王子が浮気したので、公爵家の出番ですね。

冬吹せいら

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書庫の整理

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 南の国の王子とリンダが結婚したことにより、両国の関係はより一層強固になった。
 元々大陸において力を持っていた両国なので、必然的に大陸全体が平和主義へと傾いていくことに……。

「リンダ。また書庫の整理かい?」
「はい。……にしてもこの書庫は酷いですよ。ここ最近の本はまだしも、古い物は埃を被ってしまっていて、表紙のタイトルすら読むことができません」
「そ、そうなんだ……」

 リンダが南の国に移り住んでからというもの、王宮だけでなく、街中も綺麗になり始めていた。
 元々公爵家の令嬢として、人々との関係を構築するのが得意だった彼女は、あっという間に国民に受け入れられ、特に女性からは、非常に慕われている。

「なるほど。あの国がいつ行っても綺麗な理由がわかったよ……」

 テオは笑顔でため息をついた。

「テオ様は中に入らないでください。大変不衛生ですので」
「よいしょっと」
「ちょっと!」

 リンダの要求を無視して、テオは本の山を避けつつ、書庫の奥へと足を踏み入れていった。

「こりゃあすごいね。ここまで埃って溜まるものなんだ……」
「身体に悪いですから。あまり呼吸をしない方が良いですよ」
「君だって……。もう何時間ここにいるんだい?」
「私は回復魔法がありますから。丸三日くらいは、働いても問題ありません」

 本を拭きながら、きっぱりと答えるリンダ。
 そんなリンダを……。
 テオが、後ろから抱きしめた。

「なっ――」
「書庫の整理が終わったら、一緒に紅茶でもどうだろう。……そんな話をしたことは、覚えているかい?」
「もちろん……。あの、私の服は汚れていますから。抱きしめるなんて……」
「良いんだ」
「うっ……」

 人の体温に触れる機会が、そこまで多くなかったリンダ。
 テオと結婚してからは、人間との物理的なコミュニケーションの力を、身を持って感じる機会も増えた。
 その度に、どうしていいかわからず、ただ体を震わせるばかり……。

「……困ります」

 そんな冷たい言葉しか出てこない。

「困らせているんだよ」

 しかし、テオもそれで引き下がることはない。
 この少し臆病で、真面目な令嬢の心を少しづつ溶かしていく……。
 そんな覚悟があったから、こうして結婚したのだ。

「僕も手伝うよ。二人で進めれば、きっと早く紅茶を飲むことができるだろう?」
「しかし……」
「手伝わせてくれるまで、抱きしめ続けるつもりだけど」
「……」
「……リンダ?」
「……それも、良いのかもしれません」
「おっ……」

 抱きしめているリンダの体温が、少し上がったような気がした。
 あるいは、テオ自身の方かもしれない。
 
 結局二人は、少しの間……。そのままの状態で過ごしたそうだ。
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