ユリアの結婚

めり

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きっかけ

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「ユリア私はあなたの味方よ!!ほらこれ体にいいのよ。それから仕事はいつでも休んでいいから。だるいとか熱っぽいとか、とにかく無理はしないでね」

「ええ。ありがとうございます」


ここまでくると流石の私も子供を望まれていることに気がつきました。


お仕事終わりにお腹をさすりながら最近のあれではしばらく授かることはできないだろうとなんとなく感じています。


なにより自分自身の心の準備が出来ていないことが解っていた。「今妊娠したらどうなる?喜んで下さるのかしら?」デーヴィット様を信じていても不安を感じずにいられません。


悩んでいると同僚のエリックが話を聞いてくれました。冷たいアイスクリームを買ってくれて昔から変わらないエリックにほっとしました。



体を冷やさないことは良いことですが、暑い季節の仕事終わりに熱いお茶を進められるのは辛く感じました。


「こればかりは誰のせいでもないのだから気にしないことだよ」

「はい。私もそう思っています」

「しかしデーヴィット様はそうもいかないからなぁ…ミシェル様が先に身ごもられたら、ユリアへのプレッシャーも減るのだろうけど。でもそうなるとユリアの立場がせまくなるなぁ…」

「…」

ミシェル様とデーヴィット様ははそういった関係にはなっておられませんがエリックに伝えることではないので黙っていました。


ここ数日デーヴィット様はミシェルの寝室には行かれません。

「見合いは終わった」

デーヴィット様はそう言って以降何やら考え込まれたので詳細はきけておりません。


「ユリア…辛いか?」

「え?いいえ平気ですよ。デーヴィット様を信じておりますから」

もうお見合いが終わっていることはまだ秘密だとセバスさんに言われているので、心配してくれている友人に、大丈夫だと精一杯お伝えします。


「ユリアには別の道もあると思う」

「別の道?」

「デーヴィット様のもとを去ることだよ」

「ええ!?確かにまだ婚約の身ですがそんなこと。エリック?本当に私は大丈夫なんですよ。たしかに最近目にみえるプレッシャーを浴びていますがだからと言って嫌になったりしてませんよ?」

どうやらエリックにちゃんと伝わっていないようです。


「行くところがないとかそんな心配はいらない。ユリアは治癒師としても立派に働けるし…それに…親もいなくなって、行くところがないなら俺のところにきたらいい」


「エリックのお家に?」


「あぁ。母と年の年の離れた妹と三人暮らしだよ。妹のことは知ってるよな?」


「はい。エリックに付いて回っているから野花に詳しく、将来はお花屋さんになると言ってましたよ。

子供ですか…」


「ごめん…。また話が戻ってしまったなぁ」


「そのお話は流れにおまかせします。冷たいものを飲まずに…あはは。


やはり話すと頭が整いますね。エリックは別の道もあると言いましたが私にはその道が見えないようです。私はデーヴィット様をお慕いし側におります。デーヴィット様の事が………エリック?今何かしましたか?」


