上 下
11 / 45

11

しおりを挟む
 ハズキは教会から戻ると図書室に行き、刺繍の本を見てみる。案外色々なジャンルが取り揃えてある事に前回気がついたのだ。

 おっ、イニシャルの図案あるじゃん!しかも、誰か使ったのかな?折り目が付いてたりする。その本を借りて行く事にした。

 教会からの帰り道、手芸用品店で刺繍用のハンカチを追加して買ったので、準備万端だ。

 まずは練習に・・・。



 「セバスチャン、今良いかしら?」

 「ナツキ様、どうかされましたか?」

 「あの、試作品なんだけどハンカチに刺繍してみたの。良かったら使ってみて?」

 ラッピングなどはしておらず、そのままの状態で渡す。セバスチャンの『S』を花文字で刺繍したものだ。

 「私にですか、ありがとうございます。はっ!この図柄は・・・」

 セバスチャンはびっくりした顔だ。

 「図書室にある図柄を参考にしたのだけど、変だったかしら?」

 「いえ、昔頂いた物と同じ図柄だったので、びっくりしました。そうですか・・・、図書室の」

 しんみりしたセバスチャンを置いて部屋に帰る事にした。



 セバスチャンのハンカチで糸と布の相性はわかってので、他のアルファベットも作って行く。刺繍の図柄にはアルファベット毎に作る枚数と昔のバザーの日が書かれているメモが挟まっていた。もう、10年以上も前の日付だった。ソレはそのまま挟んでおく事にした。




 「なあ、マリナ。シリウスにもあげとくべきか?ハンカチ」

 「どっちでもいいじゃないですか?ナツキ様次第ですよ」

 最近マリナは2人のときでも絶対に『ナツキ』と言うようになった。ポロッと言い間違え無いようにする為らしい。

 「じゃあ、まあ、いっか。嫌いな俺からもらって捨てるくらいならバザーで売った方がいいだろ」

 うんうん、と納得しシリウスには渡さない事にした。来週末には教会のバザーがあるので、少しでも多くのハンカチに刺繍しよう。



 出来上がった刺繍のハンカチを教会に持って行くと、受け取った年配の女性はハンカチとハズキの顔を何度か見たが何も言わず、

 「沢山のご寄付をありがとうございます。お名前を教えて下さい」

 と紙に記入しながら聞いて来たので、

 「オラハルト公爵家です」

 と答えた。するとその女性はピタリと字を書くのをやめ、再びハズキの顔を見た。

 「オラハルト公爵家ですね。いつもご寄付を頂きありがとうございます」

 と、貼り付けたような笑みを浮かべた。

 この刺繍の図柄とオラハルト家に何かあるのか?と思ったが、突っ込んで聞くのはやめておいた。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

処理中です...