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12.天に舞い上がる衣《4》

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 今日になっても視界はおかしいままだ。目を傷つけたせいではないと思う。破壊された方だけでなく、無事だった方も見えかたが変になっているからだ。
 実物の目では普通に見えるのに、それが脳裏に投影されると、奇妙な映像が十秒に一度くらい二重写しになる。暗闇に周囲の人の形が妙な感じで浮かび上がり、とにかく気味が悪かった。近所の人、道行く人、病院の看護士さん、他の患者さん。皆が異様な姿で目の前に迫ってくる。普通に見えるのは今のところ自分と鉄哉だけだった。
 翌日も気持ち悪い映像に耐えながら出来るだけ人を見ないようにして病院へ行くと、鉄哉は笑顔も出てだいぶ元気になっていた。驚くことに巨大腹巻のようだった胴のコルセットが外れ、もっと驚くことに右足のギプスまで取れている。
「これ、お父さんがエミちゃんに渡しといてって」
 わたしの驚きをよそに、いそいそとかたわらの引き出しから新品の携帯と充電器を出した。深いブルーで、前に持っていたやつの色違いだ。前のは白だった。
「携帯、神代さん家の下に埋まったんだろ? エミちゃんとこ固定電話ないから、持っててもらわないと俺たちが困るんだよ。俺も新しいの買ってもらった」
 そう言って自分の新しいスマホを見せる。前のは青緑だったが、今度は黒だ。
「番号移してやろうか。データのバックアップとかしてた?」
「……何、バックアップって」
「してないよね。とりあえず俺とお母さんとお父さんの番号だけ入れとくよ」
 鉄哉はわたしの携帯を左手でさっさと操作しはじめる。勉強は出来ないが何故か機械にだけは強いので、機械オンチなわたしとしてはこの方面のことはお任せするしかない。
 昼ごはんの時間になり、彼の前にトレーにのった食事が置かれた。配膳の人が部屋を出るなりメインのおかずの皿に顔を突っ込んでいる。まるで犬みたい。
「……何してるの?」
「病院に担ぎ込まれて目が覚めてから、急に匂いがわかるようになったんだ」
「えっ」
「でもだんだん薄れてきてる。最初はもっとよくわかった。きっと一時的なものだったんだろうな」
 そして自分がこの数日で匂いを確かめたものを列挙しはじめた。
「お父さんがカップ焼きそばの匂いが世界で一番いい匂いだって言ってたから、持ってきてもらった。あと、焼き肉のタレとケーキと、バターのトースト。チョコ、フライドチキン、カツオだし、うなぎのかば焼き、焼き鳥。うなぎと焼き鳥はかぶってたな」
「どうだった?」
「なるほどって感じだった。これがそうかと」
 手綱引きの影響が残っているのだろう。怪力だけでなくわたしの嗅覚も彼に移ったようだ。鉄哉はわたしに顔を近付け、鼻から空気を吸い込んだ。
「これって匂いだったんだな。エミちゃんからいつもこの『感じ』がしてた。他の誰もこんな『感じ』はなかったよ。
 たぶん、この匂いが世界で一番いい匂いだ。昨日は言えなかったけど」
 顔を赤くし、恥ずかしそうに笑っている。そうだったんだ。数日来漂っていたこの匂いはわたしの匂い、というより鉄哉が感じていたわたしの匂いだったのだ。嗅覚を持たない彼の世界で唯一感じていたのがこの匂いだったらしい。だから姿が見えなくても遠くからわたしの接近を察知することが出来たのか。そういえば神代さんもわたしに特有の匂いがあることを指摘していた。
「手綱引きの影響じゃない? わたしの嗅覚もあんたに移ったんだと思う」
「あっ、そうか。だから体の治りも異常に早いんだ」
「そうなの?」
