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聖女
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「ふぅ……」
「よ~し。お疲れ様! ケイト、少し休もうか」
「うん……」
私は背筋を伸ばし、畑を見回した。
右側から私、左側からお父さんが、それぞれ種を植えていたのだけど……。だいたい私の五倍くらいのスピードで、お父さんは作業を進めている。
ダメだなぁ私。でも、これなら、努力すればきっと、効率は上がっていくと思う。先の見えない魔法の修行よりは、よっぽど楽しい。
「はい、ケイト」
「ありがとうお母さん」
お母さんから水を受け取って、ゴクゴクと飲み始めた。喉を通って行く冷たい感触が、すごく心地良い。
「お父さんはやっぱり早いね。私なんか全然追いつかなかった」
「あはは。始めたばかりの娘に追いついかれちゃ、僕も困っちゃうよ」
「そうよケイト。自分のペースでいいの」
……そうか。競わなくてもいいんだ。
自分のできる範囲で、ゆっくりと成長していけばいい。
なんだか、畑仕事が、天職のような気がしてきた。
それから何度か休憩をはさみ、種を植える作業が終わった。
「いやぁ~お疲れ様! やっぱり三人でやると違うなぁ! 全然体が疲れてないよ! まだまだ働けそうだ!」
「お父さん?そうやって無理すると……」
「わかってるさ。今日は祈りを込めて、終了にしよう」
「祈り?」
「そうだよ、種を植えたら、必ず畑に、祈りを捧げるんだ。そうしないと、作物が育たないからね」
「へぇ~」
学園では、そういう思考は、むしろ禁止されてきた。
例えばこの畑に、成長促進の魔法をかけることで、効率を上げることができる。実際、王都には、そういう工場があるらしい。だから、魔法が全てにおいて優れていて、神に頼ることは、情けないことだとすら言われてしまう環境だった。
「じゃあ、みんな。目を閉じて――。作物が成長する姿を思い浮かべるんだ」
私は言われた通りにした。
葉っぱが地面から顔を出す。そこからメキメキと伸びていき、甘い実を――。
「……よし、みんな。目を――えっ」
「ん?どうし――」
私たちは、目を疑った。
目の前の畑が……。育ち切った作物で、埋め尽くされていたのだ。
「な、なんだこれは。なにが起こったのだろう」
「……ちゃんと育っているわ」
二人が畑の作物を確認していく。
やがて、何とも言えない表情で、戻ってきた。
「祈りが、畑の神に届いたのかな」
「もしかして、ケイトが帰ってきてくれたから、それを祝福してくれたのかしら」
「……ぬぬぅ」
「わっ、ちょ、長老!? いつからそこに!」
畑の様子に夢中になっていた私たち。
後ろから現れた長老に、思いっきり驚いてしまった。
「……ケイト、じゃったか」
「は、はい。お久しぶりです。挨拶が遅れてしまって、すいません」
「それは構わんよ。しかし、今、お前さんたちが祈りを捧げておる様子を、後ろから見ておったが……。儂がボケていなければ、ケイトが一瞬、光ったように見えたのじゃ」
「私が……?」
「ケイト、それってもしかして、光属性の魔法じゃない?」
「いや、でも私は、低級魔法しか……」
「……光?」
「長老。何か知ってるんですか?」
長老は、ゆっくりと頷いた。
「光属性と言えば……。聖女様と同じじゃ」
「せ、聖女!?」
「そうじゃ。ケイトがそうであるかどうかはわからぬが……。この作物の状態を見るに、その可能性は高い」
「そんな……」
私が、聖女?
