悪役令嬢に難癖をつけられ、飼い犬と共に国外追放されましたが、私は聖女、飼い犬は聖獣になりました。

優しい村人

馬車に乗ろうとしたら、犬は怖がるから乗せられないと言われ、歩くことにした。せいぜい三時間程度だ。馬車代が浮いたと思って、頑張ろう。

「ばうばう！」

ランバーは楽しそうだ。これだけ広い平地を走るのは、久しぶりだからだろう。

……一人だったら、きっと孤独に押しつぶされていたと思う。言葉が通じないとしても、仲間がいると安心だ。



地図に従って、歩いていると、ようやく見えてきた。カシュ―パ村だ。

「なるほど、そんな事情が……」
「はい……。お仕事のお手伝いをするので、どうか住まわせていただけませんか？」
「当然だよ。さぁさぁ。村を案内しよう」
「ありがとうございます！」

優しい村長さんでよかった。
彼の名前は、ボーウェル。まだ二十代くらいに見える。随分若い村長さんだ。

「うわぁ。何この可愛い子」

村の案内をしてもらっている最中で、とても美人なお姉さんとすれ違った。黒い髪が背中の真ん中あたりまで伸びていて、肌は少し焼けている。とても健康的な印象を受けた。

「ボーウェルあんた、まさか誘拐……」
「ろくでもないことを言うな！全く……」
「あ、あの。私はシーナ・アリオンです」
「あたしはサマリナだよ。みんなからはサマって呼ばれてる」

私はサマさんに、ここへ来た事情を話した。すると。

「うぅ……。かわいそうにねぇ」

泣き出してしまった……。

「お、おいサマ。お前が泣いてどうする」
「だってさぁ～。可哀そうじゃんこんな小さい子が～。シーナ、いつまでもこの村にいて良いからね？あたしが仕事は教えてやっからさ」
「はい……。ありがとうございます！」
「うん。で、この犬っころは？」
「この子はランバーです」
「ばうっ！」
「おお～元気だなぁ！んじゃ、あたしは薬草を摘みに行ってくるから。後でな～」

ボーウェルさんがため息をついた。

「すまないなシーナ。あいつはいつもあぁなんだ」
「いえ……。あんなに美しいのに、とても明るい方ですね」
「……そうなんだ。黙ってれば、すごく可愛いのに」

ボーウェルさんの顔が赤い。もしかして……。

……ううん。勝手な予想は良くないよね。

その後も様々な場所を案内してもらった。最後に、私の家を紹介してくれたのだが……。

「こ、こんな立派な家、いいんですか？」
「あぁ。ちょうど一年ほど前、大国に出稼ぎに行った夫婦がいてな……。帰ってこないんだ」

ボーウェルさんの表情が沈んだ。

「誰もいないと、なんだか切ないし、かといって、倉庫にするのも気が引けたから、シーナが住んでくれるのが一番いいよ」
「ありがとうございます……」

……孤児院にいた時よりも、広い部屋になった。料理をするための、魔法アイテムも充実している。体を洗う場所まであるし、恵まれすぎて申し訳なくなってしまうくらいだ。

「少ししたら、サマが迎えに来ると思う。それまでゆっくりしていてくれ」
「はいっ」

今日から、ここが私の家……。

受け入れてくれた、村のみんなのためにも、精一杯働こう！