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「ラリー、その子の話を聞かせてよ」
「その子? リナのことかな?」
「リナ? ラリーがさっき言った、部屋を出たって子のことだよ?」
「ああそうじゃ。リナと言う名でな、ちょっと風変わりな子じゃった。つい一年ほど前、わしがフィグツリーのメイン回路の交換をしたところだった」
「フィグツリーの交換ってことは、彼女は六歳だったんだね」
「そういうことだ」
「その子の話を聞きたいんだ。もっと聞かせてよ!」
「かまわんが、あの人形に聞いた方が、よく知っているんじゃなかろうか」
「あの人形? 玩具なんだろ? 話せるのかい?」ショウは川辺にひっかかったソフィと呼ばれる人形の後ろ姿を興味深げに見つめながら言った。
「そのはずじゃ。壊れてなければな。わしが話せるようにしたんだ。アンドロイドに使う培養脳を移植した」
「すごいや!」
「けれど、すべてをアンドロイド化することはできなんだ。首から上だけじゃ」
「首から上だけ?」
「ああ。他の機能を埋め込むには、体が小さすぎた。だから、首から上はアンドロイドのように動かせるし、話もできる。けれど、手足を動かして自分で歩いたりすることはできない」
「だから水に流されてあそこに引っかかったまま、動けないんだね」
「ああ、そう言うことだろう。いつからソフィはあそこにいるんだね?」
「つい三日ほど前、ひどい雨で川が増水したんだ。その時に流されてきたんだと思う」
「女の子……、リナはおらんかったかね」
「うん、見てないな」
「じゃあやっぱり生き延びることはできなんだか」
「死んでしまったってこと?」
「恐らくな。リナはソフィを大切にしていた。そのソフィが独りであそこにいると言うことは、そういう事じゃろう」
「ねえ、ソフィとどうやって話せばいい? 外部マイクで声が拾えるだろうか」
「そんなことせんでも、ソフィの思考に直接アクセスして、音声化すればいい。お前さんの声も、それで向こうに届くはずじゃ。ちょっと待っとれ」
ショウはほんの数分も待ちきれないと言った表情で、じっとソフィの後ろ姿を見つめていた。
やがてラリーは言った。「ソフィ、ソフィ? 聞こえるかね? そこにおるのはソフィじゃろ?」
ほんの一瞬、沈黙があり、ソフィはもはや壊れているのではないかと言う懸念がショウの頭をよぎった。
けれど十秒ほどすると、部屋にソフィの声が聞こえた。
「ええそうよ。あなたは誰? どこから話しているの?」
「忘れたかね? ラリーじゃ。君を話せるようにした」
「もちろん、覚えているわ。ラリー、どうしてあなたの声がするの?」
「君の後ろに部屋があるんじゃ。そこから話している」
「部屋?」
「ああ、そうじゃ。部屋だ。君がリナと一緒に過ごしていた部屋だ。世界の至るところにあって、子供たちが暮らしておる。ここにもそれがあるんだ。この部屋の子がな、お前さんを見つけて話をしたいとわしに言ってきた。良かったら話してやってくれんか」
「もちろん。私はかまわないわ」
「ほれ、ショウ、何か話してみんか」
ショウにとって、フィグツリーの疑似体験以外で、ラリーとジーニャ、そして両親以外の人間と話すのは初めてのことだった。ましてそれが人形とは言え女の子だと言うことに、ショウはいくぶん緊張をした。
そしてなにより、ソフィの声は美しかった。澄み切った夜の湖が、湖面に月を映し出すのを見るような、あまりの美しさに触れることすら許されないような雰囲気を持った声だった。
「そ、その、やあ、僕はショウと言うんだ」やっと声を絞り出した。
「初めまして。私はソフィよ」
「その、何と言うか、綺麗な声だね」
「そう。初めて言われたわ。ありがとう」
「いや、あの……」
「何を緊張しておる」ラリーが怪訝そうな顔でショウを見上げて言った。「まあ、わしは忙しいんでな。そろそろ行くでな」
