上 下
40 / 45

40

しおりを挟む
 広いダイニングルームには、微かなカトラリーを使う音が聞こえる以外は、音がしない。

 その部屋には向かい合い座り、温かな日差しの中朝食を食べている新婚夫婦がいるにも関わらずだ。

 2人の周りで給仕しているメイドも、控えている執事も言葉を発する事は無い。

 ハズキは息苦しさを覚えるが、あえて言葉を発する事はしなかった。何故、シリウスと朝食を食べなければならなくなったのか。

 


 1時間程前に遡る。

 シリウスの唇が甘く朝から昨夜の続きをしたいと囁いたが、色気も何もなく

 『今は無理っ!尻が壊れるっ!!』

 と盛大に叫んだハズキに、シリウスはガッツリと濃厚なキスをし、判断能力が無くなった頃、

『ハズキ、お前と俺は初夜を迎えたよな?夫婦だ。夫婦は一緒に食事を摂るものだよな?お前は常に夫である俺と共にあるべきだ。そうだよな、ハズキ?ほら、キスの続きをして欲しいなら頷け』

 後半を優しく言われ、優しいキスをして欲しくてハズキは頷いてしまったのだ。

『言質は取ったぞ、ハズキ』

 その後、濃厚なキスをされ半ば意識を飛ばしてしまったハズキは、シリウスの部屋にやって来たマリナに起こされた。



「ハズキ様っ、起きて下さいっ!!色々状況変わってきてるんですよ!!」

「ん・・・、マリナおはよ・・・」

 頭が回らなく、ぼ~っとする。

「ハズキ様の身支度を整えてダイニングに連れてくる様にって直接シリウス様が来たんですけど?ど~ゆ~事ですか?ハズキ様が完全に嫁になったと、気持ち悪い位に笑顔でのたまっていきましたけどっ!?」

「気持ち悪いって・・・、マリナ。一応、この家の主人で、マリナの給料もシリウスのオラハルト家から出るんだけど・・・な」

「私はナツキ様付きのメイドですから、ハズキ様が正式に嫁の座に収ったので、このオラハルト家を退職し、ナツキ様の元に戻りたいと思います」

 しれっとマリナはナツキの所に戻りたいと言う。それは、

「やっぱりナツキの居場所を知ってたのかっ!?」

「当たり前じゃないですか。そんな事よりも早く着替えて下さい。シリウス様がお待ちですよ」

 マリナに話を打ち切られ、ドレスに着替えさせられる。

「俺、シリウスと飯食べたく無い」

 着替えたハズキは、マリナにせっつかれながらダイニングに向かわされる間中、ブチブチと文句を言う。

「そもそも、俺が嫁になるなんてどうかしてるっ!!俺はマリナと一緒に飯が食いたいっ!!シリウスなんかイヤだ、マリナがいいんだっ!!なっ!?マリナ、断って来てくれっ!!」

 俺はマリナに懇願する。

「ハズキ様、無理ですよ。既にダイニングに着いてます」

 マリナの言葉に周りを見渡すと、眉間に皺を寄せたシリウスが睨みつけ、メイド達は皆俯きながらも朝食の配膳をしている。

 マリナに椅子を引かれ、シリウスの正面に座らされ、無言の食事が始まった。

 シリウスは無言のままに食事を終えると、スタスタと部屋を出て行った。その後ろ姿を見てハズキは、『ふぅ~っ』と大きなため息を吐いた。


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18、最初から終わってるオレとヤンデレ兄弟

あおい夜
BL
注意! エロです! 男同士のエロです! 主人公は『一応』転生者ですが、ヤバい時に記憶を思い出します。 容赦なく、エロです。 何故か完結してからもお気に入り登録してくれてる人が沢山いたので番外編も作りました。 良かったら読んで下さい。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

[R18] 20歳の俺、男達のペットになる

ねねこ
BL
20歳の男がご主人様に飼われペットとなり、体を開発されまくって、複数の男達に調教される話です。 複数表現あり

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どこかがふつうと違うベータだった僕の話

mie
BL
ふつうのベータと思ってのは自分だけで、そうではなかったらしい。ベータだけど、溺愛される話 作品自体は完結しています。 番外編を思い付いたら書くスタイルなので、不定期更新になります。 ここから先に妊娠表現が出てくるので、タグ付けを追加しました。苦手な方はご注意下さい。 初のBLでオメガバースを書きます。温かい目で読んで下さい

処理中です...