無能と罵られた私だけど、どうやら聖女だったらしい。

冬吹せいら

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謝罪

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訓練場の中でも一番大きな、第四訓練場。

まるでコロッセオのような作りになっており……。席は、学園の生徒で埋まっている。

「ルールを説明しよう。物理的な攻撃は禁止。魔力を使った攻撃であるなら、何をしても良い。相手に、参ったと言わせた方の勝ちだ。以上」

学長の説明を聞いた後、マオラが首を回した。

「……降参するなら今の内よ?」

そして、私に対し、挑発的な視線をぶつけてくる。
私も負けじと、マオラを睨みつけた。

もう、あの時の私ではない。
きっと勝てる……。そんな期待は、時間が経つごとに、大きくなっていた。

「それはこっちのセリフだよ。私は負けて、退学になっても構わないけど……。マオラは困るでしょ?」
「負けないわよ。誰が言ってんの」
「……参った。だけじゃ、許さないから。ごめんなさい。許してください。今まであなたが私に言わせた、屈辱的な言葉――。全部言わせてやる」
「良い度胸ね……。もういいわ。始めましょう?」

マオラが、手のひらを私に向けた。

「エリオーブレイズ!!!」

そして、詠唱をすることもなく、火の塊をこちらに放ってきた!
私は即座に、その火が消える映像を思い浮かべた。すると、

「な、なんですって……?」

一瞬にして、火が煙に変わった。

マオラはさすがに、少し驚いた様子だったが、それならばと、今度は両手のひらを私に向ける。

「凍てつく刃よ! 我が怒りを切っ先に宿し……切り裂け! ガルフレッドブリザード!!!」

大きな氷の刃が、マオラの頭上に現れ……。私に向かって、振り落とされた。

私はその刃が、溶ける絵を思い浮かべる。

「……嘘でしょ?」

氷が解け、水になり、私たちに降りかかった。
その水をはじくイメージ。濡れたのはマオラだけだ。

「嘘よ。こんなの……。今のは本気だった」
「次は、こっちからいくよ」
「ひっ……」

……さて、どうしてやろうか。
やり返したいことは、たくさんある。
だけど、どうせなら、一番最近やられたことから、順番にしていった方がいいだろうか。

マオラに……。腹を蹴られ、唾をかけられた。それがきっかけとなって、私は退学を決意したのだ。
閃いた私は……。マオラの腹部に、痛みを与えるイメージをした。うまくいくかはわからないけど。

「っ!?」

すぐに、マオラがお腹を押さえ、苦しみ出した。どうやら成功したみたいだ。

「がっ……。あ、あなた、なにを」

私はさらに痛みを足した。

「うああああ!!!!! 痛い!!! 死ぬぅ!」

さすがにやりすぎてしまったようだ。
イメージすることをやめ、私はマオラを見降ろした。
まだ痛みが引かないようで、必死に油汗をかきながら、それでも私を睨みつけている。

「お前えぇえええ……。絶対許さないからぁ……」
「他にも色々してくれたよね? 髪の毛引っ張ったり」
「ひぎぃ!!」

髪を思いっきり引っ張るイメージをしたら、強すぎたみたいで、かなりの本数が抜けてしまった。

「痛あぁい!!!」
「あとは……。なんだろう」
「ま、参りました! もう無理ぃ!」
「ごめんなさいは?」
「なんですってぇ……? 言うわけないでしょ!」

……そう言えば、ペンチで歯を抜かれたこともあったなぁ。
すぐに保健室で治癒魔法をかけてもらって、元に戻してもらったけど、あれは痛かった。

とりあえず、前歯を一本、抜いてみた。

「ぎゃああああ!!!!!」

断末魔の叫び声が、訓練場に響く。
何人かの生徒の悲鳴が聞こえた。

「痛い! 痛いよぉ……! ママぁ……」
「ママに助けを求める前に、目の前の私に、謝ったらどうなの?」
「うぅうう……」
「次は奥歯、全部抜こうか?」
「ごめんなしゃい! 私が悪かったです!」
「許してください。ケイト様」
「許してください!!! ケイト様!」
「よ~し。よく言えましたっ」

私はマオラに、思いっきり唾を吐いてやった。

「そこまで! ただいまの勝負……。ケイト・ブロッサムの勝ち!」

まばらな拍手。
そして、ざわめき。

……ちょっと、やりすぎてしまったかもしれない。
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