「あ、うん、ラリー、あ、ちょ、ちょっと待って……」ショウがそう言い終わる前に、ラリーはもう消えていた。
「その子? リナのことかな?」
「リナ? ラリーがさっき言った、部屋を出たって子のことだよ?」
「ああそうじゃ。リナと言う名でな、ちょっと風変わりな子じゃった。つい一年ほど前、わしがフィグツリーのメイン回路の交換をしたところだった」
「フィグツリーの交換ってことは、彼女は六歳だったんだね」
「そういうことだ」
「その子の話を聞きたいんだ。もっと聞かせてよ!」
「かまわんが、あの人形に聞いた方が、よく知っているんじゃなかろうか」
「あの人形? 玩具なんだろ? 話せるのかい?」ショウは川辺にひっかかったソフィと呼ばれる人形の後ろ姿を興味深げに見つめながら言った。
「そのはずじゃ。壊れてなければな。わしが話せるようにしたんだ。アンドロイドに使う培養脳を移植した」
「すごいや!」
「けれど、すべてをアンドロイド化することはできなんだ。首から上だけじゃ」
「首から上だけ?」
「ああ。他の機能を埋め込むには、体が小さすぎた。だから、首から上はアンドロイドのように動かせるし、話もできる。けれど、手足を動かして自分で歩いたりすることはできない」
「だから水に流されてあそこに引っかかったまま、動けないんだね」
「ああ、そう言うことだろう。いつからソフィはあそこにいるんだね?」
「つい三日ほど前、ひどい雨で川が増水したんだ。その時に流されてきたんだと思う」
「女の子……、リナはおらんかったかね」
「うん、見てないな」
「じゃあやっぱり生き延びることはできなんだか」
「死んでしまったってこと?」
「恐らくな。リナはソフィを大切にしていた。そのソフィが独りであそこにいると言うことは、そういう事じゃろう」
「ねえ、ソフィとどうやって話せばいい? 外部マイクで声が拾えるだろうか」
「そんなことせんでも、ソフィの思考に直接アクセスして、音声化すればいい。お前さんの声も、それで向こうに届くはずじゃ。ちょっと待っとれ」
ショウはほんの数分も待ちきれないと言った表情で、じっとソフィの後ろ姿を見つめていた。
やがてラリーは言った。「ソフィ、ソフィ? 聞こえるかね? そこにおるのはソフィじゃろ?」
ほんの一瞬、沈黙があり、ソフィはもはや壊れているのではないかと言う懸念がショウの頭をよぎった。
けれど十秒ほどすると、部屋にソフィの声が聞こえた。
「ええそうよ。あなたは誰? どこから話しているの?」
「忘れたかね? ラリーじゃ。君を話せるようにした」
「もちろん、覚えているわ。ラリー、どうしてあなたの声がするの?」
「君の後ろに部屋があるんじゃ。そこから話している」
「部屋?」
「ああ、そうじゃ。部屋だ。君がリナと一緒に過ごしていた部屋だ。世界の至るところにあって、子供たちが暮らしておる。ここにもそれがあるんだ。この部屋の子がな、お前さんを見つけて話をしたいとわしに言ってきた。良かったら話してやってくれんか」
「もちろん。私はかまわないわ」
「ほれ、ショウ、何か話してみんか」
ショウにとって、フィグツリーの疑似体験以外で、ラリーとジーニャ、そして両親以外の人間と話すのは初めてのことだった。ましてそれが人形とは言え女の子だと言うことに、ショウはいくぶん緊張をした。
そしてなにより、ソフィの声は美しかった。澄み切った夜の湖が、湖面に月を映し出すのを見るような、あまりの美しさに触れることすら許されないような雰囲気を持った声だった。
「そ、その、やあ、僕はショウと言うんだ」やっと声を絞り出した。
「初めまして。私はソフィよ」
「その、何と言うか、綺麗な声だね」
「そう。初めて言われたわ。ありがとう」
「いや、あの……」
「何を緊張しておる」ラリーが怪訝そうな顔でショウを見上げて言った。「まあ、わしは忙しいんでな。そろそろ行くでな」
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