18 / 20
第18話 和解
しおりを挟む
「ほら。なんともなかったでしょう?」
「今回はね……」
医者に診てもらった結果、やはりロハーナ本人の言う通り、緊張の糸が切れたことによってホッとした結果、少し立ち眩みのような表情が現れただけだろうとのことだった。
それでもマイクは、厳しい表情をロハーナに向けている。
「ロハーナ。自覚できないほど緊張状態だったという事実から、目を背けてはいけないよ」
「わかっています。……しばらく休みますから。もうこれで急を要する仕事は無いので。式の日に着るドレスを選ぶくらいでしょうか」
コンコンと、ドアがノックされた。
マイクが開けると、立っていたのはウリアだった。
「どうぞ」
ロハーナが言うと、ウリアはゆっくりとした足取りで、ロハーナの元へと向かう。
「……まず、何事も無くて良かったわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「今の私であれば、簡単に殺せると思いますよ?」
「ロハーナ……」
マイクが窘めたが、ロハーナは軽く手を振っただけだった。
「しかしどうやら、武器は持っていないようですね。毒薬も……。喉元を噛み切って殺すなんてのも、面白いかもしれません。あるいは――」
「ごめんなさい!」
ウリアが、ロハーナに頭を下げた。
ロハーナは目を見開き、どうして良いかわからず、髪を忙しく触っている。
「謝って済む問題じゃないのはわかっているわ。私は子供だった。この短期間ですぐに気が付くことができるほど、あからさまに未熟で、クソガキで、何もわかってないただのアホ令嬢で……」
「ウリア様、その……」
「私をボコボコにしてちょうだい!」
「え……」
「早く! ねぇ殴って!」
ウリアが、ロハーナの手を掴んだ。
そして、拳を作らせ、自分の頬に当てる。
「ほら早く! 覚悟はできてるわ!」
「人を殴ったことなどありません……」
「じゃあマイク! あなたでも良いわ!」
「無理ですよ……」
「それなら自分で殴るわ!」
「ま、待ってください」
拳を握りしめたウリアを、マイクが慌てて止めた。
「……なんてね。そんな勇気無いわよ。私はビビりで、弱っちぃ人間なの。……当主なんて、どの口が言うのかしら。呆れてしまうわ」
正直ロハーナは、ここまで教育プログラムが上手くいくとは思っていなかった。
よほどこれまでの人生に、愛と感謝が足りていなかったのだろうと、同情する気持ちすら湧いてくる。
「……ウリア様。こちらに来てください」
ウリアは、とうとう殴られるのかと、覚悟を決めて、ロハーナに頬を差し出した。
しかし、当然ロハーナにそのつもりは無い。
ウリアの頭を、優しく撫でたのだ。
「ロ、ロハーナ。なんで……」
「反省し、己を改善することができる人は……。とっても偉いからです」
「あぅう……」
「な、ど、どうして泣くのですか?」
「だって、だってぇ……!」
ウリアはロハーナの胸元に顔を埋めた。
困惑したロハーナは、マイクに目を向けるが、マイクは口笛を吹いている。
働きすぎた罰だろうか。どうやらしばらくの間、この可愛い令嬢を慰めなければいけないらしい。
ロハーナはため息をついたあと、ウリアを抱きしめ返して、優しく頭を撫で始めた。
「今回はね……」
医者に診てもらった結果、やはりロハーナ本人の言う通り、緊張の糸が切れたことによってホッとした結果、少し立ち眩みのような表情が現れただけだろうとのことだった。
それでもマイクは、厳しい表情をロハーナに向けている。
「ロハーナ。自覚できないほど緊張状態だったという事実から、目を背けてはいけないよ」
「わかっています。……しばらく休みますから。もうこれで急を要する仕事は無いので。式の日に着るドレスを選ぶくらいでしょうか」
コンコンと、ドアがノックされた。
マイクが開けると、立っていたのはウリアだった。
「どうぞ」
ロハーナが言うと、ウリアはゆっくりとした足取りで、ロハーナの元へと向かう。
「……まず、何事も無くて良かったわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「今の私であれば、簡単に殺せると思いますよ?」
