無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。

冬吹せいら

文字の大きさ
上 下
11 / 12

崩壊の知らせ

しおりを挟む
学長の誘いを断り、村に戻ってから、三日ほど経過した。
私はいつも通り、畑に祈りを捧げながらも、ずっと指輪のことが気がかりだった。

結局、あの日学長の誘いを断ったあと、両親にも協力してもらって、色々な場所を探したけれど、見つからなくて……。

悲しいけれど、仕方ない。
気がかりではあったけれど、大好きな人たちに囲まれながらの幸せな日々があるから、それで十分だった。

そんなある日のこと。

「ケイト。アルビナ先生から、手紙が届いたみたいだよ」
「アルビナ先生から……」

私はお父さんから受け取った手紙を開封した。

『ケイト。久しぶりね。私の名前を見た瞬間に、あなたはこれを読まずに破り捨てるかもしれないけど、運よくこの文を読んでくれているのだとしたら、それはとても幸運なことだわ。どうか最後まで読んでね』

少し、字が震えていた。
アルビナ先生は、とても字が綺麗な印象だ。
きっと、学園のことで、心労が溜まっているのだろう。

『まず、フリージオ家だけど、国外追放が決まったわ。学園への不透明な寄付、そしてその使い道が公になってしまった。それから、長男のフリオラのこれまでの悪態も、ようやく取り締まられるようになって……。全ての原因は、学長があなたを、聖女として国に残すことに失敗したからなの。王が怒って、彼らを追い出すことに決めた。もちろん財産は全て没収』

『国外追放と言えば、それまでだけど、実際はもっと酷いわ。フリージオ家はみんな、服すら着せられないまま、どこかの平地へ捨てられたらしいの。唯一、マオラだけは……。兵を癒す仕事を与えられたらしいけど』

……そんなことが。
あれから三日しか経っていないのに……。いや、実際はこの手紙が書かれる前に起きた出来事なのだから、三日も経ってないことになる。
あまりに残酷な末路だと思った。

マオラは私を虐めた張本人だけど、それでも少し、胸が痛む。

『私たち学園の教師は、みんな牢獄行きよ。それでも、少しだけ猶予を与えられたの。だからあなたに、こうして手紙を書いている……。本当にごめんなさいケイト。私があなたの才能に気が付けていれば、きっとこんな結末にはならなかった。あなたがあの学園の一番になっていたかもしれなかった』

『手紙を出してから、私は毒を飲みます。牢獄に入ってから、きっと男は殺され、女は……』

『さようなら、ケイト。汚い文字でごめんなさい。震えが止まらないの』

そこで、手紙は終わっていた。
……あれだけ私を叱っていた先生が、こんな手紙を送ってくるなんて。

私は、日々の幸せを噛みしめて生きていこう。そんな風に思った。

「ケイト!」

元気な声と共に、ドアが開かれた。バトラーだ。

「バトラー。どうしたの?」
「実はちょっとさ……。話があるんだよ」
「話?」
「うん……。いいかな」

バトラーの顔が赤い。
私の沈んでいた気持ちは、すぐに明るくなった。

こんな残酷な現実を知ったばかりなのに……。だけど、報いと言えば、それまでなのかもしれない。

私はバトラーと手を繋ぎ、家を出た。

きっとこの空気は――。私たちの今後についての話をするつもりなんだと思う。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗
恋愛
平民であるフェルーナは、類稀なる魔法使いとしての才を持っており、聖女に就任することになった。 しかしそんな彼女に待っていたのは、冷遇の日々だった。平民が聖女になることを許せない者達によって、彼女は虐げられていたのだ。 さらにフェルーナには、本来聖女が受け取るはずの報酬がほとんど与えられていなかった。 聖女としての忙しさと責任に見合わないような給与には、流石のフェルーナも抗議せざるを得なかった。 しかし抗議に対しては、「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」といった心無い言葉が返ってくるだけだった。 それを受けて、フェルーナは聖女をやめることにした。元々歓迎されていなかった彼女を止める者はおらず、それは受け入れられたのだった。 だがその後、王国は大きく傾くことになった。 フェルーナが優秀な聖女であったため、その代わりが務まる者はいなかったのだ。 さらにはフェルーナへの仕打ちも流出して、結果として多くの国民から反感を招く状況になっていた。 これを重く見た王族達は、フェルーナに再び聖女に就任するように頼み込んだ。 しかしフェルーナは、それを受け入れなかった。これまでひどい仕打ちをしてきた者達を助ける気には、ならなかったのである。

国護りの力を持っていましたが、王子は私を嫌っているみたいです

四季
恋愛
南から逃げてきたアネイシアは、『国護りの力』と呼ばれている特殊な力が宿っていると告げられ、丁重にもてなされることとなる。そして、国王が決めた相手である王子ザルベーと婚約したのだが、国王が亡くなってしまって……。

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。

【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います

黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。 レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。 邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。 しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。 章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。 どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。 表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

聖女を騙って処刑されたと言われている私ですが、実は隣国で幸せに暮らしています。

木山楽斗
恋愛
聖女エルトナは、彼女を疎む王女の策略によって捕まっていた。 牢屋の前でやって来た王女は、エルトナのことを嘲笑った。王女にとって、平民の聖女はとても気に食わない者だったのだ。 しかしエルトナは、そこで牢屋から抜け出した。類稀なる魔法の才能を有していた彼女にとって、拘束など意味がないものだったのだ。 エルトナのことを怖がった王女は、気絶してしまった。 その隙にエルトナは、国を抜け出して、隣国に移ったのである。 王国は失態を隠すために、エルトナは処刑されたと喧伝していた。 だが、実際は違った。エルトナは隣国において、悠々自適に暮らしているのである。

処理中です...