フレンチ Doll of the 明治 era

Hiroko

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「ソフィ、ソフィって言うのね、あなたの名前。素敵な名前だわ」
リナはそっとソフィの頬に触れた。
その感触は人間の皮膚より柔らかで、ほんのりと温かく、触れられるのを優しく拒絶するように、するりとリナの指先を滑らせた。
「くすぐったいわ」ソフィは言った。
「ごめんなさい。けれどあまりにその……、美しくて」
「違うの。もっと私に触れて? 私はそのためにあるのよ?」
「ソフィは、触れられるためにあるの?」
「ええそうよ。触れられ、抱きしめられ、愛されるために存在しているの」
「愛されるため……」
「ええ、そうよ」
眠りから覚めたばかりのソフィの目はどこか虚ろで、けれど覗き込むともうそこから抜け出せないような神秘的なブルーの泉だった。まるで写実的な風景画を額の中に見るように、その向こう側にもまた世界が広がっていた。意識が吸い込まれていくのを感じた。向こう側に行くことを切望していた。初めて気づいた。私は囚われている。胸の奥にある狭い小部屋にはりつけにされている。息苦しい……、いや違う。私は呼吸がしたいのではない。呼吸から解放されたいのだ。この血の巡りから解放されたいのだ。脱ぎ捨てたいのだ。
ソフィ……。リナはその瞳の中に溺れたいと思った。
「さあ、私を抱きしめて?」
リナはソフィに言われるまま、その小さな体を持ち上げ、抱きしめた。
「さあ、いま、どんな気分?」
「わからないわ。なんだか、苦しいわ」
「どんなふうに苦しいの?」
「外に出たがっている」
「何がかしら」
「私……、私がよ」
「あなたはここにいるわ」
「違う……、違うのよ。根源的な何かよ。私を包み隠しているこの体から、解放されたいの」
「それはあなたの心よ」
「ココロ? それは何?」
「あなたをあなたたらしめているものよ」
「私の本質のようなもの?」
「ええ、そうね。体がどんな形になろうとも、老いても朽ちても、あなたがあなたでいることを了知するもの」
「私が、私だと思っているものは、私ではないと言うの?」
「ええ、そうよ。あなたが目で見ているあなた自身は、他人が見ている他人自身と何ら変わりはない」
「では、私は私の存在をどうやって感じればいいの?」
「私を、愛すればいいの」
「愛する?」
「あなたの心を、私の中に……」
「あなたの中に、私の心を差し出せばいいのね……」

外はすっかり明るくなっていた。
霧が出ている。
まるで木々が深い呼吸をするように、霧は時おり方向を変えて風に流された。
やがて木々の隙間から落ちてきた細い光は、まるでそこに命を与えるように金色の矢を放った。
「もう話せるようになるなんて、こりゃ驚いたね。言語機能の成熟は、あと早くとも二週間はかかるはずだったんだが……」ラリーはそう言って目を丸くしながら帰っていった。
リナは椅子に座りながら、ソフィを抱きしめ膝に置き、外の景色をじっと眺めた。
「まだ私の名前を言っていなかったわ」
「あなたの名前はリナ、知っているわ」
「どうして私の名前を知っているの?」
「ずっと見ていたもの」
「そうね……、そうだわ、私たち、ずっと同じ部屋にいたのだものね」
「私はぜんぶ知っている。リナ、あなたが生まれた時から、この部屋で暮らし始めた時、その全てをこの目で見て、この耳で聞いてきたの」


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