悪役令嬢に難癖をつけられ、飼い犬と共に国外追放されましたが、私は聖女、飼い犬は聖獣になりました。

冬吹せいら

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抵抗の音

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シーナが聖女として目覚める一方で――。

カーペンハイト家の執事、ボスティは、自室で頭を抱えていた。

(このままカーペンハイト家にこの城下街を支配されていては、また同じ悲劇が起きてしまう……)

ボスティがカーペンハイト家で働き出したのは、ちょうど四十年ほど前。
そもそもこの城下町は、比較的自由で、貴族の拘束もほとんどなかった。

そこへ目を付けたカーペンハイト家が、他国から引っ越してきて、勝手に支配を始めたのだ。
本来それを抑制するはずの王族は、カーペンハイト家に大金を支払われており、ほとんどの権利を認めてしまっている。彼らに口を出せるものは、この国にいなくなってしまった。

ボスティは元々、小さなカフェで働いていたが、カーペンハイト家が、ボスティの真面目さを評価し、執事として雇うと言い出したのだ。ボスティは断ったが、断ればカフェを潰すと言われ、渋々了承。何度も辞職を申し出たが、そのたびに、ボスティと縁の深い店を潰すと言われ、今日まで働き続けている。

……しかし。とうとう孤児院にまで、その魔の手が及んだことで、ボスティは我慢の限界を迎えていた。

孤児院の院長、メリカ―は、かつてカフェの常連客だった。こんなことがなければ、きっと自分たちは――。ボスティは毎日、そんな思いで、胸が張り裂けそうだった。

「ボスティ!ちょっと来て!」

ノックもせずに、カーペンハイト家の令嬢、マレンヌが入って来た。ボスティは慌てて、ノートを閉じ、マレンヌと向き合う。

「いかがされましたかな。お嬢様」
「部屋に虫が出たの。やっつけて?」
「虫……。ですか?」
「そうよ。とっても大きな虫なの」

ただでさえ、日中こき使われ、疲れているというのに、こうもくだらない理由で呼び出されては……。ボスティはそう思ったが、ぐっと堪えて、マレンヌの部屋に向かった。

「あぁ!あれよ!あれ!」

マレンヌの部屋は、散らかり放題だった。メイドは数人雇われているが、マレンヌに逆らった瞬間、クビにされてしまうので、誰も部屋を片付けろなどという者はいなかった。

マレンヌの指差した先にいたのは……。小さなハエだ。これだけ汚い部屋なら、ハエの一匹や二匹、出てもおかしくない。ボスティは、ささっとハエを潰した。

「お嬢様。これで問題無いかと」
「ふんっ。相変わらずノロマね!早く部屋から出て行ってよ!」

マレンヌに尻を叩かれ、ボスティは逃げるようにして、部屋を出た。

……なぜあのような、可愛げの無い小娘に、こうも虐げられなければいけない。

孤児院の子供たちは、とても礼儀正しく、優しい子に育っている。それはきっと……。シーナという、一番年上の女の子のおかげだろう。

そんなシーナを、今日自分は、街から追い出してしまったのだ。

英雄のブローチが、少しでも役に立つといいのだが……。

「……もはや、これまでか」

部屋に戻ったボスティは、再びノートを広げた。

そこには――。カーペンハイト家の国外追放を支持する署名が、たくさん記入されている。

これを王に提出し、承諾されれば、カーペンハイト家は終わりだ。

しかし、王族はカーペンハイト家から、大金を受け取っている。そう簡単に縁を切ることはできないだろう。

「なにか、決め手があれば……」

ボスティは……。明日の予定を決めると、明かりを消して、ベッドに入った。
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