上 下
4 / 12

4

しおりを挟む
 同じ学院に通っていると言っても婚約者であるマリウス王子とは、全く会う事は無かった。

 幼少期に数度屋敷にやって来た事があるだけで、後は王宮で王妃様の定期お茶会で月に1度顔を合わせるのみだった。

 だから、マリウス王子が学院で女生徒達と仲良くしている事を知るよしも無かった。



 学院に通い始めて数日経ったある日の事。全校生徒は同じ門から学院内に入り馬車を降りる為、馬車降り場は常に混雑している。その場所で見知らぬ令嬢に肩を押され、セイラは転んでしまったのだ。学院に通う際に、1人侍女を連れて行く事を許可されている為、すぐに侍女が駆け寄ろうとするが、令嬢の侍女に阻まれてしまう。

「あなた、淑女科の下の方のクラスなのかしら?Aクラスじゃ無いし、Bクラスでも見かけなかったわ。そんなんじゃ、マリウス様も苦労するわね。国王陛下も婚約なんて、破棄してしまえばよろしいのに。ふふふっ」

 それだけ言うと令嬢は去って行った。

「セイラ様っ、申し訳ありませんっ!!お怪我はありませんか?」

 侍女のサリーが駆け寄って来る。

「え、ええ。何なのでしょう・・・?」

「わかりませんが、気をつけましょう」

 立ち上がったセイラの衣服をサリーは整えてくれる。

「ありがとう、サリー。行きましょう」

 2人は教室に向かうために、その場を離れた。




 セイラが授業を受ける間、サリーは侍女達の控え室に向かった。セイラ達の教室は他の科と離れているので、侍女の控室も教室の側にあるのだが、サリーはあえて、他の科の侍女がいる控室に行き、情報を仕入れに行ったのだ。

 そして、先ほどセイラを転ばせたのがマクレガー公爵令嬢だと分かった。マクレガー公爵令嬢の侍女が他の侍女に声高らかに話し、笑っているのだ。一緒にいる他家の侍女も釣られて笑っている。

 セイラ様がお怪我をしなかったから良かったけれど、許せないわっ!!

 サリーはギリッと歯を食い縛った。

 何故、セイラ様があの様な無体な事をされなけばならないのかっ!?どうやって探りを入れようか悩んだが、彼女らは主人の話しをし始めた。

「ミシェル様とマリウス様は相思相愛なのに、あの女が邪魔しているらしいのよ?公爵家の令嬢に対して何様のつもりなのかしら?たかが伯爵家の分際でっ!!ミシェル様も言われてたわ。淑女科Aクラスに入れないなんて、マリウス様の婚約者に相応しく無いって。早く婚約者から身を引いてほしいって」

「ええ、そうでしょうね。ミシェル様の方が断然、マリウス様の婚約者に相応しいと思いますわ」

 1人の侍女の声に

「そうですわっ」

 と言う侍女の声が複数重なった。

 ロンドンリー国では、男子は通常上下の学院に通うが、女子は下の学院には通うが、上の学院に通うのは長女、もしくは上位貴族のみで、下位の貴族は次女いかは通わされず、高位貴族の所に行儀見習いの侍女として出される。なので、この場にいる侍女達は、ミシェル様付きの侍女には逆らわず、少しでも取り入り印象を良くしようとしているのだ。

 サリーは侍女達の噂話しを一通り聞いた後は部屋を離れ、いつもの控え室に戻って行き、セイラにどう報告しようか考えていた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミステリー好きの悪役令嬢は好奇心を抑えられない

黒木メイ
恋愛
悪役令嬢×ミステリー。 第一章 「イザベル・フィッツェンハーゲン! 貴様との婚約を破棄する! そして、私の最愛であるエミーリア・ロンゲン嬢殺害未遂についての罪をここに告発する!」 突然降って湧いた冤罪を前に転生者『イザベル・フィッツェンハーゲン』は淑女としてはあるまじき表情を浮かべた。  己の婚約者から婚約破棄を宣言されたショック……ではもちろん無く、突然降って湧いた『事件』を己の手で解決する機会が訪れたことに茫然としたのだ。(本文より一部抜粋) ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

モブですが、婚約者は私です。

伊月 慧
恋愛
 声高々に私の婚約者であられる王子様が婚約破棄を叫ぶ。隣に震える男爵令嬢を抱き寄せて。  婚約破棄されたのは同年代の令嬢をまとめる、アスラーナ。私の親友でもある。そんな彼女が目を丸めるのと同時に、私も目を丸めた。  待ってください。貴方の婚約者はアスラーナではなく、貴方がモブ認定している私です。 新しい風を吹かせてみたくなりました。 なんかよく有りそうな感じの話で申し訳ございません。

あなたが捨てた私は、もう二度と拾えませんよ?

あかり
恋愛
「お前とはもうやっていけない。婚約を破棄しよう」 私の婚約者は、あっさりと私を捨てて王女殿下と結ばれる道を選んだ。 ありもしない噂を信じ込んで、私を悪女だと勘違いして突き放した。 でもいいの。それがあなたの選んだ道なら、見る目がなかった私のせい。 私が国一番の天才魔導技師でも貴女は王女殿下を望んだのだから。 だからせめて、私と復縁を望むような真似はしないでくださいね?

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜

おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。 それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。 精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。 だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

処理中です...