上 下
6 / 12

6

しおりを挟む
 割れたグラスの上に倒れ混みそうになったセイラを、騒ぎを聞きつけた長身の男性が抱えこみ、怪我が増えるのを防いだ。

「あ・・・、ああ、大丈夫かしら・・・?」

 グラスを投げつけた令嬢がセイラに近寄り、手を握りしめる。

「救護室に運ぶから、どいてくれないか?」

 セイラを抱えた男性が、令嬢に冷たく言い放つと、さっと立ち上がり、しっかりした足取りでセイラを運んでいく。

 ニヤリと笑った令嬢の顔を見たものは1人も居なかった。既に、セイラに難癖を付けていた者達は姿を消していた。




 令嬢はサッとその場から立ち去り、ある人の元へと向かった。そして、

「順調に進みましたわ。こちらをー」

 手に握りしめていたものを、その人物に手渡した。

 2人は、ニヤリと微笑んだ。




 救護室に運ばれたセイラは意識が戻らないままに、手当を受ける。王子の婚約者である為、今の所、国唯一の治癒魔法師が呼ばれる。セイラはまだ勉強中の為、治癒魔法師としては活動してはいないが、お互いに面識はある。

「まあ、セイラさんっ!!何て事に・・・」

 すぐさま治癒魔法師であるミリーは、セイラに向けて治癒魔法を発動した。王宮で働く治癒魔法師のミリーは主に王族やソレに準ずる者の為に働く。市民達には、治癒師と呼ばれる治癒魔法師よりも力の発動が少ない全く別の力の者達が治癒に当たっている。

 ほんわりとセイラの身体が光、身体に付いた傷が塞がって行くが、衣服に付いた血はそのままだ。

 セイラの怪我が治った事を確認したあと、長身の男性がセイラに手を翳すと、血で汚れ、グラスの破片で切れていたドレスが元通り綺麗になる。

「流石ロレンツォ様ですね。巻き戻りの魔術は久しぶりに拝見しました。しかし、セイラさんに何が起こったのですか?王子の婚約者であるのに」

 ミリーは眦を下げ、眠ったままのセイラを見つめた。

「マリウスはどうしてしまったのだろうな?あいつが望んだから、セイラ嬢はしなくてもいい苦労をして来たと言うのにな」

 ロレンツォは呟いた。





 目を覚さないセイラは、その後ロレンツォの手により、伯爵家に運ばれた。




 ゆっくりと意識が浮上して目が覚める。

 いつもの自分の部屋だ。

 え?自分の部屋!?

 ベージュを基調とした落ち着いた部屋。両親、兄、メイド達にもピンク色を勧められても、落ち着いた色を選ぶ傾向がある。

 未婚の令嬢らしからぬ、レースもフリルも控えられた部屋の様子はセイラの好みだ。

 ガバッと起きた途端に、グルグルと頭が痛くなる。

 だ、ダメだわ。もう一度、横になりたいわ。

 


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミステリー好きの悪役令嬢は好奇心を抑えられない

黒木メイ
恋愛
悪役令嬢×ミステリー。 第一章 「イザベル・フィッツェンハーゲン! 貴様との婚約を破棄する! そして、私の最愛であるエミーリア・ロンゲン嬢殺害未遂についての罪をここに告発する!」 突然降って湧いた冤罪を前に転生者『イザベル・フィッツェンハーゲン』は淑女としてはあるまじき表情を浮かべた。  己の婚約者から婚約破棄を宣言されたショック……ではもちろん無く、突然降って湧いた『事件』を己の手で解決する機会が訪れたことに茫然としたのだ。(本文より一部抜粋) ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧
恋愛
 声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。  婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。  待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。 新しい風を吹かせてみたくなりました。 なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。

あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

あかり
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」 私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。 ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。 でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。 私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。 だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?

全てを捨てた私に残ったもの

みおな
恋愛
私はずっと苦しかった。 血の繋がった父はクズで、義母は私に冷たかった。 きっと義母も父の暴力に苦しんでいたの。それは分かっても、やっぱり苦しかった。 だから全て捨てようと思います。

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

処理中です...