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見捨てられる姉

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「お金を貸してほしいの」

 家を訪れたミゼスの一言に、ギャレンは驚いた。

「か、金……ですか?」
「えぇそうよ。お金」
「どうして突然……」
「理由なんてどうでもいいじゃない。ね?」

 ミゼスはギャレンの腕に絡みつき、頬にキスをした。

「お金はどうにもなりません……。僕は次男ですから、好き勝手使うことはできないんです」
「でも、頼み込めばなんとかなるでしょう?」
「そんなこと……」
「ねぇお願い……。私、あなたのことが好きなの」

 ギャレンが、ミゼスの体を振り払った。
 突然の出来事に、ミゼスは目を見開く。

「……無理なものは、無理なんです。どうしてお金が必要なのですか? 誰かに弱みを握られているのであれば、父上と相談します。真実を教えてください」

 ギャレンの情緒は、大変不安定だった。
 婚約者を裏切ってしまい、ミゼスの誘惑に堕ちてしまった自分自身への罪悪感。
 そして……。将来への不安。
 
 冷静に考えれば、伯爵家の身分で、侯爵家の令嬢を裏切ったことは、重罪と言えてしまう。
 いつ制裁を下されるか。それを考えるだけでも眠れない日々を過ごしていた。

「……リズに奪われたのよ」

 ミゼスは大きな嘘をついた。

「リズが、私にあなたを奪われたことに腹を立てて、全ての資産を奪ったの」

 そんなことが起こりうるはずがない。
 これほど見え透いた嘘に騙されるギャレンではなかった。

「……リズは、そんなことはしませんよ」

 婚約者であるギャレンは、嫌というほどリズの性格を理解していた。
 非常に冷静で、誰に対しても厳しい。
 もし婚約者を奪われたら、資産を奪うだなんてことはせず……。

 ――もっと酷い目に遭わせるだろう。

 自分が婚約者としての価値が低いとしても、リズならやるはずだ。
 そんな確信があった。

「そもそも、ミゼス様は……。奪われるほどの資産をお持ちでしたか?」
「なんですって……?」

 ミゼスはギャレンを睨みつけた。

「私は侯爵家の長女よ? それはもう莫大な資産を持っていたわ」
「それは侯爵家の資産であって、あなたの資産ではないはずです!」
「黙りなさい! 良いからお金を貸しなさいよ! まともにお茶会も開けないの!」

 とうとうミゼスは、本性を現した。
 ギャレンはすっかり冷めきって、目の前のわがままな令嬢の誘惑に負けた自分に、嫌気がさした。

「もう帰ってください。僕は疲れました……」
「は、はぁ? なによそれ。一方的すぎるじゃない!」

 ギャレンの合図で、執事が二人現れ……。
 ミゼスは無理矢理、伯爵家から追い出されてしまった。

「なんなのよ……! 絶対に許さないわ! あいつ!」
「……どうなさいましたか?」

 門の外で倒れていたミゼスに、話しかけたのは……。

「……リズ!」
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