国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)

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 王城と目と鼻の先にある神殿へ急足で向かうセイラは、顔見知りの騎士や侍従の人から歓喜の声が上がり、びっくりする。

「セイラ様の聖なる力を皆、実感したのですよ。追放当初は笑っていた者達も、荒れ果てていく国内の様子に、自分達の認識が間違っていたと反省しております。もう、セイラ様の濡衣も晴れております。安心してお戻り下さいませ」

 にっこりと笑顔で言ってくれるが。

 あ~、この侍女の人にはまだキッチリとお断りした事が伝わってないんだね。でも、今、聖女に戻るつもりは全く無いと言ったら、また泣き叫ぶんだろうな。

 うん、アレは避けたい。

 とりあえず、答えずに置こう。

 神殿についたし。


「おおっ、セイラ!!よく戻って来てくれました!!皆と一緒に祈って下さい!!」

 神官長様の声に、祈っていた聖女や見習い聖女達も顔を上げた。セイラの見知った顔ばかりだが、皆一様に疲れた顔をしている。

 聖女達は聖なる水晶(巨大)の周りを取り囲む様に輪になっている。聖女達の祈りを受け、薄らと光っているが弱々しい光だ。

 私が祈っていた時には、もっと力強く輝いていたのに・・・。

 ふと憎しみを帯びた視線を感じ、チラリと視線を動かせば、ミシェルが下唇を噛み締めながら睨んでいる。

 はぁ~、私が悪い訳じゃ無いわよ。

 ミシェルが望んだ事でしょ?と思わず睨み返してしまう。

 でも、今はそんな場合では無かったわ。

 聖女の輪に加わり、久しぶりに祈りを捧げる。すると弱々しく光っていた水晶は、真夏日の太陽の様に明る輝きはじめた。しかも、ソレは今までのセイラの力を更に高めた光だ。

 えっ!?

 何でこんな光り方をするのっ!?

 内心驚きながらめ祈りを続けると、頭に声が響く。

『ワシらの力も加わってしまうのじゃ。まあ、気にせず祈るが良い』

 ウサギの声だ。

『セイラ、チャッチャと終わらせて一緒に温泉浸かろうよっ』

 ふふっ、タヌキもみんなも温泉好きだからね、早く帰りたいわっ!!

 いっそう心を込めて祈ると、水晶があり得ない位に光り輝き、細い光をセイラの右手の甲に当てた。

 ソレは数秒だったが、暖かく心地の良いものだった。

 眩しい光が収まり、セイラの手の甲に当たる光も収まると、聖女は誰も祈っていないのに水晶はほのかに光っている。

「おおっ!!聖なる水晶が自ら光っているのはいつぶりじゃ!?」

 神官長様は嬉しそうな声を上げる。

 そしてセイラの手を取り、戻って来た事への感謝を告げる。

「セイラは大聖女に決まりだな。うむ。皆、今迄の疲れが溜まっているであろう。今日は早めに休み、明日からも大聖女セイラと共にーーー」

「私は大聖女にはなりませんよ?」

「分かっておる、大聖女にはならーーー、何じゃとっ!?」

 神官長様は途中で声がひっくり返ってしまった。

「ですから、私は大聖女にも聖女にもならないと、国王様にも伝えてあります。状況が収まれば帰らせてもらいます」

「な、何じゃとっ!?」

 興奮してしまった神官長様はその場で泡を吹いて倒れてしまった。

 私のせいじゃないもん・・・。




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