私が知ってる貴方

ゆきりん(安室 雪)

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 いつも残業が無い理沙だが、月末で明日から連休と言う事もあり、かなり遅くまで仕事をしていた。夕方から少し風邪気味っぽく頭がフラフラしていた。家には風邪薬の買置きは無かったはず。

 最寄り駅よりも前で1度降りて薬局で薬を買わなきゃ。

 薬局で風邪薬、レトルトのお粥、スポーツドリンクを買いまた駅まで向かう。しかし元々フラフラしているのに加え、荷物が少し重いのだ。スポーツドリンクは家の近くのコンビニにすればよかった。安さにつられて多めに買いすぎた。

 フラフラしながら信号の無い横断歩道を渡っていると、そこに突然車が突っ込んでくる。朦朧としていた理沙は呆気なく車と衝突してしまう。

 そこで意識は途絶えたーーー。


 
 身体が痛い、どうしたんだろう?

 パチリと目を開けるとそこは知らないベッドの柔らかさ、天井、知らない顔。

!?

「あ、あのっ!?どちら様っ・・・、痛っ」

 知らない顔に向け、身体を起こしながら話すと、あまりにも全身が痛く、そのままベッドに倒れこんでしまう

「お前、俺の車とぶつかったんだ。覚えてないか?」

 ベッドに横になっている理沙を上から見下ろすその男の顔は眼光鋭くかなり怖い印象のイケメンだ。ヤクザ映画とかの俳優みたいだ。

 ?車・・・?仕事帰りに薬局行って、駅に向かって・・・、あっ。黒い車が近いてきて。

「思い出した。フラフラしてて、動けなかったんだ」

「ああ。軽い接触のはずなのにお前は派手に転んで動かなくなったんだ。当たり屋かと思ったぞ」

 そして、大した怪我じゃないはずだし、急いでいたからそのまま車に乗せて連れて帰ったそうだ。

「医者に見せたら打撲だけで、後は風邪の診断だったから風邪薬飲ませて点滴させといた。気分はどうだ」

「はあ。身体が痛い以外は。風邪もさっきよりいい様な気がします。すいません、面倒をおかけしました」

 ペコリと頭を下げる。

「当たり屋だったら少し怖い目を見てもらおうと思ったがな。ま、ゆっくり休んでいけ。飯はココに運ばせる」

 そう言うと、その男は部屋から出て行った。

 しばらくすると、スーツをビシッときた男性がお粥を運んでくれる。

 うわっ、これまたイケメンだわ。アイドルグループにいそうだわ。そんな人が、理沙をベッドから起こし、クッションを背に当て楽な姿勢をとらせてくれる。しかもベッドに台を設置し、その上にお粥やスープ、お茶、果物などを置き、

「食べさせてあげましょうか?」

 などと、見つめながら聞いてくる。

「い、いえっ!自分で食べますっ。頂きますっ」

 右手を伸ばすと少し痛みがあったが、我慢して食べる。理沙が食べている間、そのイケメンは横に控えていて、落ち着かない。何とか食べきると、台の上に薬らしきものと水が置かれる。

「風邪薬です。3日は飲む様にと医者から処方されてます。飲ませてあげましょうか?」

 にっこりと微笑みながら言われる。

「いえっ!自分で飲みますっ!」

 粉薬を口に入れ、水で流し込む。

 ううっ、苦い。

「ゆっくりおやすみになって下さい」

 台を片付けられ、背中のクッションを退けられ、枕に変わる。ノロノロと横になると、また睡魔が襲ってくる。1度目を閉じるとそのまま身体が沈むように寝入ってしまった。


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