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「まあ、真理亜さんはお淑やかで可愛らしいわぁ」
さっきから何度目かの言葉だ。斜め前で喋っているのは佐々木夫人。そして正面に座っているのが、息子の秀人。真理亜の見合い相手だ。有名大学を出て、父親の会社を継ぐべく働いているらしい。いかにもお坊っちゃん風で、母親に口答えしない。
ホテルでお見合いランチを食べ終わった所で、秀人と真理亜は喫茶ルームへ促され、夫人同士はそのままの場所でお茶を頂くらしい。
さて、どうやってお断りしてもらおうかと考えていると、秀人の方から話を振ってきた。
「あの、真理亜さん。実は僕には思っている人がいるんです。だから、このお話は・・・」
「はい。私もまだ結婚は早いかと思っていたので、秀人さんの方からお断りして頂けると助かります」
ふんわり、真理亜スマイルを作る。
よっし!これで任務完了になるはずっ!心の中でガッツポーズをする。
「ありがとう。母がしつこく連絡するかも知れないけど、断ってくれると僕も助かります」
思わぬ所で早く話がまとまる。
運ばれて来たミルクティーを頂き、すぐに夫人達と合流する。
秀人から今回のお見合いは無かった事に、との言葉に佐々木夫人はとても残念がっていたが仕方がない。本人同士にその気が無いのだ。2人が去った後、一条夫人と、真理亜役の綾美は安堵の表情を浮かべる。
「ありがとう、綾美さん。今日までご苦労様」
と労って貰っていると、不意に声をかけられる。
「おや、一条夫人ではないですか?」
声がした方を見ると、恰幅が良い男性と若い背の高い男性がいる。
「まぁ、後藤さん?ご無沙汰してます。まぁ、息子さん?大きくなられて」
「そちらのお嬢さんは、真理亜さんですかな?美人になられましたな」
「まぁ、ありがとうございます。急いでますので、失礼しますわ」
夫人が歩きだすので、綾美もペコリとお辞儀をしてその場を去る。
当初はホテルで解散予定だったが、夫人と綾美は一緒にタクシーに乗る。
「綾美さん、ごめんなさいね。厄介な人に会ってしまったわ。さっきの後藤さんも真理亜にお見合い話を貰ってるのよ。何度かお断りしているのだけど、しつこくて。また代理をお願いする事になるかも知れないわ。その時は是非受けて頂戴?」
「分かりました。でも、真理亜さん的には無い方がいいですね。あの人、脂ぎってて嫌いなタイプです」
と言うと、珍しく夫人も声を上げて笑った。
「私も嫌いなのよ」
夫人に近くの駅まで送ってもらい別れる。
うんうん、任務完了っ!
今回は破壊の条件だったな~、仕事帰りに毎日コース料理食べながらマナー学べたし。報酬いいし、化粧品やヘアケア製品一式に洋服・鞄・靴まで。総額いくらよ?ま、あの後藤ってオヤジの件、話が来なければいいな。
そんな事を考えていると、電車が来たので乗ろうすると声をかけられる。
「真理亜さん?」
振り返ってはいけない、もう今は真理亜さん役を終わっている。しかしその声はしつこい。
「真理亜さんっ」
言いながら肩を掴まれる。
「痛いっ!私は真理亜じゃないけど?」
真理亜さんが言わない様な低い声で言いながら睨んでやる。
「あ、ごめんなさい。人違いでした」
そそくさとその男は去って行く。
ふうっ、良かった。
早く帰って真理亜さんから自分に戻りたいっ。そう思っていたのに男性がぶつかって来て倒れてしまう。
うわっ、服が汚れてしまうっ!
「すいません、大丈夫ですか?え?真理亜?丁度車待たせてあるから乗って」
と最寄りの駅出口で車に乗せられる。
「あ、あのっ?私、真理亜じゃないですっ!」
既に車は走り出していた。
誰この人?
さっきから何度目かの言葉だ。斜め前で喋っているのは佐々木夫人。そして正面に座っているのが、息子の秀人。真理亜の見合い相手だ。有名大学を出て、父親の会社を継ぐべく働いているらしい。いかにもお坊っちゃん風で、母親に口答えしない。
ホテルでお見合いランチを食べ終わった所で、秀人と真理亜は喫茶ルームへ促され、夫人同士はそのままの場所でお茶を頂くらしい。
さて、どうやってお断りしてもらおうかと考えていると、秀人の方から話を振ってきた。
「あの、真理亜さん。実は僕には思っている人がいるんです。だから、このお話は・・・」
「はい。私もまだ結婚は早いかと思っていたので、秀人さんの方からお断りして頂けると助かります」
ふんわり、真理亜スマイルを作る。
よっし!これで任務完了になるはずっ!心の中でガッツポーズをする。
「ありがとう。母がしつこく連絡するかも知れないけど、断ってくれると僕も助かります」
思わぬ所で早く話がまとまる。
運ばれて来たミルクティーを頂き、すぐに夫人達と合流する。
秀人から今回のお見合いは無かった事に、との言葉に佐々木夫人はとても残念がっていたが仕方がない。本人同士にその気が無いのだ。2人が去った後、一条夫人と、真理亜役の綾美は安堵の表情を浮かべる。
「ありがとう、綾美さん。今日までご苦労様」
と労って貰っていると、不意に声をかけられる。
「おや、一条夫人ではないですか?」
声がした方を見ると、恰幅が良い男性と若い背の高い男性がいる。
「まぁ、後藤さん?ご無沙汰してます。まぁ、息子さん?大きくなられて」
「そちらのお嬢さんは、真理亜さんですかな?美人になられましたな」
「まぁ、ありがとうございます。急いでますので、失礼しますわ」
夫人が歩きだすので、綾美もペコリとお辞儀をしてその場を去る。
当初はホテルで解散予定だったが、夫人と綾美は一緒にタクシーに乗る。
「綾美さん、ごめんなさいね。厄介な人に会ってしまったわ。さっきの後藤さんも真理亜にお見合い話を貰ってるのよ。何度かお断りしているのだけど、しつこくて。また代理をお願いする事になるかも知れないわ。その時は是非受けて頂戴?」
「分かりました。でも、真理亜さん的には無い方がいいですね。あの人、脂ぎってて嫌いなタイプです」
と言うと、珍しく夫人も声を上げて笑った。
「私も嫌いなのよ」
夫人に近くの駅まで送ってもらい別れる。
うんうん、任務完了っ!
今回は破壊の条件だったな~、仕事帰りに毎日コース料理食べながらマナー学べたし。報酬いいし、化粧品やヘアケア製品一式に洋服・鞄・靴まで。総額いくらよ?ま、あの後藤ってオヤジの件、話が来なければいいな。
そんな事を考えていると、電車が来たので乗ろうすると声をかけられる。
「真理亜さん?」
振り返ってはいけない、もう今は真理亜さん役を終わっている。しかしその声はしつこい。
「真理亜さんっ」
言いながら肩を掴まれる。
「痛いっ!私は真理亜じゃないけど?」
真理亜さんが言わない様な低い声で言いながら睨んでやる。
「あ、ごめんなさい。人違いでした」
そそくさとその男は去って行く。
ふうっ、良かった。
早く帰って真理亜さんから自分に戻りたいっ。そう思っていたのに男性がぶつかって来て倒れてしまう。
うわっ、服が汚れてしまうっ!
「すいません、大丈夫ですか?え?真理亜?丁度車待たせてあるから乗って」
と最寄りの駅出口で車に乗せられる。
「あ、あのっ?私、真理亜じゃないですっ!」
既に車は走り出していた。
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