「うん。骨折だからもっとかかるはずなのに、今度は痛みが取れるのがすごい早いんだよ。左足も最初は手術するって言ってたのが、もうその必要なくなったって」
「へえ、よかったじゃん。でもお医者さんが不思議がらない? あんまり早く治り過ぎて」
「そこはほら、何とでもなるから。カルテを改竄してもらったり。このぶんだと夏休み終わる前に完治だな」
 手綱引きにも思わぬ副効用があったということか。鉄哉が「いただきます」とスプーンを手に取った。利き手が使えないので先割れスプーンで和食を食べているが、皿がガタついたり汁物を飲むときいちいちスプーンを置いたりと、結構面倒くさそうだ。
「食べながらでいいんだけど、聞いてくれる?」
「うん」
「何か、ずっと気持ち悪くて……あんたに聞いたらわかるかなと思って」
「気持ち悪いって?」
「目に変なものが映るの。あんたは普通に見えるんだけど、見る人見る人、全員が気味悪く見える。黒い紙にいろんな色の線でその人の形を変な風に書いたみたいな……それが十秒に一回くらいフラッシュみたいに出てきて、目ざわりでしょうがない」
「ああ、俺の力も移ったのか。二番目の目と回線が繋がってるんだろ。人間の血が混じってるから、持ってはいたんだな」
 鉄哉はすぐに事情を理解したようだった。
「これ、我慢するしかない?」
「そんなことないよ。方法があるから。目を閉じて」
 言われるまま目を閉じた。
「これから俺の言うことをイメージして。――エミちゃんは今、部屋の中にいる。そこにスイッチがあるだろう?」
 部屋と言われて思い浮かべてみた。窓も家具も何もない、ただの箱のようなシンプルな部屋。暗くて奥まで見えないが、狭いことは何となくわかる。弱い光がもれているドア付近の壁を探したものの、何も手に触れなかった。
「どこにもないんだけど」
「よく探して」
 壁伝いにくまなく探していると、一番奥の壁にそれらしいものがあった。古いタイプの、短い棒を上下に動かすスイッチだ。
「あった」
「じゃ、それを切って。切ったら目を開けていいよ」
 スイッチは結構固く、わたしの力でも余るほどだった。スイッチをバチンと切り、目を開けた。
「今回線が切れたから。もう見えないよ」
 立ち上がって窓の外を見てみると、病院の敷地を歩いている人がいた。じっと見続けたが、例の黒い映像は出なくなっていた。
「本当だ」
「エミちゃんはアナログな人だから、その方法が一番合ってると思った。簡単な暗示だけど」
「あんたもああいうのが見えてるの?」
「うん。でも俺のはもっと強烈だ。はっきり見えてるし、視界も二重になってる。普段は邪魔だから一番底に沈めてるけど、ベースにはずっとあるよ。俺は回線が切れないから」
「あれって何が見えてるの」
「生き物が持つエネルギーじゃないかな。俺はそう解釈してるけど。でもエミちゃんはああいうふうには見えない」
「やっぱり?」
「この世で俺と同じに見えるのはエミちゃんだけだな。あれを見たらだいたいのことがわかる。その人の体や心の状態とか。現在の一点だけじゃなくて過去とか斜めの要素を見たいときは、二番目の目をメインにしてそれだけで見る」
「二番目の目とかどこにあるの?」
「ここにあるよ。頭の後ろに。みんな持ってると思うけど。――人間は本当は三番目まで目があるんだ」
「三番目の目」
 鉄哉は眉間の少し上を指さした。
「この辺にそれがある。俺もたまにここがムズムズするときがあるよ。開くには至らないけど。感情とか生活とは無関係に起こるから、何かと連動してるのかもしれない。それが俺みたいな敏感な奴に伝わって、三番目の目に血が通ったように痒くなる。
 もしそれが自由に開けるようになったら、たぶん物理的に有効なことが出来るようになるんだと思う。手を触れないで物を動かしたり、遠くにある物を瞬時に手元に引き寄せたり。頭で考えた通りのものを自由に創り出したり。神だな、そいつは」
