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実家に帰らせていただきます
しおりを挟む「おかえり、まどくん!」
そう言ってぎゅーっと僕をだしめるのは僕の母、九条 美香子(くじょう みかこ)である。
もう40を超える年齢なのに、どっからどうみても女子大生くらいにしかみえない、九条家七不思議の1つである。
「トシくんも、おかえり~」
「御機嫌よう、奥様」
「もー、相変わらず堅苦しいなあトシくん、昔みたいにもっとくだけた感じでいいんだよ~?」
「ご冗談を、あの時の私はただの世間知らずの子供でしたから」
トシ...黒歴史に触れたからといって、その笑顔は怖いよ。
昔やんちゃだったトシは16歳の時に九条家に拾われた、当時の僕は5歳、今思えばトシとの付き合いももう10年になるのか。
「そんなことより母さん、今日は用があって帰ってきたんだけど」
「あ、ごめんねー、なおくんなら執務室にいると思うよ」
「わかった、トシは母さんを頼む、僕は父さんの所に行ってくるよ」
僕は、母さんをトシに押し付けその場を離れる。
さすがに高校生になると、母さんの過剰なスキンシップは少し恥ずかしいんだよね。
照れた顔を整えながら通路を歩き奥へと進み、執務室の前に到着する。
執務室の扉を二回ノックすると、中から入れという許しがでる。
「ごきげんよう父さん、ただいま戻りました」
今、目の前の執務机に座るのが僕の父こと、九条 尚道(くじょう なおみち)である、
九条財閥の代表であり、九条家の現当主、母さんとは一回り近く年齢が離れており50歳を上回る。
「1週間ぶりだな、おかえり、まどか、トシはどうした?」
「トシは母さんの所に置いてきました」
「そうか、あとでトシから近況報告をきいておこう」
父さんめ、僕の1人暮らし阻止をまだ諦めてないな。
母さんも父さんも過保護だからな、この前みたいに帰るの遅くならないように注意しなきゃ、
「それはそうと、私に何か用があるのではないか?」
おっと、肝心な用事を忘れていた。
僕は、鞄の中から薬瓶を取り出し机の上に置いた。
「先日、この鞄の中からこれがでてきました、紛れ込んだ経緯は不明ですが、瓶底の番号から三喬製薬に辿り着き、父さんなら何か知っているかと思い連絡しました」
先程まで穏やかだった父の眼光が、一瞬だけ鋭くなった気がした。
「ああ、確かにこれは三喬製薬のものだ、私が持って帰ったのが、引越しの時に何かの手違いで紛れ込んだんだろう、ありがとうまどか、良く気づいてもってきてくれた」
そう言って、父さんはいつもと変わらない穏やかな顔で僕を労う。
なんの薬か聞いてみたいけど、さっきの一瞬が気になり、僕は追求するのを辞めた。
九条くらい歴史があって大きくなると、つついて何が出てくるのかわかったもんじゃない。
「もー、次からは気をつけてよね!」
「はは、ごめんなまどか、父さんがうっかりしてた、次からは気をつけるよ」
こういう時は茶化して誤魔化すのに限るよね。
触らぬ神に祟りなし!だよ。
「おっと、もうこんな時間か、お昼はまだだろ?今日はまどかが帰ってくるから母さんが気合い入れてたぞ、栄養不足になってたらどうしようってな」
僕は苦笑いした。
「ほら、先に下にいってなさい、私も残りの書類を終わらしてすぐいくから」
退室を促された僕は、もちろん大人しくそれに従った。
まどかが退室したあと、尚道は執務机に座り先程の薬瓶を覗き込む。
「なぜ、研究所で盗まれたこれがまどかの所に.....」
尚道は一瞬の逡巡の後、机に置かれたベルを鳴らす。
すると執事服をきた年老いた男が、音もなく現れる。
「この薬を研究所へ、それと、この薬がまどかのカバンに入った経緯を探れ」
「仰せのままに」
薬を渡した尚道は、椅子を回転させると立ち上がり窓から部屋の外を見る。
男は来た時と同じく、音もなく部屋から消えていた。
「九条に仕掛けたこと、息子を巻き込もうとしたこと、絶対に後悔させてやる」
◇
1週間ぶりの家族との食事が終わり、帰宅の途につく。
玄関前で母さんに泣かれてしがみつかれたけど、トシの機転でなんとか振り切った。
送迎の車の後部座席に座った僕は、首都高3号線から見える六本木の街並みに目を向ける。
思ったよりやばい薬だったみたいだ。
これ以上は関わらない方がいいね、いつかは知るんだろうけど今じゃないよね。
その後高速を降り桜田通りに入り、マンションへと向かう。
大人しく家に帰った僕は、残りの時間を穏やかに過ごし、また月曜日を迎える。
「それじゃ言ってくるよ、トシ」
「いってらっしゃいませ、まどか様」
トシといつも通りの挨拶をして駅でつかさと合流する。
2人で学校に行き、授業を受け何事もなく学校が終わる。
陸上部があるつかさとは学校で別れ、1人帰宅の途につく。
「あ!」
ポケットに入ってたスマートフォンを、どうやら学校に忘れてきてたみたいだ。
慌てて学校に取りに戻ろうとすると、やけに周囲が静かなことに気がついた。
「きゃあああああっっっ」
その静粛を突き破るように、女性の悲鳴が聞こえた。
僕は悲鳴のした方向に慌てて駆け出す。
するとそこには女子高生や、小さい子供を連れたお母さんや、ご老人などがうずくまってた。
その前には、2mは超えるであろう山羊のような化け物が立ちふさがっていた。
あまりの非現実的な出来事に、脳の処理が追いつかないけど、僕は地面に落ちていた石をぶつけて化け物の注意をこちらに向ける。
「おい、バケモノ!君の相手は僕だ!!」
怒った山羊の化け物はターゲットを変え、その狂気をこちらに向けた。
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