悪役令嬢に難癖をつけられ、飼い犬と共に国外追放されましたが、私は聖女、飼い犬は聖獣になりました。

冬吹せいら

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お別れ

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「ありがとうございます。メリカーさん」
「……寂しくなるねぇ」

ランバーが、カーペンハイト家の令嬢、マレンヌ様を噛んでしまった翌日。メリカーさんの知り合いが、私以外の孤児を引き連れ、朝から山へ向かった。

子供たちには、後で行くと伝えたが……。
……どうしよう。このままでは、泣いてしまう。

カーペンハイト家からは、その日のうちに、すぐ連絡が来た。明日の朝までは猶予を与えるから、準備をしておけと。

簡潔な文だけど、要するに国外追放だ。従わなければ、無理矢理にでも追い出される。その前に、自分から出て行くのが賢明だ。

……当然と言えば、当然だと思う。令嬢に大けがをさせてしまったのだから。命を奪われなかっただけ、マシだろう。

「シーナ。お前さんは強い子だ。きっとやっていけるさ」
「……はい」
「悔しいよ。抵抗したいが、この孤児院は、カーペンハイト家の援助を受けていることも事実だからね……。命には、等しく価値がある。だからこそ……。私が、多くを助けられる道を選んでしまった。本当に、申し訳ないねぇ」
「メリカーさん……。やめてください。笑顔で別れようって、決めたじゃないですか」
「……無理だよ。お前さんがここへやってきた時のことを、今でも思い出すんだ。絶望に満ちた目をしていた。この世の全てが憎い。そんな目だ。あれから七年経って……。こんなに立派な子に成長してくれたのに」

こらえきれなかった。
私はメリカーさんの胸の中で、声が枯れるくらい泣いてしまった……。

メリカーさんは、あの日と同じように、私の背中を優しく撫でてくれた。
自分の無力さを感じる。もし私に力があれば、こんな状況も、きっと解決できるのに。


しばらくして、ドアがノックされた。どうやらもう、兵が来たようだ。

「……行ってきます。メリカーさん、お元気で」
「シーナ。いつでも希望を捨てちゃダメだよ。未来は明るい。朝になれば必ず太陽が昇る。それを忘れないおくれ……」

私は頷いた。涙がこぼれた。

ドアを開けると……。兵ではなくて、ボスティさんが立っていた。

申し訳なさそうな顔を、私に向けている。

「えっ……。どうして、ボスティさんが?」
「私が申し出たのです。どうか、これを、お持ちください」

ボスティさんに手渡されたのは、英雄の紋章が刻まれたブローチだった。

「かつて、この国を救った勇者様の持ち物であるそうですが……。カーペンハイト家は、歴史を軽んじております。書庫の床に、雑に捨てられておりました」
「……どうして、これを私に?」
「それの価値がわかるものに見せれば、多少の金にはなるでしょう。もっとも、最近は平和ですゆえ、勇者の話も聞かなくなりましたが……」
「ありがとうございます」
「……この程度のことしかできず、申し訳ございません。私があの時、お嬢様をかばっていれば、このようなことには」
「そ、そんな……十分です。ありがとうございます」



ボスティさんに頭を下げた後、私はランバーを連れて、街を出た。

……ここに戻ってくることは、きっと無いのだろう。
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