 面白そうに笑っている。そんな話をするのも、わたしが彼と感覚を共有したからだろう。話せばもうそれで通じると思っている。
「――ねえ、前から思ってたんだけど」
「何?」
「あんたぐらい鋭い感覚持ってたら、きっとわたしが人間じゃないって感じが常にしてるんじゃない?」
「ああ、してるよ。そりゃ」
 鉄哉はお尻をにじらせながら後ろに移動し、ベッドの背にもたれかかった。
「人間じゃないっていつから思いだした?」
「最初から。そりゃそうでしょ。見ただけで全然違うってわかるよ。触っても違うなと思うし……。エミちゃんだって人間とマネキンを触ったら違いがわかるだろ? そのぐらいの差を今でも感じる」
「そんなに?!」
 結構ショックな言葉だった。まさかそこまでひどい違和感を持ってるとは正直思ってなかった。
「気持ち悪いって思わなかったの?」
「思うわけないだろ。気持ち悪いと思われることはあっても」
「だって全然違うんでしょ?」
「そういうもんだと思ってるから。そういう人として知り合ったから」
「あんたの頭がおかしいの? それとも慣れただけなの?」
「何でそんな……そういう話じゃないよ。どう説明したらいいのかわかんないけど、感覚の話だから。違うけどまあいいか、で終わりだよ」
「何それ」
「そもそも違うからどうこうとか、そういうことを考えたことがなかった。エルフみたいなもんだと思ってるから」
「あんたの説明はさっぱりわからない」
 ごまかされているように感じ、ムッとしてしまった。鉄哉はそっぽを向いたわたしに困ったように言う。
「この視界を共有したのに、まだわからないのか……。自分一人だけクリアに見えただろ? この世でたった一人だけノイズがないんだよ? 他にも理由はあるけど、でもその理由って理由にもなってないような感じだよ。
 きっと生きれば生きるほど、たった一人しかいないってもっと思うようになるんだろう。こんな人探しても絶対他にいないし。俺は違うって悪いこととは全然思わないけど、エミちゃんは変なとこにこだわるんだな」
 そう言って窓の外を見ていたが、突然がばっと身を起こして振り返った。
「まさか、ずっとそんな風に思ってたのか?」
「え?」
「だからいっときあんなに俺を避けたのか? 自分が人間じゃないから」
 急に喉が塞がるような感じがして胸が痛くなり、涙まで出そうになったので自分で驚いた。違うよと言ったとたん泣くかもと思うと、黙るしかない。うつむくと涙がこぼれ落ちそうだったので鉄哉にガッチリ目線を据え、もう大丈夫と判断してから「違うけど」と言った。
「たっぷり一分黙ったな……そうだったんだ」
「違うって」
「早く言えばよかったのに。話してくれたらその場で解決する問題だったと思うよ。エミちゃんの悪いところは、何でも我慢して自分一人の胸におさめようとするところだな。どうでもいいことにはブチ切れるのに、大事なことは何年も黙るんだから」
 黙ってるのはアンタも一緒でしょと言いたかったが、反論する元気がなかった。――結局わたしの思い込みだったのか。もっと早く感情を吐き出せばよかったのかもしれない。でも彼に何を言っても大丈夫だと思うには、自分に自信がなさ過ぎた。
 たぶんそれは鉄哉も同じなのだろう。わたしたちはお互いに自信がない。何を言っても相手が揺るがないとは思えない。自分は揺るがないという確信はあっても。
 自分の目で実際に見てわかったが、他人の姿がうっすらでもあんなふうに見えていたとしたら、たしかにあまり親しみは感じないかもしれない。その情報が邪魔になるし異様なものには違いないので、気が休まらないのだ。みんながまるで人体模型のように中身をさらしながらその場にいるように思えた。
