとこで何ボーっとしてんだ?」
小太りの男が、声をかけてきた。
ミリスは、ゆっくりと顔をあげ、男の身なりを確認する。
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「いいえ? 素敵な男性が、やってくるのを、ただ待っていただけよ?」
「……いくらだ?」
「これでどう?」
数本の指を立てたミリス。
男は……。ゆっくりと、その指を握った。
「へへっ。さすがは美人。安かねぇな」
「そうかしら。お店だったら、もっとするのよ?」
「……いいさ。払ってやる」
二人の指が、複雑に絡み合う。
路地裏の、さらに奥へと……歩みを進めた。
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