今頬に何かが触れた気がしました。

「ユリア!!」

突然の怒声に聞いたときは誰だかわかりませんでした。

「デーヴィット様!?どうされました?」


手を差し出され、従うと強く馬の上まで引き上げられ、肩が嫌な音をたてました。

「痛っ!」

「デーヴィット様!!!ユリアの肩がぬけてしまいます」

「…」

デーヴィット様はしばらくエリックを見下ろしてエリックも負けずと目をそらさずにいます。

「んっ!何をされるんですか!?」

突然の口づけに驚き身をよじると、馬が暴れデーヴィット様に抱きついた。人前です。エリックの前です。顔が熱くなりました。


「エリック。私の妻に手をだすことは許さない。2度目はないと思え」


「デーヴィット様?私はただ、相談にのってもらっていただけです。エリック。ありがとう。話せてすっきりした。肩も…大丈夫よ!!」

言い終わらないうちにデーヴィット様が馬を走らせたので最後は声を張り上げた。


「デーヴィット様!!デーヴィット様!?いかがされましたか?………………デーヴィットったら!!」

ふてくされたデーヴィット様のお顔を捕まえます。涼やかな目で睨まれドキリとしました。


「ベールがあってよかったな」

「えぇ!?おかしくなりましたか?」


デーヴィット様がベールをとりぽいっと投げ捨ててしまいます。


「デーヴィット様!!悪い癖ですよ!!何でもそこらに投げてしまうのだから!!いつも私の服も遠くに投げてしまうのだから」


落ちたベールをみるとザックさんが拾ってくれていましたが、この日以降あのベールを見ることはありませんでした。



「ユリアがすぐ着ようとするからだ…」

「怒っていらっしゃいますね。デーヴィット様。


でもね。あはは。


先程妻と言ってくださって嬉しかったですよ。


私エリックに言われたんです。ユリアには別の道もあると。だから屋敷を出ることを考えてみました」



デーヴィット様が馬を止め私の目をみます。まだ拗ねておられ不満を滲ませていますが、そんなことより私は妻と呼ばれたことが嬉しくてたまりません。


「でもうまく想像できませんでした。

ふるさとに帰り治癒所で働いても夜にはデーヴィット様を思い泣き、全く新しい町でくらしてみてもあなたを探していました。

母と同じように海を渡ろうともしましたが、デーヴィット様のいる大地さえ離れがたく、船に乗ることが出来ませんでした。


デーヴィット?私にはあなたのいない未来はないようです。だから怒らないでくださいね?怖いデーヴィット様はいやです」

黙るデーヴィット様の肩に頭を乗せました。1日よくお働きになった汗の臭いとデーヴィット様自身の匂いがして、ミシェルの香りはなく嬉しく思いました。


「……今夜は眠れないと思え」

耳元で私にだけ聞こえるように言いまた馬を走らせます。私は真っ赤なお顔をみられないようにデーヴィット様の広い胸に顔を埋め掴まっていました。


「あぁ…デーヴィット様?エリックに謝ってくださいよ?私のお話を聞いてくれたのに冷たい態度をとってはいけませんよ?北部長様に睨まれては、いやな汗をかいてしまいます」

「………妻がキスされて怒らない夫はいない」

「キスなんてデーヴィット様としかしませんよ?」


「エリックはしたぞ。ユリアの頬に」

「してませんよ。見間違えたのではありませんか?」

「いいやベールごしだったがした。ベールがなかったら罰を与えたとおもう」

「ええ!そんな!だめですよ罰なんて!」

「ユリアに手を出すのは重罪だ。決まりを作ろう。ユリアに触れたものは皆投獄」

「とんでもない暴君です」

「俺が領民に嫌われる長にならないよう、身持ち固く頼むぞ」

「だから…キスなんて……して…ません……よ」

ベールが不自然に揺れた気もしますが…あれがキス?ですか?わかりません。

「自信が喪失したな…心当たりがあるか?」

「うっ!!」

デーヴィット様が頬をベロっと舐めます。

「やはりキスなどしてません!!!!エリックはこんなことしません!!」


頬をゴシゴシ拭きながら、デーヴィット様のとんでもない行動にだじたじになりました。


その夜は宣言通り長い夜になりました。デーヴィット様は夕刻のことを酷く怒っているようで、肌がヒリヒリするほど頬にキスされました。








何やら外が騒がしいです。患者さんが途切れたので覗いてみるとミシェル様の姿があって驚きました。

民家の軒下で用意された椅子に座り町の子供たちや通りかかった人達の挨拶に穏やかに応えられています。

必要なものを買ったり、自分の食べれるものを購入するために時々町に出掛けているのは知っていたので今日もそうだろうと思い至りました。


「ユリアー!?薬の調合するけどみるか?」

「はい!」

エリックが調薬をするようで、お勉強のための見学に誘われました。デーヴィット様はキスしたと騒いでいましたが、やはり間違いです。エリックに変わった様子はありません。


薬の調合とより効力をあげる煎じ方など大変勉強になることばかりでミシェル様のことはすっかり頭から抜け去っていました。

「ユリア様!!!ミシェル様に毒を盛ったのですか!!!???誰か治癒師を!!」


「!?」


治癒所に飛び込んできた人が耳を疑うようなことをいいました。

嫌な汗をかきながら外にでると人だかりができています。


「治癒所長!!早く!!」


呼ばれる治癒所長について私もかけつけました。ミシェル様が地べたに倒れこみ爪が食い込むほど首を掴んでおります。

すぐにアレルギーを疑い治癒所に戻り浄化ポーションをとりミシェル様の側によろうとすると周囲の人に腕を捕まれ押さえ込まれました。

「ーーーーーー!?皆様何を!?」

気が動転していたので落ち着いて説明もできず逃れようともがくと更に強い力で押さえ込まれてしまいました。


「治癒所長が手当てしてるのに治らないぞ!?何を盛った!?」

「子供も食べたのよ!!どうしてくれるの!!?」

「手に何を持ってる!?取り上げろ!!」

「ザックさん!!ニックさん!!」

人だかりで見えない二人を呼びながら脳裏に先程の言葉がよぎります。


「ミシェル様に毒を盛ったのですか」

皆様が私のことを疑いミシェル様のもとへ行かせないようにしていると悟ると周囲の視線に気分が悪くなり吐き気を催しました。目が回って立っていられそうにありません。


「やめろ!!ユリアが痛がってる!!離せ!!これまでユリアの何をみてきたんだバカヤロウ!!」


エリックが皆様を払って抱えだしてくれないとどうなっていたか解りません。


エリックから誰かに身をうつされました。強い精神的ショックで視界が暗くなっていたので見えませんでしたがよく知った、ぺっとりとした肌と、香りと、温もりと……とにかく感じ取れる全てで、解りました。


私は安心して気の遠くなる感覚に従いました。
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