悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第一部

Hiroko

文字の大きさ
上 下
28 / 44

正人の話 其の参

しおりを挟む
少しウトウトしてたようだ。
時計を見た。
1から12までの数字が円になって並んでいる。
それを指し示す棒が二本、中心から出ている。
あれ?
あれは何をするものだっけ?
俺はあれを見て何かを知ろうとしたんだ。
けれど、何を知ろうとしたんだっけ?
あれは……、何だっけ?
頭が混乱した。
そして俺はまた、目の前に蓋をされるように意識が閉じていくのを感じた。

少しウトウトしてたようだ。
さっきまでの記憶がない。
あれ?
妙に部屋が明るい。
電気は消しているはずなのに……。
どうしてこんなに明るいんだ?
いや、違う……。
明るいんじゃない。
暗いけど、見えるんだ。
暗いのに、部屋の隅々までよく見えた。
どうして急に目が良くなるんだ?
ああ、なんだ。
何がどうなっちまったんだ。

少しウトウトしてたようだ。
妙に気分がいい。
最高だ。
腹いっぱいに食った後、死ぬほど寝まくっていたような気分だ。
それより、俺はここで何してるんだ?
俺はここで何してたんだ?
いつからここにいるんだ?
ここはどこだ?
何も思い出せない。
妙に心地いい。
けどなんだか腹が減った。
なにか食いたい。
ああ、なにか食いたい。
若い女がいい。
ああ、そうだ。
クシナダヒメ。
どこにいるんだ……。
クシナダヒメ。

少しウトウトしてたようだ。
食い物が欲しい。
食い物を探しに行こう。
ズルリと巣から降りると、何やら手のようなものが落ちていた。
なんだこれ?
俺、こんなもの食ったか?
まあいい。
腹が減った。
探しに行こう。
それにしてもなんだ。
変な場所だな。
どうやって外に出るんだ。
俺は光の漏れる場所を見つけ、そこを開けて外に出た。
眩しいな……。
なんだここは。
今は夜じゃないのか?
なんでこんなに眩しいんだ。
俺はその光から逃げるように動き回った。
そしてなんとか外に出ることができた。
外はやはり夜だった。
月が見える。
あれ? ところで俺は前からこんな動き方をしてただろうか。
そんなことを考えながら、体をくねらせ地面を這った。
食い物、食い物だ……。
俺は物陰に隠れ、獲物がやって来るのを待った。

少しウトウトしてたようだ。
腹の下に獲物の近づく振動を地面に感じた。
臭いもする。
舌を出し、空気の動きを見る。
人だ。
女が歩いてくる。
女が独りで歩いてくる。
早く……、早くこっちへこい……。
待ちきれない。
腹が減った。
女は何も知らず歩いてきた。
コツ、コツ、コツ、コツ……。
足音が振動となって腹の下に感じた。
コツ、コツ、コツ……。
女の発する熱を鼻先に感じた瞬間、俺は首をもたげ、口を開けて女に襲い掛かった。
女は俺の姿を見るとへなへなとその場に倒れ、「ひ……、ひ、ひぃ……」と息もできないのか奇妙な悲鳴を上げた。
そして俺は女に噛みつくと、そのまま体をねじるように巻き付けた。
女は悲鳴を上げる代わりにミシミシと骨の軋むような音を鳴らした。
首に噛みついたので血が流れた。
さらに女の体を締め上げた。
関節が外れ、いくつか細い骨が折れる音がした。
女がもう動けないことを知り、俺は女を頭から丸呑みにした。
血の匂いとともに、女の体が喉を通り抜けて行く感触に恍惚となった。
また……、また……、俺は眠くなり、身を潜めることのできる場所を求め、ズルズルと重くなった体をくねらせ地面を這った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第二部

Hiroko
ファンタジー
奈良時代の日本から戻った和也と芹那。 いつもと変わらぬ風景であるはずの日本。 けれどそこは、奈良時代に変えることのできなかった時の流れがそのまま受け継がれた世界だった。 悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」の第二部です。 写真はphotoACより、TonyG様の、「田村神社 龍神」を頂きました。

約束の子

月夜野 すみれ
ファンタジー
幼い頃から特別扱いをされていた神官の少年カイル。 カイルが上級神官になったとき、神の化身と言われていた少女ミラが上級神官として同じ神殿にやってきた。 真面目な性格のカイルとわがままなミラは反発しあう。 しかしミラとカイルは「約束の子」、「破壊神の使い」などと呼ばれ命を狙われていたと知る事になる。 攻撃魔法が一切使えないカイルと強力な魔法が使える代わりにバリエーションが少ないミラが「約束の子」/「破壊神の使い」が施行するとされる「契約」を阻む事になる。 カタカナの名前が沢山出てきますが主人公二人の名前以外は覚えなくていいです(特に人名は途中で入れ替わったりしますので)。 名無しだと混乱するから名前が付いてるだけで1度しか出てこない名前も多いので覚える必要はありません。 カクヨム、小説家になろう、ノベマにも同じものを投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...