悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第一部

Hiroko

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36 こいつは面白くなってきたな

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どれくらい時間がたったろうか。
僕は許す限り、ここに来てからのことを芹那に話して聞かせた。
「ねえ、さっきスマホ持ってたわよね」
「うん。でも、もうバッテリーがないんだ」
「それなら持ってるわよ?」
「え?」
「残念ながら私のスマホは壊れちゃったんだけど、持ち運び用のバッテリーを持ってるのよ。あげるわ。私が持ってても仕方ないから」
そう言われて僕は芹那からバッテリーをもらい、スマホを充電した。
「ねえ、さっき何を見ようとしてたの?」
「その、美津子の写真を最後に見たくて……」
「さっき話してくれた、和也の彼女ね?」
「か、彼女なんて……、そう言うのじゃなくて……」
「だって、その子のことを助けるためにここまでやってきたんでしょ?」
「うん……」
「彼女じゃないにしても、好きなんでしょ?」
「す、好きって言うか……」
「素直にならなきゃ駄目よ?」
「あっはっは、芹那の言う通りだ」スサノオまでそう言って笑った。
「それよりね、写真見せてよ。美津子ちゃんの」
「え、う、うん」そう言って僕はスマホの中の美津子の写真を探した。
「あ……、あれ?」
「どうしたの?」
美津子の写真……、いくらさがしても……、いや、違う。
「あれ?」
僕は目をこすって何度も美津子の写真を見直した。
「ねえ、いったいどうしたの?」
「美津子の顔が……」
「顔が?」
「なんだか少し違う……」
「違うって、どう言うこと?」
「美津子……、美津子なんだけど」自分でもよくわからないのだけれど、以前の美津子と少し顔が違って見えたのだ。雰囲気と言うか……、気のせいだろうか。
「とにかく見せてよ」そう言って芹那は僕の持ったスマホを自分の方に向けた。
「まあ、すごく綺麗な人ね」
「なんだそりゃ?」スサノオがスマホを見て言った。
「ほら見て? これが和也の言ってた美津子ちゃんの顔よ?」そう言って芹那はスサノオの方にスマホを向けた。
「ん?」と興味無さげに壁にもたれたまま片目を開けて目を向けたスサノオだったが……、「ん!?」と言って急にスマホを真剣な眼で覗き込んだ。そして気のせいか、すこし頬を緩め優しい顔になると、「なるほどな」と言ってまた壁に寄り掛かった。
「え、スサノオ、なにが『なるほどな』なの?」
「気にするない」とスサノオはそっけなく言った。
僕はあらためて美津子の写真を見た。
僕の知っている美津子の顔とは、やはり少し違っていた。
うつむき加減で、下から覗き込むような視線は変わらないのだけれど、なんだろう、うまく言い表せないのだけど、僕の知る美津子のおどおどした感じが消えている。それどころか、なんだか心の中に手を伸ばしてくるような、挑みかかるほどの意志の強さを感じるのだ。
そして、髪が少し長い? 色が白くなった? 鼻筋や、唇の薄さや、まつ毛の長さや、よく見ればみるほど僕の知っている美津子ではないような気がしてきた。と同時に、まったく逆のことを心に思っていた。僕の知っている美津子は、実は最初からこうだったのではないだろうかと。
この写真の中に、僕がずっと探していた美津子がいる。
そこに感じる時間の流れは、美津子に会えなくなったほんの二か月なんて短いものではなかった。
何年も、何十年も、何百年も、永遠に思えるほどの長い時を経て探し続けていた姿だった。

美津子……、やっと本当の姿を見せてくれたね。

僕は心の中でそうつぶやいた。
そして僕はやはり、たまらなく美津子と会いたかった。
「ねえそれより、どうして蛇の写真なんか撮ってるの? 和也、蛇が好きなの?」
不意に芹那の声に我に返った。
「え? 蛇の写真?」そんなの撮った覚えはない。
「だってほら、いっぱい写ってる。それも同じ蛇の写真。もしかして飼ってたの?」
「え? そんな……」そう言いながら僕はスマホの中を覗き込んだ。と、確かに銀色の大きな蛇が映り込んでいる。と言うよりもこれ……。
「ん? こんどはなんだ?」とスサノオもスマホを覗き込んだ。「これはおい、なんで八岐大蛇がこんなとこにいるんだ?」
「や、八岐大蛇?」芹那が首を傾げた。
「だが、おい、どうしてだ。どうしてこいつ、一匹なんだ。こんな姿、俺だって見たことないぞ」スサノオは眉を寄せてそう言った。
そこに写っているのは確かにそう言われて見れば、サイズは小さかったが八岐大蛇と同じ蛇だった。けれど頭が七つあるわけではない。ただの一匹の銀色の大蛇だった。けれどそれより僕を驚かせたのは、それらは全部、正人を撮ったはずの写真だったからだ。
正人が……、正人がどこにもいない。
いや……、いや違う。
正人が……、正人が銀色の大蛇に変わってしまっている。
「お……、おい、こ、こいつまさか!?」そう言ってスサノオは眼玉が飛び出そうなほど驚いた顔で言った。「やっぱりそうか! こいつ、こいつ、やっぱり和也のいた世界にいたんだな!?」
「え、え、スサノオ、どうしたんだよ?」
「和也、忘れたのか、八岐大蛇だよ。あいつ、もともと八匹だったって話をしたろ?」
「え、ああ。うん。覚えてるよ」
「こいつだよ。こいつがその八匹目だ!」
「ええ!?」
「いいか、和也。お前さん、今すぐ未来の世界に戻って、この八匹目の八岐大蛇を探すんだ。そして連れてこい。そうすれば、そうすれば!」とスサノオがそう言ったところで、どこから入り込んできたのか、ハクビシンが姿を見せた。その口には、八岐大蛇が姿を変えた勾玉を咥えている。
「おお、やっと来たか! あーはっはっは! こいつは面白くなってきたな、おい!」スサノオはそう言って大声で笑った。




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