3 / 14
お別れ
しおりを挟む
「ありがとうございます。メリカーさん」
「……寂しくなるねぇ」
ランバーが、カーペンハイト家の令嬢、マレンヌ様を噛んでしまった翌日。メリカーさんの知り合いが、私以外の孤児を引き連れ、朝から山へ向かった。
子供たちには、後で行くと伝えたが……。
……どうしよう。このままでは、泣いてしまう。
カーペンハイト家からは、その日のうちに、すぐ連絡が来た。明日の朝までは猶予を与えるから、準備をしておけと。
簡潔な文だけど、要するに国外追放だ。従わなければ、無理矢理にでも追い出される。その前に、自分から出て行くのが賢明だ。
……当然と言えば、当然だと思う。令嬢に大けがをさせてしまったのだから。命を奪われなかっただけ、マシだろう。
「シーナ。お前さんは強い子だ。きっとやっていけるさ」
「……はい」
「悔しいよ。抵抗したいが、この孤児院は、カーペンハイト家の援助を受けていることも事実だからね……。命には、等しく価値がある。だからこそ……。私が、多くを助けられる道を選んでしまった。本当に、申し訳ないねぇ」
「メリカーさん……。やめてください。笑顔で別れようって、決めたじゃないですか」
「……無理だよ。お前さんがここへやってきた時のことを、今でも思い出すんだ。絶望に満ちた目をしていた。この世の全てが憎い。そんな目だ。あれから七年経って……。こんなに立派な子に成長してくれたのに」
こらえきれなかった。
私はメリカーさんの胸の中で、声が枯れるくらい泣いてしまった……。
メリカーさんは、あの日と同じように、私の背中を優しく撫でてくれた。
自分の無力さを感じる。もし私に力があれば、こんな状況も、きっと解決できるのに。
しばらくして、ドアがノックされた。どうやらもう、兵が来たようだ。
「……行ってきます。メリカーさん、お元気で」
「シーナ。いつでも希望を捨てちゃダメだよ。未来は明るい。朝になれば必ず太陽が昇る。それを忘れないおくれ……」
私は頷いた。涙がこぼれた。
ドアを開けると……。兵ではなくて、ボスティさんが立っていた。
申し訳なさそうな顔を、私に向けている。
「えっ……。どうして、ボスティさんが?」
「私が申し出たのです。どうか、これを、お持ちください」
ボスティさんに手渡されたのは、英雄の紋章が刻まれたブローチだった。
「かつて、この国を救った勇者様の持ち物であるそうですが……。カーペンハイト家は、歴史を軽んじております。書庫の床に、雑に捨てられておりました」
「……どうして、これを私に?」
「それの価値がわかるものに見せれば、多少の金にはなるでしょう。もっとも、最近は平和ですゆえ、勇者の話も聞かなくなりましたが……」
「ありがとうございます」
「……この程度のことしかできず、申し訳ございません。私があの時、お嬢様をかばっていれば、このようなことには」
「そ、そんな……十分です。ありがとうございます」
ボスティさんに頭を下げた後、私はランバーを連れて、街を出た。
……ここに戻ってくることは、きっと無いのだろう。
「……寂しくなるねぇ」
ランバーが、カーペンハイト家の令嬢、マレンヌ様を噛んでしまった翌日。メリカーさんの知り合いが、私以外の孤児を引き連れ、朝から山へ向かった。
子供たちには、後で行くと伝えたが……。
……どうしよう。このままでは、泣いてしまう。
カーペンハイト家からは、その日のうちに、すぐ連絡が来た。明日の朝までは猶予を与えるから、準備をしておけと。
簡潔な文だけど、要するに国外追放だ。従わなければ、無理矢理にでも追い出される。その前に、自分から出て行くのが賢明だ。
……当然と言えば、当然だと思う。令嬢に大けがをさせてしまったのだから。命を奪われなかっただけ、マシだろう。
「シーナ。お前さんは強い子だ。きっとやっていけるさ」
「……はい」
「悔しいよ。抵抗したいが、この孤児院は、カーペンハイト家の援助を受けていることも事実だからね……。命には、等しく価値がある。だからこそ……。私が、多くを助けられる道を選んでしまった。本当に、申し訳ないねぇ」
「メリカーさん……。やめてください。笑顔で別れようって、決めたじゃないですか」
「……無理だよ。お前さんがここへやってきた時のことを、今でも思い出すんだ。絶望に満ちた目をしていた。この世の全てが憎い。そんな目だ。あれから七年経って……。こんなに立派な子に成長してくれたのに」
こらえきれなかった。
私はメリカーさんの胸の中で、声が枯れるくらい泣いてしまった……。
メリカーさんは、あの日と同じように、私の背中を優しく撫でてくれた。
自分の無力さを感じる。もし私に力があれば、こんな状況も、きっと解決できるのに。
しばらくして、ドアがノックされた。どうやらもう、兵が来たようだ。
「……行ってきます。メリカーさん、お元気で」
「シーナ。いつでも希望を捨てちゃダメだよ。未来は明るい。朝になれば必ず太陽が昇る。それを忘れないおくれ……」
私は頷いた。涙がこぼれた。
ドアを開けると……。兵ではなくて、ボスティさんが立っていた。
申し訳なさそうな顔を、私に向けている。
「えっ……。どうして、ボスティさんが?」
「私が申し出たのです。どうか、これを、お持ちください」
ボスティさんに手渡されたのは、英雄の紋章が刻まれたブローチだった。
「かつて、この国を救った勇者様の持ち物であるそうですが……。カーペンハイト家は、歴史を軽んじております。書庫の床に、雑に捨てられておりました」
「……どうして、これを私に?」
「それの価値がわかるものに見せれば、多少の金にはなるでしょう。もっとも、最近は平和ですゆえ、勇者の話も聞かなくなりましたが……」
「ありがとうございます」
「……この程度のことしかできず、申し訳ございません。私があの時、お嬢様をかばっていれば、このようなことには」
「そ、そんな……十分です。ありがとうございます」
ボスティさんに頭を下げた後、私はランバーを連れて、街を出た。
……ここに戻ってくることは、きっと無いのだろう。
2
お気に入りに追加
209
あなたにおすすめの小説

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました
富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。
転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。
でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。
別にそんな事望んでなかったんだけど……。
「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」
「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」
強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。
※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる