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僕の初めて

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ーーー東京湾海上

「千代田区永田町2丁目の神社内にて敵の反応を確認、以降、現地点をポイントアルファ、対象をバフォメットアルファと仮定とします」

東京湾海上に浮上した日本海軍特殊戦コマンドが所持する潜水艦の中にいる、オペレーターの1人が声を上げる。

「ネストール・ワンは至急ポイントアルファへと移動を開始してください」

コールサイン、ネストール・ワンは日本海軍特殊戦コマンドに所属する小隊の一つである。

「ポイントアルファの周囲に結界を展開、周辺との空間の隔絶に成功」

1人のオペレーターの耳に、ヘッドセットから通信が入る。

『...こちらネストール・ワン、ポイントアルファに到着』

通信を受け、オペレーターが目前の操作盤を操作する。

「ネストール・ワン、結界の南側のルートを解放しました、中に居る一般市民の誘導をお願いします」

『...了解、バフォメットアルファはどうする?』

「すでにレッドが向かっています」

『...了解、取り残された一般市民の救助退避を開始する』







山羊のような顔をした化け物は、完全にターゲットを切り替え僕の方に体を向ける。

「ほらっ、お前の獲物はこっちだぞ!」

本当は怖くて逃げ出したくて仕方ないけど、老人や子供が襲われているのをみて逃げ出すわけにはいかない。
僕は震える足を叩き、気合いを入れる。

「ここでやらなきゃ、男じゃないよね」

そう呟いた僕に、化け物が襲いかかる。
僕は体を回転させ、遠心力で持っていたカバンを化け物の顔に向かって投げつけると、化け物は難なくそれを払いのける。

「グギアァァァ」

化け物が叫び声をあげ、顔を左右に大きく振る。
僕はカバンを投げた直後に予め取り出しておいた催涙スプレーを投げつけた、案の定カバンに気を取られ視界を遮られた化け物は一瞬戸惑い、顔にぶつかる直前に口を空けスプレー缶を噛み潰す、その瞬間に中に充填していたガスが爆発し、今に至る。

「今のうちに逃げて!」

先ほどまで襲われていた人達に退避を促す。
僕は周囲を見渡し、みんなが逃げ行った方向とは違う東の方向の雑木林の方に逃げると、化け物は完全に理性を飛ばしこちらを追いかけてくる。
あっという間に僕に追いつき、化け物は腕を横薙ぎに払う。

「うわっ!」

華麗にかわそうと思ったら、どんくさい事に躓いて斜面を転がってしまい、偶然にも化け物の攻撃を回避する。

「ミ、ミラクルきたぁー」

さらに怒り狂った化け物は、周囲の木をなぎ払いながら、こちらに向かってくる。
僕は慌てて立ち上がってまた逃げる。

「こ、これなら逃げ切れるかも」

この神社は平日のこの時間帯はそんなに人がいないけど、東側の大通りに出れば警察がいるのでどうにかなるはずだ。
そう確信していた僕は、必死に出口に向かって走る。
しかし、大通りの前で見えない壁に阻まれ、弾かれる。

「な、なんで!?」

僕は見えない壁を両手で何度も叩く。
そうしていると、後ろから気配がしたので振り向くと眼前に迫った化け物が手を振り上げていた。
慌てて両手でガードするも、吹っ飛ばされた僕は宙を舞う。

「ガハッ」

地面に落ちた僕は血を吐く。
いたいいたいいたいいたいいたいいたい。
あまりの痛さに意識が飛びそうになるのをなんとか堪える。
そんな僕に向かって、一歩、一歩と化け物が向かってくる。



あぁ、ここまでか...

さっきの人たち、逃げられたかな?

せっかく高校受験で頑張って1人暮らし始めたのに、学級委員だって部活だってこれからなのに...

もっと生きたかったな。

僕の中に走馬灯が走る。

ごめんね父さん、母さん、わがままを許してくれてありがとう、そして先に逝く僕を赦してください。

トシ、トシにもいっぱい迷惑かけたよね。

ツカサやユッキー、あまね先輩とかたまちゃんとか、もっと仲良くなりたかったな。



...死にたくない、死にたくないよ!



僕はなんとか生きようともがき、立ち上がろうと上体を反らす。
しかし僕の前に立った化け物は無情にもその手を振り上げる。
僕は恐怖で思わず目を瞑った。



あ、あれ?

死んだ?

腕が振り下ろされた感覚がない僕は恐る恐る片目を開くと、僕と化け物の間に誰かが立ってるようだ。
僕は勇気をふりしぼり、両目を見開いた。

するとそこには、赤いツインテールを揺らす少女が僕と化け物の間に立ち、化け物の振り下げた手を剣のような物で受け止めていた。
少女は化け物に押し勝ち吹き飛ばすと、僕の方を見て一瞬おどろくも、僕をお姫様だっこして空中を跳躍し神社の中にある建物の一つに入る。

「クソっ」

少女は僕を床に下ろすと、僕の怪我の状態を見て悪態を吐く。
自分でもわかっていた、だんだんと意識が遠のいていく。
やっぱり、最初にくらった時点で内臓をやられたのだろう、多分助からない。

「迷っている暇はないな...おい、おまえ!助かりたいか?」

僕は目を伏せ頷く。

「よしっ、良いからこれを飲め!」

そう言った彼女は、僕の前に液体の入った瓶を取り出す。
いかにも怪しげな薬品に思わず怪訝な目つきをしてしまう。

「あ、あんしんしろ、ダイジョウブ、ただ怪我が治るだけだ」

動揺してるところがいかにも怪しい、が、僕に迷ってる暇はなく覚悟を決める。
すると、彼女は瓶の蓋を開け僕の口元に持ってきてくれたが、残念な事に今の僕にはどうする事も出来ない。
そんな僕を見て、彼女は百面相をして何かを思い悩む。

「えぇい、ままよ!」

彼女はなにかを決意すると、僕に差し出したドリンクを自らが飲み瓶を捨て、

そして、僕に口づけをし....したぁああああ?

僕は思わぬ形でファーストキッスを奪われた事により痛みを忘れた。


あれ?ていうか本当に痛くない?僕は、自分の身体から痛みが引いてる事に気付いた。

「んんっ」

先程まで朦朧としていた意識もはっきりしてくると、脳が状況を理解し始める。
今、僕は、赤い髪のツインテールの少女と口づけしている、正確には口移しで先程の液体を飲まされている、いわゆる救護活動の一つだ、だからそう全然いやらしくない。
いやらしくないけど、眼前に見える彼女の閉じた瞳のまつ毛は長く、唇は柔らかく、良い匂いがする。
そんなことを考えていると、唇が離れ瞼を上げた彼女と目が合い、赤面した彼女に突き飛ばされる。

「イテッ」

突き飛ばさた僕は地面に後頭部をぶつける。

「ご、ごめん」

慌てた彼女が僕に謝罪する。
改めて彼女の顔を良く見ると、つり目できつい印象を感じるものの整った顔つきの美人さんだ。
しかし、なんだろう、彼女からは既視感を感じる、こんな美人なら忘れないはずなんだけど、誰かに似ている印象を受ける。
そんな事を考えてると、先程までの痛みと違った痛みが全身を駆け抜ける
その痛みに僕は思わずのたうち回る。

「始まったみたいだな、大丈夫、その痛みは後でちゃんと引くから、悪いけど俺はあの化け物を始末しなきゃいけないから。ここにお前を置いていく、後で回収するから大人しくしてろよ」

そう言って彼女は扉を開け、その場から跳躍して僕の目の前から消えた。
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