遠い遠い西の果てブハイルの湖にて

中世。アズラク海(東地中海)地方の内陸部。

夏の最後の日。豪族・ワーリズム家に、当主座をめぐる戦役が始まった。
分家の領主である18歳の青年・ハンシスが、本家の当主であるラディンを追い落とすべく、戦闘を仕掛けてきたのだ。
二人は、2歳違いの従兄弟同士であった。かつてはラディンの姉・シャダーを交えた三人で共に、仲の良い兄弟同士としての幸せな日々を過ごした事もあった。
しかし今や、二人の存在には大きな差が生まれていた。

――支配者として必要な力量を自らの力で獲得した青年ハンシス。
――姉に甘やかされ続けたまま未熟と傲慢そのものの少年ラディン。

ラディンを溺愛する姉・シャダー以外の誰もがラディンを敬遠し、ハンシスを信頼していた。今回の内紛の結末にも、誰もがハンシスの勝利を、そして一族の新当主の座に就くことを待望していた。

しかし戦局が進む中――、短い秋が内陸の地に進む中――、
完璧なはずのハンシスの言動に少しずつ、奇妙な歪みが見られ始めた。
彼が、昔馴染みの従姉・シャダーに不思議な執着を示していくのだ。……その執着こそが、全ての事態の始まりになっていた。

ハンシスの感情がシャダーに、ラディンに、さらに彼らを支える友人達に影響を与えてゆく。互いが互いに干渉し合い、それぞれがそれぞれにナガの戦地を離れてしまう。
彼らは本来あるべき場所・たどるべき運命を確実にそれながら、西の果ての山地・ブハイルの湖へと至ってゆく。……

・     ・     ・

血縁・友情・忠義・憎悪・執念・愛情に絡められながら進んでゆく、複数の歪な感情のストーリー。
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