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正人の話 其の壱陸
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俺は、生きてるのか?
俺は空を見上げながら芝生の上に眠っていた。
すぐ横にさざ波の音が聞こえる。恐らく琵琶湖の湖畔が近いのだろう。
星が見える。
今は、何時だ。
時間のわかるものはなにもなかった。
だが……、なんとなく、今は夜ではないような気がした。
酷い目に遭ったせいで、自分で思っているより眠っていたのかも知れない。
だが、何かがおかしい……、そんな気がした。
体を起こし、自分の体を確かめた。
月読尊に、ぼろぼろにされたはずだった。
殺されたはずだった。
なのに、どうして生きてる? どうして何ともない?
辺りを見渡した。
化け物の姿はどこにもない。
そうか、月読尊が……。そう言えば、月読尊はどこだ?
探してみると、街路樹に寄り掛かるようにして眠っているのを見つけた。
俺は立ち上がり、月読尊を起こした。
「あら、生きていたのね」月読尊は目を覚ますと、憎しみの籠った目で俺を睨みつけてきた。
「生きていた、って、お前が生き返らせたんだろ」
「殺すつもりだったわ」
「そりゃ残念だったな」
「今すぐ殺してあげましょうか!!!?」月読尊は勢いよく立ち上がると、つかみかかるように俺の首を両手で締め上げそう言った。
「あんたがあの時香奈子にしたこと、許せることじゃないわよ!?」
「俺は香奈子を救ってやったのさ」
「何を寝ぼけたこと言ってるの!!!」
「じゃあ、俺があの時ああしなかったら、お前は化け物を殺せていたのか?」
「そんなこと言い訳にならないわ!」
「お前があの時破滅の力を目覚めさせ、化け物を殺せたのは、俺が香奈子を土蜘蛛めがけて放り投げたからだ。そうしなけりゃ、今頃香奈子は化け物に食われていたさ」
「そんなことしなくても!」
「そんなことしなくても、どうなっていたって言うんだ? それになあ、お前は香奈子の覚悟を見くびっている」
「どう言うことよ!」
「あいつは自分の命を惜しいとも、誰かに助けて欲しいとも思っちゃいねえ。たとえそれで命を落としても、自分で戦い、和也を救いたいと思っている。お前はその香奈子の覚悟をまったく理解できちゃいねえんだ」
「あんたに何がわかるのよ!」
「わかるさ。でなきゃ俺は今ごろお前に殺されていた。違うか?」
「ええそうよ。香奈子が必死になってあなたを助けてくれと頼んできた。私の目の前に土下座したわ。だから私は助けたの。でなきゃ確実にあのまま殺していたわ」
「それが答えさ。あいつは自分が死ぬことなんて何とも思っちゃいねえんだ」
「それと、ほんとに死んでいいと言うこととは違うわ」
「殺しはしねーよ。お前があの時助けられなきゃ、俺が助けてた」
「そんなこと、後からいくらでも言えるわ」そう言って月読尊は俺から手を離した。
「ところで、その香奈子はいったいどこにいる?」
「えっ……」そう言って月読尊はさっきまで自分の寝ていた街路樹を振り向いた。「私の横で一緒に……」
「ちょっとトイレに行った、ってわけじゃなさそうだぜ」
「そんな、まさか!?」
「それに、それ以外にも気になることがある。いま、いったい何時だ?」
「時間? なんでそんなこと……」そう言って月読尊はスマホを取り出し、「えっ? どうして?」とつぶやくと、まるでいま気が付いたかのような表情で夜空を見上げた。
「で、何時なんだ」
「あ、朝の……、十時よ……」
「なるほどな。朝の十時って言う空じゃねえな」
月読尊は唖然とした様子で空をしばし眺めた。そして我を取り戻すように首を横に振り、「そんなことより、今は香奈子を、香奈子を探さなきゃ」と言った。
「お前たちが眠ったのはいつだ?」
「いつ? 覚えてないわよ。けれど、あなたを治した後だったから、夜中の一時くらいだったと思うわ」
「じゃあ、八時間はたってるってことだな」
「なにが言いたいのよ」
「追いつくのは難しいって言ってるんだ」
「どこに行ったか知ってるような口ぶりね」
「和也のところに決まってるじゃねえか」
俺は空を見上げながら芝生の上に眠っていた。
すぐ横にさざ波の音が聞こえる。恐らく琵琶湖の湖畔が近いのだろう。
星が見える。
今は、何時だ。
時間のわかるものはなにもなかった。
だが……、なんとなく、今は夜ではないような気がした。
酷い目に遭ったせいで、自分で思っているより眠っていたのかも知れない。
だが、何かがおかしい……、そんな気がした。
体を起こし、自分の体を確かめた。
月読尊に、ぼろぼろにされたはずだった。
殺されたはずだった。
なのに、どうして生きてる? どうして何ともない?
