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 お昼前にスミレは起き出したが、なるべく宿からは出ないようにしようと思った。デイジー情報だと甘い匂いが番の印みたいな事を言ってたしな。

 確かにガイナード殿下からは香水みたいな花の匂いがしていたが、アレが番の匂いなのか?自警団のヤツは同じ場所にいながら匂わないって言ってたし。

 いやいや、香水つけてたけど蓄のう症とか風邪で匂いがわからないヤツばっかりだったとか?

 まあ、何にしても用心しとこう。

 お腹も空いたし、昼食でも食べよう。ココの宿は1階に飲食店が入っていて、宿泊者は少し安くしてもらえるのだ。何年か前に兄に教えてもらい重宝している。

 「よっ、スミレ!!」

 「兄貴っ!?何で居るんだ!?」

 兄は外に合図した。

 すると、今もっとも嗅ぎたくない匂いが漂ってきた。

 「げっ!!」

 匂いの後にやってきた人物をみて、つい口から言葉が出る。

 ガイナード殿下は嬉しそうに笑っている。

 「ダラスに聞いて正解だな、俺も近くに来れば匂いでわかるけどな。早く見つかって良かったよ、マイ エンジェル」

 ブフッ!!

 飲んでいたお茶を吹き出してしまい、兄は殿下の後ろで笑うのを堪えている。

 「何かご用ですか?ガイナード殿下?」

 睨みつけながら、問いかける。

 「今回の番探し行脚終了の為に、エンジェルを王宮に連れて行きたいんだが」

 「お断りします、番なんてなりたくありません」

 「ほう?理由は?」

 ガイナード殿下の、瞳が細められ声が一段低くなる。

 「まずは、初対面で抱きついてくる男なんて女遊びが激しそうでイヤ。私は硬派が好きなので、節操なしは嫌いなタイプです。物事に縛られて生活するのもイヤ、ドレスや宝石なんてモノも興味ないし。私に女を求める事自体が間違いだ。デイジーでも嫁にしてくれ」

 「あ~、スミレ。あのな?ガイナード殿下は女っ気は全く無いぞ?舞踏会やらあると騎士団を言い訳に逃げるお前と同類だ。かなり硬派だ。お前のドレス嫌いはそろそろ治せ」

 「はぁ?アレのどこが硬派だ?しかも硬派な人間が口からするっと『マイ エンジェル』なんて言うのかよ!?」

 「ガイナード殿下、スミレは口が悪いですが聞き流して下さい。ネコを被らなければならない場面では一応、ネコ被れますので。では私は失礼します」

 ガイナード殿下に頭を下げ、兄は去って行ってしまった。

 お~い、兄貴。

 コイツも持って行ってくれよ~っ!!
 
 スミレの心の声は届かず、ガイナード殿下は料理を注文し、普通に食べ始めた。

 「おっ!美味いなっ。いくらでも食えそうだ」

 殿下だと聞いてなかったら、普通の騎士に見えそうな話し方・食べ方だ。

 思わず、ジッと見てしまう。

 「ん?食べ方が汚いか?」

 「え、いや。そう言う訳ではなく、殿下の口に合うのか?」

 口調を改めるのも癪に触るから、普段の口調で話す。

 「ああ、俺は王宮で過ごすよりも騎士団で生活する方が楽な質だからな。カラトリーなんか、フォーク・ナイフ・スプーンがそれぞれ1本あれば充分だろうよ。面倒くさい。チマチマと。いっそ手掴みで食った方が早いモンもあるだろって」

 プッと笑ってしまう。

 コレが殿下?

 王子様のイメージと大分違うな。

 「あ?コレが王族かっ!?て、思っただろ?アンタも伯爵令嬢らしくなくていいぞ?デイジーは嫌いじゃない伯爵令嬢だが、アンタはどストライクな伯爵令嬢だ。さすが番だけあるな」

 ニッとガイナード殿下はワイルドな笑いを見せた。





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