信じられない。なんでいきなり、目覚めたのだろうか。
「祈りの力はそもそも、魔法とは違う。例え低級魔法しか使えなくとも、祈りを磨けば、魔法と同じか……。それ以上の力を発揮することができるじゃろう」
「……何がなんだか。でも、ケイトの力で、この作物が育ったことは確かだ。ありがとう」
お父さんが頭を撫でてくれた。
まだ私は、状況がよくわかってないというか……。なんだかフワフワした感じになっている。
「よ~し。お疲れ様! ケイト、少し休もうか」
「うん……」
私は背筋を伸ばし、畑を見回した。
右側から私、左側からお父さんが、それぞれ種を植えていたのだけど……。だいたい私の五倍くらいのスピードで、お父さんは作業を進めている。
ダメだなぁ私。でも、これなら、努力すればきっと、効率は上がっていくと思う。先の見えない魔法の修行よりは、よっぽど楽しい。
「はい、ケイト」
「ありがとうお母さん」
お母さんから水を受け取って、ゴクゴクと飲み始めた。喉を通って行く冷たい感触が、すごく心地良い。
「お父さんはやっぱり早いね。私なんか全然追いつかなかった」
「あはは。始めたばかりの娘に追いついかれちゃ、僕も困っちゃうよ」
「そうよケイト。自分のペースでいいの」
……そうか。競わなくてもいいんだ。
自分のできる範囲で、ゆっくりと成長していけばいい。
なんだか、畑仕事が、天職のような気がしてきた。
それから何度か休憩をはさみ、種を植える作業が終わった。
「いやぁ~お疲れ様! やっぱり三人でやると違うなぁ! 全然体が疲れてないよ! まだまだ働けそうだ!」
「お父さん?そうやって無理すると……」
「わかってるさ。今日は祈りを込めて、終了にしよう」
「祈り?」
「そうだよ、種を植えたら、必ず畑に、祈りを捧げるんだ。そうしないと、作物が育たないからね」
「へぇ~」
学園では、そういう思考は、むしろ禁止されてきた。
例えばこの畑に、成長促進の魔法をかけることで、効率を上げることができる。実際、王都には、そういう工場があるらしい。だから、魔法が全てにおいて優れていて、神に頼ることは、情けないことだとすら言われてしまう環境だった。
「じゃあ、みんな。目を閉じて――。作物が成長する姿を思い浮かべるんだ」
私は言われた通りにした。
葉っぱが地面から顔を出す。そこからメキメキと伸びていき、甘い実を――。
「……よし、みんな。目を――えっ」
「ん?どうし――」
私たちは、目を疑った。
目の前の畑が……。育ち切った作物で、埋め尽くされていたのだ。
「な、なんだこれは。なにが起こったのだろう」
「……ちゃんと育っているわ」
二人が畑の作物を確認していく。
やがて、何とも言えない表情で、戻ってきた。
「祈りが、畑の神に届いたのかな」
「もしかして、ケイトが帰ってきてくれたから、それを祝福してくれたのかしら」
「……ぬぬぅ」
「わっ、ちょ、長老!? いつからそこに!」
畑の様子に夢中になっていた私たち。
後ろから現れた長老に、思いっきり驚いてしまった。
「……ケイト、じゃったか」
「は、はい。お久しぶりです。挨拶が遅れてしまって、すいません」
「それは構わんよ。しかし、今、お前さんたちが祈りを捧げておる様子を、後ろから見ておったが……。儂がボケていなければ、ケイトが一瞬、光ったように見えたのじゃ」
「私が……?」
「ケイト、それってもしかして、光属性の魔法じゃない?」
「いや、でも私は、低級魔法しか……」
「……光?」
「長老。何か知ってるんですか?」
長老は、ゆっくりと頷いた。
「光属性と言えば……。聖女様と同じじゃ」
「せ、聖女!?」
「そうじゃ。ケイトがそうであるかどうかはわからぬが……。この作物の状態を見るに、その可能性は高い」
「そんな……」
私が、聖女?
信じられない。なんでいきなり、目覚めたのだろうか。
「祈りの力はそもそも、魔法とは違う。例え低級魔法しか使えなくとも、祈りを磨けば、魔法と同じか……。それ以上の力を発揮することができるじゃろう」
「……何がなんだか。でも、ケイトの力で、この作物が育ったことは確かだ。ありがとう」
お父さんが頭を撫でてくれた。
まだ私は、状況がよくわかってないというか……。なんだかフワフワした感じになっている。
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