 なぜ鉄哉がわたしを特別なように感じるのか、やっとわかった気がした。彼にとってわたしは自分と同じに見える貴重な存在の一人、そして完全に無臭の世界で唯一匂いを持っている誰かだったのだ。同じなのに違っていて、たった一人しかいないから、彼にとっては重要な意味を持っていた。
 少しさめた食事に鉄哉がまた手をのばした。
「……どうやって手綱引きは終わったんだ?」
「?」
「どっちも生きてる。何で途中で終わったのか不思議なんだ」
 それはたぶん、わたしが心から自分の死を願ったからだ。それが手綱引き終了の合図だったのだろう。三組目の兄弟が二人とも死んでしまったのは、力が拮抗し過ぎて限度を超え、中止しても手遅れだったからかもしれない。弟はきっと、兄をこんな目に遭わせるくらいなら死んだほうがましだと思ったろうから。
「さあ、いきなりだったから。急に終わったんだよね。あんたの体力が先に限界に達したみたい。それで終了よ」
「そんなことで終わるとは思えない」
「そう言われてもね。急にあんたがぶっ倒れて気絶したから、わたしが山の下まで運んだの。それ以上のことはわからないよ。
 いいから早く食べなって。これ以上さめたらおいしくないよ。せっかく匂いがわかるんだから、今のうちに味わっておかないと」
 そう促すと鉄哉は食事を再開した。わたしはそれをじっと見守っているようでいて、心は別の気持ちに沈んでいた。
「どうして反撃しなかったんだ?」
「何の話?」
「俺にやられるままになってたんだろ?」
「そんなことないよ。それなりに反撃したよ。だからあんたは病院送りになってるんじゃない」
「違うだろ。骨折したのはエミちゃんの力が俺の体に負担だったからだ。――お父さんが言ってた。俺は骨折はしてたけど、体には傷が一つもなかったって。エミちゃんは血だらけで全身がズタズタになってたけど、俺の服は汚れてただけで小さい破れしかなかったって。あの子はお前に手出ししなかったに違いないって言ってた」
 わたしはそれに同意も否定もせず、彼にお茶をついで渡した。鉄哉は食べ物を楽しんでいるふうはなく、回復のために黙々と栄養を摂取しているという感じだ。
 全部片付けるとお茶を飲み、わたしに言った。
「明日から鞍橋に行こうと思って。夏休みが終わるまで」
「鞍橋に? どうしてよ。このあいだ行ったばっかじゃない」
「ちょっと、修行みたいなことをしようと思う。朱眉に指導してもらって」
 びっくりした。そういえば昨日朱眉がそんなようなことを言ってたが、まさか乗るとは思わなかった。彼が一番、死ぬほど嫌がっていたことじゃないか。よほど手綱引きの件で自分を責めているらしい。
「俺って手綱だろ?」
「――そうね」
「儀式のとき、エミちゃんの肉を食べるのはさすがに抵抗あったよ。必要なのはわかったけど、生だし、血もついてるし。それでも食べたのは、先代に脅されたせいもあったけど、本当はお母さんの言葉が一番効いたからなんだ。『これを食べればずっとエミちゃんと一緒にいられるよ。あんたが守ってあげるのよ』って。
 エミちゃんは契約のこと嫌だったろうから、お母さんがけしかけたみたいに誤解するかもしれないと思って今まで言わなかったけど、お母さんは必死だったよ。
 俺だって手綱とか狗とかの具体的な説明は受けてなかった。でもあとで絶対必要になると感じたからその言葉に従ったんだ。エミちゃんともめたときはちょっと後悔したけど、今はよかったと思ってる。この繋がりがあったから乗り越えてこられた。ただ外から見てないといけない立場じゃなくて本当によかった。
 俺が狗のエミちゃんを繋いで、暴走しないようにしてる。俺のイメージではその鎖は長くて、エミちゃんは自由に動けるはずだった。自分の裁量でその辺は何とかなると思ってたんだ。
 でも結局は『手綱』なんだよな。『手綱を握っている人間』じゃない」
 鉄哉は下唇を噛みしめた。
「俺という『手綱』を誰かが握ってる。俺はそれは、世間ってもんじゃないかと思ってた。
