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ありえない婚約破棄

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「ミュシー……。申し訳ないが、君との婚約を、なかったことにさせてもらいたい」
「……え?」

ギルガム様に呼び出されて、何の話をされるかと思えば……。
全く、想定もしていなかった話題だった。

「何かの冗談ですよね? だって、私たち、何不自由なく、関係を育んでいたじゃありませんか」
「……君が悪いわけじゃないんだ」
「じゃあ、どうして……」
「いや、誰も悪くない。強いて言うなら、悪いのは僕だ」

ギルガム様が、悔しそうな顔をしている。

「なにか……。あったのですか?」
「病気なんだよ」
「びょ、病気?」
「あぁ。胸が熱くなるようで……」
「それは大変……。すぐに、お医者様を!」
「いや、違うんだ。ミュシー……。聞いてくれ。……胸が熱くなるのは、君の妹、ヒーナを見ている時なんだよ」
「……」

気持ちが、スーッと、冷めていくのがわかった。
この人は……。堂々と、何を言っているのだろう。

「まさか……。ヒーナに惚れてしまったから、私との婚約をなかったことにしたいと。そう申されるのですか?」
「あぁ……」

何が、強いて言うなら、悪いのは自分だ。
完全に、ギルガム様が悪いじゃないか!
呆れた……。男って、どうしてこう、惚れっぽいの?

「ヒーナに、この思いを伝えたい。きっと彼女は、突然の出来事に、混乱すると思う。だけど、愛の力があれば、乗り越えられるはずなんだ!」
「盲目的すぎます……。ありえないですよ。だって、冷静に考えてみてください。婚約者の妹に惚れてしまったから、婚約破棄? 聞いたことありませんそんな話」
「だが、あの胸の高鳴りは、本物なんだ……。許してくれ。ミュシー」

ギルガム様が、頭を下げてきた。
私に言われても……。
こんなの、両家の親が、許すわけがない。

それに、いきなり好意を伝えられたところで、ヒーナも困るだろう。
今までヒーナとギルガム様は、数回程度しか、顔を合わせたことがないのだから。

「……とりあえず、一晩考えてみてください。そうすれば、自分の考えがおかしいことに、気が付けると思います」
「あぁ……。そうだね。じゃあ、明日の午後、君の家に行こう。そこで……。君の両親とも、話をさせてもらうさ」
「……はい。じゃあ、今日はこれで」
「うん。ありがとう。ミュシー」

どうしてこんなに、屈託の無い笑顔を浮かべられるんだろう……。

悪い人じゃないのは、確かだけど、あまりにバカすぎると思う。

このことを、これから家に帰って、両親に報告するのが、とても面倒だ。
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