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変わらない愛
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「久しぶりだね。ニーザ」
懐かしい声。
……かつて、私と婚約していた、リバーグだ。
ユレースに見せている幻想から、一旦抜け出し、私は現実の相手をすることした。
「そのまま成長したのね。リバーグ」
「そのまま、というのは?」
「想像通りの……。大人になった。そういう意味よ」
「なるほどね。君は……。随分変わってしまったようだけど」
そう言って、リバーグは笑った。
「君は、僕を殺さないのかい?」
「どうしてあなたを殺すの?」
「あの時……。君の味方をしてやることが、できなかったから」
「そんなこと……。あの女への復讐心に比べたら、なんでもないわ」
目の前で目を見開いて、浅い呼吸を繰り返し、幻想を見ているユレースに、視線をやった。
リバーグが、こちらに近づいてくる。
「ユレースは、どうなったんだい?」
「私の魔法で、幻想を見せているの」
「どんな幻想を?」
「マースに……。痛いことをされる幻想よ」
「それは……。なるほど」
「あなたは、私に殺してほしかったの?」
怯むことなく、リバーグは、私を見つめている。
そして、首を横に振った。
「まだ、死ねないかな。やりたいことが、たくさんあるんだ」
「例えば?」
「……その内の一つは、終わってしまったよ」
「そうなのね」
「君の無罪を証明し、ユレースに復讐することだ」
思わず、笑ってしまった。
「十四歳の僕は、何もできなかった。だけど、今なら……。ってね。色んな方法を考えたけど、過去起きたことを証明するのは、不可能だった」
「ごめんなさいね。勝手にやってしまって」
「いいさ……。君が、するべきだったんだ。最初から」
やっぱり、この人は、そのまま成長したんだと思い知らされる。
誠実で……。私のことを、想ってくれていた。
「ユレースのことは、任せたわ。もう、幻想に戻るのも嫌になってしまったの。マースが……。ちゃんと、やってくれているはず」
「そうかい。……じゃあ、君の復讐は、これで?」
「えぇ。最後に……。私が死んで、それで終わり」
「……えっ?」
リバーグが、目を見開いた。
「待ってくれ。全て終わったんだ。君が死ぬ必要は、どこにも――」
「いいえ。私は、多くの人の命を奪ったわ。例えそれが、あの日私に、石や、汚い言葉をぶつけてきた、悪しき人間だったとしても……。人であることに、変わりはない。私は死ぬべきなのよ」
「違う。そんなことはない。ニーザ、君は――」
「私が死んだら、ユレースの幻想は終わらないわ……。命が尽きるまで、ずっと苦しみ続ける……。だから、どこか、邪魔にならない場所にでも、住まわせてあげて」
なかなか、リバーグが頷いてくれない。
どうしてだろう。私は……。きちんと、説明しているのに。
「だったら。もういいよ」
ようやく、わかってくれたのだろうか。
そう思って、安心しようとした。
……その瞬間、リバーグに、抱きしめられた。
十年ぶりに、人のぬくもりに触れた肌が、痙攣を起こしている。
震える手を、リバーグの背中に回した。
「……もう、僕は死ぬことにする」
「え……」
「死にたくないけどね。……君に殺されるだろうって、思っていたわけだから、覚悟はできてるよ」
「あなたが死ぬ必要なんて、どこにもないわ。なんで――」
「そうだよ。僕が死ぬ必要は、君が求めない限り、無いだろう……。だから、死なせないでくれ。一緒に生きよう。ダメかな?」
気が付くと、私たちは、十年前のように……。
しっかりと、抱きしめ合っていた。
「私は、魔女よ?」
「知ってる」
「多くの人を殺した。悪しき魔女」
「うん」
「……二度と、人と交わることはできない存在、なのよ?」
「僕意外のね」
「……」
何も、考えられなかった。
人と、会話していなさすぎたんだ。
復讐心が消えた私の中に……。愛が注がれてしまった。
この気持ちに、抗うことはできない。
「もっと、強く抱きしめて……」
「あぁ……」