 昔狗の弟を始末した手綱の兄貴は、要するに世間に負けたんだと思う。心の中じゃ死なせたくなかったろう。でもいざ事が起こるとまわりにギャーギャー言われて、自分が何とかしなきゃいけないって追いつめられ、思い込みもしたから殺してしまったんだ。昔は今より地縁や血縁が強かったから、そうするしかなかったんだろうって想像がつく。
 だから俺は、絶対世間に負けてエミちゃんを死なせたりしないって思ってた。エミちゃんが何したって最後まで守りきろうって決めてた。
 契約のあと、誓願を立てたんだ」
「誓願?」
「『僕は死ぬまでいい子にします。みんなと同じにします。だからエミちゃんを連れて行かないで下さい』って。
 誓願って無力なようで、じつは一番強力なんだよ。どんな方法よりも、人の祈りと誓いは宿命や運命を覆す力を持ってる。捨てるものが大きくて捨てたあと無防備になるほど、時が来たときにより大きなものから力を与えてもらえるんだ。だからその手段を取った。俺はそれを知ってたから。
 でも途中で状況が変わっていろいろ具体的なことが目の前で起こりだすと、正直気持ちが物凄く荒れたよ。誓願のことも忘れてしまった。俺は怒りの気持ちが強いから、いったん腹が立つと正しいことがわからなくなる」
「……うん」
「いつのまにか力を求めるようになってたんだ。黙って耐えるより、力を強くするほうが何か出来てるような気がして楽だった。建前では使わないって相変わらず思ってたけど、自分の中で力が強く重くなるのがわかっても、大きくなるなら勝手に大きくなれと思って放置してた。いくら膨らんでも不安が消えなかったし。足りない、足りないってずっと心の中でわめいてた。
 きっとそれが力に喰われるってことだったんだろう。朱眉が言ってた『自分の力を疎ましく思ってる』ってのはもう前の話だ。力を求めるほど自分が真っ二つに分かれてってるのは知ってた。でもまずいとは全然思わなかったよ。たしかに通常じゃ考えられないレベルに達してたかもしれない。けど力に頼った分だけ心は弱くなってた。俺はもっと無力の力を信じるべきだった。
 手綱を引いたのも、結局はそういうことだったんだと思う。力を求めると破壊衝動が強くなるし、何もかも自分の思い通りにならないと気が済まなくなる。気付くべきことにも気付けなくなっていく。俺は自分に負けたんだ。自分に負けるなんて最低だよ。そんな簡単なことも出来ていなかった」
 鉄哉の表情は強ばっていた。
「もう二度と手綱を引くような真似はしない。手段は選ばない」
 わたしは不安になった。鉄哉は自分に対する怒りにまかせて、また極端なことをしてしまうのではないか。手段を選ばない、という彼の宣言が怖かった。この人の中には依然として焦りと怒りがくすぶっている。
「……ほどほどにしたら?」
「ん?」
「楽しくなくなるのはイヤだからね」
「ああ、うん」
「帰って来たとき山伏の格好とかしてたら、もう声かけられても返事しないよ」
「しないって。朱眉が面白がって着させても、脱いで帰ってくるから。
 俺、頑張るよ。エミちゃんが地面を叩く、地球が真っ二つに割れる。そのぐらいのことしても手綱を引かないくらいにはなりたい」
「そこまでいったら手綱がどうとか関係ないんじゃない?」
「あと、カルシウムが足りない」
「カルシウム?」
「世界最強の女子を好きでいるためには、もっとカルシウムを摂取して、簡単に骨折しない体にならないと。牛乳飲んで、小魚を骨ごと食べて」
「努力が変な方向に行ってるよ」
 鉄哉は新しい目標を表明したことで元気を取り戻したようだ。わたしはいつもの顔で相手をしながら、心の隅で不満を感じていた。

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