辺りを見渡した。
化け物の姿はどこにもない。
そうか、月読尊が……。そう言えば、月読尊はどこだ?
探してみると、街路樹に寄り掛かるようにして眠っているのを見つけた。
俺は立ち上がり、月読尊を起こした。
「あら、生きていたのね」月読尊は目を覚ますと、憎しみの籠った目で俺を睨みつけてきた。
「生きていた、って、お前が生き返らせたんだろ」
「殺すつもりだったわ」
「そりゃ残念だったな」
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「俺は香奈子を救ってやったのさ」
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「そんなことしなくても!」
「そんなことしなくても、どうなっていたって言うんだ? それになあ、お前は香奈子の覚悟を見くびっている」
「どう言うことよ!」
「あいつは自分の命を惜しいとも、誰かに助けて欲しいとも思っちゃいねえ。たとえそれで命を落としても、自分で戦い、和也を救いたいと思っている。お前はその香奈子の覚悟をまったく理解できちゃいねえんだ」
「あんたに何がわかるのよ!」
「わかるさ。でなきゃ俺は今ごろお前に殺されていた。違うか?」
「ええそうよ。香奈子が必死になってあなたを助けてくれと頼んできた。私の目の前に土下座したわ。だから私は助けたの。でなきゃ確実にあのまま殺していたわ」
「それが答えさ。あいつは自分が死ぬことなんて何とも思っちゃいねえんだ」
「それと、ほんとに死んでいいと言うこととは違うわ」
「殺しはしねーよ。お前があの時助けられなきゃ、俺が助けてた」
「そんなこと、後からいくらでも言えるわ」そう言って月読尊は俺から手を離した。
「ところで、その香奈子はいったいどこにいる?」
「えっ……」そう言って月読尊はさっきまで自分の寝ていた街路樹を振り向いた。「私の横で一緒に……」
「ちょっとトイレに行った、ってわけじゃなさそうだぜ」
「そんな、まさか!?」
「それに、それ以外にも気になることがある。いま、いったい何時だ?」
「時間? なんでそんなこと……」そう言って月読尊はスマホを取り出し、「えっ? どうして?」とつぶやくと、まるでいま気が付いたかのような表情で夜空を見上げた。
「で、何時なんだ」
「あ、朝の……、十時よ……」
「なるほどな。朝の十時って言う空じゃねえな」
月読尊は唖然とした様子で空をしばし眺めた。そして我を取り戻すように首を横に振り、「そんなことより、今は香奈子を、香奈子を探さなきゃ」と言った。
「お前たちが眠ったのはいつだ?」
「いつ? 覚えてないわよ。けれど、あなたを治した後だったから、夜中の一時くらいだったと思うわ」
「じゃあ、八時間はたってるってことだな」
「なにが言いたいのよ」
「追いつくのは難しいって言ってるんだ」
「どこに行ったか知ってるような口ぶりね」
「和也のところに決まってるじゃねえか」
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