二十四歳の、リバーグの温もりは……。
記憶よりも、遥かに暖かかった。
懐かしい声。
……かつて、私と婚約していた、リバーグだ。
ユレースに見せている幻想から、一旦抜け出し、私は現実の相手をすることした。
「そのまま成長したのね。リバーグ」
「そのまま、というのは?」
「想像通りの……。大人になった。そういう意味よ」
「なるほどね。君は……。随分変わってしまったようだけど」
そう言って、リバーグは笑った。
「君は、僕を殺さないのかい?」
「どうしてあなたを殺すの?」
「あの時……。君の味方をしてやることが、できなかったから」
「そんなこと……。あの女への復讐心に比べたら、なんでもないわ」
目の前で目を見開いて、浅い呼吸を繰り返し、幻想を見ているユレースに、視線をやった。
リバーグが、こちらに近づいてくる。
「ユレースは、どうなったんだい?」
「私の魔法で、幻想を見せているの」
「どんな幻想を?」
「マースに……。痛いことをされる幻想よ」
「それは……。なるほど」
「あなたは、私に殺してほしかったの?」
怯むことなく、リバーグは、私を見つめている。
そして、首を横に振った。
「まだ、死ねないかな。やりたいことが、たくさんあるんだ」
「例えば?」
「……その内の一つは、終わってしまったよ」
「そうなのね」
「君の無罪を証明し、ユレースに復讐することだ」
思わず、笑ってしまった。
「十四歳の僕は、何もできなかった。だけど、今なら……。ってね。色んな方法を考えたけど、過去起きたことを証明するのは、不可能だった」
「ごめんなさいね。勝手にやってしまって」
「いいさ……。君が、するべきだったんだ。最初から」
やっぱり、この人は、そのまま成長したんだと思い知らされる。
誠実で……。私のことを、想ってくれていた。
「ユレースのことは、任せたわ。もう、幻想に戻るのも嫌になってしまったの。マースが……。ちゃんと、やってくれているはず」
「そうかい。……じゃあ、君の復讐は、これで?」
「えぇ。最後に……。私が死んで、それで終わり」
「……えっ?」
リバーグが、目を見開いた。
「待ってくれ。全て終わったんだ。君が死ぬ必要は、どこにも――」
「いいえ。私は、多くの人の命を奪ったわ。例えそれが、あの日私に、石や、汚い言葉をぶつけてきた、悪しき人間だったとしても……。人であることに、変わりはない。私は死ぬべきなのよ」
「違う。そんなことはない。ニーザ、君は――」
「私が死んだら、ユレースの幻想は終わらないわ……。命が尽きるまで、ずっと苦しみ続ける……。だから、どこか、邪魔にならない場所にでも、住まわせてあげて」
なかなか、リバーグが頷いてくれない。
どうしてだろう。私は……。きちんと、説明しているのに。
「だったら。もういいよ」
ようやく、わかってくれたのだろうか。
そう思って、安心しようとした。
……その瞬間、リバーグに、抱きしめられた。
十年ぶりに、人のぬくもりに触れた肌が、痙攣を起こしている。
震える手を、リバーグの背中に回した。
「……もう、僕は死ぬことにする」
「え……」
「死にたくないけどね。……君に殺されるだろうって、思っていたわけだから、覚悟はできてるよ」
「あなたが死ぬ必要なんて、どこにもないわ。なんで――」
「そうだよ。僕が死ぬ必要は、君が求めない限り、無いだろう……。だから、死なせないでくれ。一緒に生きよう。ダメかな?」
気が付くと、私たちは、十年前のように……。
しっかりと、抱きしめ合っていた。
「私は、魔女よ?」
「知ってる」
「多くの人を殺した。悪しき魔女」
「うん」
「……二度と、人と交わることはできない存在、なのよ?」
「僕意外のね」
「……」
何も、考えられなかった。
人と、会話していなさすぎたんだ。
復讐心が消えた私の中に……。愛が注がれてしまった。
この気持ちに、抗うことはできない。
「もっと、強く抱きしめて……」
「あぁ……」
二十四歳の、リバーグの温もりは……。
記憶よりも、遥かに暖かかった。
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