プロテイン

かんのあかね

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プロテイン

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――その者、金色の衣を纏いて草原に舞い降りる。
  その肉体美、他の追随を許さず。羨望の中でその生を終えるだろう。

  エビフライ預言書 第621章



 なんと眩しい光景なのだろう。
 目の前で繰り広げられている光景に僕は目を奪われた。
 初めは殻を奪われて、なにやら白い粉をまぶされて黄色い液体の中に浸された。恥ずかしい事に尻だけは丸出しのままで。
 その後に、ザクザクとした刺々しい何かを纏わされ銀色の壁に囲まれた場所に仲間と共に並べられた。仲間たちはざわめいていたが次第に諦めがついたのか、次第におとなしくなっていった。諦めの悪い者たちは転がってみたり、纏わされたそれを剥がそうとしてみたりと様々な行動をするも何やら節くれだった肌色の五本の棒のようなものに元に戻されてしまう。
 僕は様子を窺いながら静かに横たわっていると、先に並べられていた仲間がつままれて銀色の壁の向うへと消えていった。
 ジュワッ!ジュ、ジュウ!
『リャーーーーー!』
 はじける音がしたかと思うと、仲間の悲鳴が聞こえた。
 僕は途端に恐ろしくなって、身を縮こまらせた。
「おい、なんか今日のこいつら小さくないか?」
「ちょっと叩いて盛るか?」
「そうだな」
 低い声でそうきこえたかと思うと、急にギュッと身体を握られて伸ばされる。そしてまたあの刺々しいザクザクしたものを大量に纏わされてまるでフォワグラのように無理矢理に太らされたのだった。
「おい、小麦粉が切れてるぞ」
「しかたねぇな。じゃあこいつで賄うか」
 そう聞こえたかと思うとドンと床が揺れて少し身体がずれたお蔭で銀の壁の向こう側が見えた。
「おい、大丈夫か? それプロテインだぞ」
「午後には小麦粉も届くだろうし、それまでは大丈夫だろ?」
 そんな会話が聞こえているうちに自分が壁の向こうに出される順が来てしまった。
 先達たちの悲鳴は相変わらず聞こえるし、恐ろしくて、恐ろしくてたまらない。
 そしてついに僕は壁の向こうに出される。そこからの景色はスローモーションのようにゆったりと感じていた。
 まず見えたのはジュワジュワと音をたてて弾ける液体の入った黒い器のようなものだ。そこには先達たちが呻きながら泳いていた。液体が弾けるたびに苦悶の表情をしている仲間たちがそこにはいた。
『なんて……恐ろしい光景なんだ!!』
 身を竦ませながら何も出来ないまま、そこへと僕も放り込まれてしまう。
『熱い!なんだこれは!熱い!!』
 そう叫んでも、五本の棒たちは聞き入れてはくれず、今度は細い二本の棒で僕らを煮えたぎった液体の中で転がす始末だった。
 身体が熱くて否応なしに縮こまる。腰が曲がる!苦しい!……意識が遠くなる。
 そうしていると、先達たちが次々と掬い上げられているのが見えた。早く!早く僕も出してくれ!
 だが、願いはむなしくまた身体をひっくり返されてしまった。
 その時だ。
『俺の衣はプロテインーーーーーーー!!!』
 そんな叫びと共に、僕より後に控えていた仲間たちが次々と飛び込んでくるではないか。
 彼らは煮えたぎった液体の熱さもなんのその。その纏わされた衣は僕らとは少し違っていて薄黄色のベールが液体とザクザクしたものの間に入り込んでいて、いっそう太くそして黄金色だった。
『ぬるい!ぬるいぞおおおお!』
 彼らは僕達とは全く違っていて、耐久力が違うようだった。それは纏まさわた薄衣のせいなのだろう。
 この煮えたぎった液体の弾ける波にも負けず、二本棒に転がされても笑っているのだ。
『……すごい。彼らは何者なんだ』
 熱さに耐えかねている僕とは大違いだった。
 そして僕の順番がようやく訪れた。銀色の網で掬われて液体から解放される。しかし、纏ったもの自体が熱をもちそれが弾いてまだまだ油断できない暑さだった。
 目下を見下ろすと、僕より後に入れられた者たちが悠々と熱い波間を泳いでいる。
 決定的な違いを僕は見せつけられて愕然とする。
 世の中には凄い者達がいるものだ……
 僕は先達たちと同じ場所に転がされた。金属の棒が並んでいる所に並べられるとそれを伝って熱い液体が滴り落ち、少し身体が冷えて来た。
 ほっとしていると、先ほどまで悠々と泳いでいた者たちが、上げられて並びはじめる。
 ぴんとした背筋。
 盛り上がった身。
 そして、輝く黄金色。
 今までの仲間たちよりも太く立派な肉体美を彼らは持っていた。
『うむ、実によい湯であった!』
 湯⁉あれを湯というのか‼
 その肉体美には僕だけでなく、先達たちも見とれてしまっていた。ああなりたかった、と羨望の眼差しで彼らを見ていた。
 僕が丁度、境目だったのだ。僕らと彼らの境界線は僕だった。
 羨ましさと同時に悔しさが滲み出る。余分に滴り落ちる液体がそれを物語っていた。
『いつか……いつかはきっと僕もあんな風に黄金色に輝き、盛り上がった肉体を持ちたい!』
 そのいつかがやってくるのかはわからない。だがそう誓わずにはいられない輝きを彼らは放っていた。
 そして、気がつけば丸い白い皿の上にひかれた草原の上に、僕はその美しい肉体美をもった彼他の横に並ばされていた。
『……ここは』
 となりを見ると輝く彼らが一層光って見えたのだった。


「ねぇ、おかあさん。このエビフライ大きいけどちょっと変な味」
「あら?」
「こっちの普通の大きさのエビフライの方が美味しい」
「なぜかしらねぇ?」
『なんたる事だ!我らがあのヒョロッ子に負けるとは!』
『心外である!心外である‼』

 そんな声が聞こえたが、僕は夢を見ながら、遠き旅に出たのであった。
 いつかきっと手に入れたいと心の奥底から思ったあの肉体美を夢見て……
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