「ロハーナ……」
マイクが窘めたが、ロハーナは軽く手を振っただけだった。
「しかしどうやら、武器は持っていないようですね。毒薬も……。喉元を噛み切って殺すなんてのも、面白いかもしれません。あるいは――」
「ごめんなさい!」
ウリアが、ロハーナに頭を下げた。
ロハーナは目を見開き、どうして良いかわからず、髪を忙しく触っている。
「謝って済む問題じゃないのはわかっているわ。私は子供だった。この短期間ですぐに気が付くことができるほど、あからさまに未熟で、クソガキで、何もわかってないただのアホ令嬢で……」
「ウリア様、その……」
「私をボコボコにしてちょうだい!」
「え……」
「早く! ねぇ殴って!」
ウリアが、ロハーナの手を掴んだ。
そして、拳を作らせ、自分の頬に当てる。
「ほら早く! 覚悟はできてるわ!」
「人を殴ったことなどありません……」
「じゃあマイク! あなたでも良いわ!」
「無理ですよ……」
「それなら自分で殴るわ!」
「ま、待ってください」
拳を握りしめたウリアを、マイクが慌てて止めた。
「……なんてね。そんな勇気無いわよ。私はビビりで、弱っちぃ人間なの。……当主なんて、どの口が言うのかしら。呆れてしまうわ」
正直ロハーナは、ここまで教育プログラムが上手くいくとは思っていなかった。
よほどこれまでの人生に、愛と感謝が足りていなかったのだろうと、同情する気持ちすら湧いてくる。
「……ウリア様。こちらに来てください」
ウリアは、とうとう殴られるのかと、覚悟を決めて、ロハーナに頬を差し出した。
しかし、当然ロハーナにそのつもりは無い。
ウリアの頭を、優しく撫でたのだ。
「ロ、ロハーナ。なんで……」
「反省し、己を改善することができる人は……。とっても偉いからです」
「あぅう……」
「な、ど、どうして泣くのですか?」
「だって、だってぇ……!」
ウリアはロハーナの胸元に顔を埋めた。
困惑したロハーナは、マイクに目を向けるが、マイクは口笛を吹いている。
働きすぎた罰だろうか。どうやらしばらくの間、この可愛い令嬢を慰めなければいけないらしい。
ロハーナはため息をついたあと、ウリアを抱きしめ返して、優しく頭を撫で始めた。
1
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】婚約破棄され処刑された私は人生をやり直す ~女狐に騙される男共を強制的に矯正してやる~
かのん
恋愛
断頭台に立つのは婚約破棄され、家族にも婚約者にも友人にも捨てられたシャルロッテは高らかに笑い声をあげた。
「私の首が飛んだ瞬間から、自分たちに未来があるとは思うなかれ……そこが始まりですわ」
シャルロッテの首が跳ねとんだ瞬間、世界は黒い闇に包まれ、時空はうねりをあげ巻き戻る。
これは、断頭台で首チョンパされたシャルロッテが、男共を矯正していくお話。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
役立たずの追放聖女は、可愛い神聖獣たちになつかれる唯一の存在でした
新野乃花(大舟)
恋愛
聖女の血を引くという特別な存在であることが示された少女、アリシラ。そんな彼女に目を付けたノラン第一王子は、その力を独り占めして自分のために利用してやろうと考え、アリシラの事を自身の婚約者として招き入れた。しかし彼女の力が自分の思い描いたものではなかったことに逆上したノランは、そのまま一方的にアリシラの事を婚約破棄の上で追放してしまう。すべてはアリシラの自業自得であるという事にし、深くは考えていなかったノランだったものの、この後判明するアリシラの特別な力を耳にしたとき、彼は心の底から自分の行いを後悔することとなるのであった…。
何でもするって言うと思いました?
糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました?
王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる