ムジントウ忌伝

こつち あきら

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1日目

朝?/時刻不明

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 目を覚ますと、目前には大海原が広がっていた。
「ここは…」
ゆっくりと身体を起こし、記憶を呼び覚ます。
「確か…抽選に当たって…船に乗って…」
意識が明確な物となっていき、次第に過去の映像が鮮明に甦っていった。
「あぁそうだ…船が沈没したんだった。」
意識を失っていく人々の姿、転回する風景、そして、皆、襲いかかる津波に成す術もなく流されていく…
「一人…漂流してしまったのか…」
上を見上ると、そこには、鬱蒼と生い茂る木々が広がっていた。
「郷梁島か鏡山島ならいいんだけどな…」
独り言ばかりを呟いていた。
そうでもしないと、やっていられない。
「はぁ……よしっ!!」
両頬を叩き、渇を入れる。
「先ずは…」
そして、辺りを見回す。
「あそこだな。」
目につけたのは、視界の隅に見えていた岩場である。もしかしたら、日用品やら、食料、飲料類等が流されて来ているかもしれない。
そうした一縷の希望を抱いて向かった。
 だが…
「何だこれ…」
岩場に打ち上げられているのは、海藻類や魚の死体、挙げ句の果てに、空き缶やバナナの皮まで…
「ここが異世界だったら良かったのにな…」
目前に見える光景に、不安しか湧かない。
「はぁ~…」
ふと、ため息をついてから、元居た場所へと戻ろうとする最中、目横の岩場から、管状のような物を目にした―。

 目を覚ました場所へと戻ってくると、砂浜の中に、右上をホッチキス留めされたA4用紙の紙の束を見つけた。
中身が気になり、急ぎ砂を払ってから、書かれている文字列にへと目を向けた。
そこには、次のような事が書かれていた。

_________________

記録1


 これを読んでいるものに伝える。
私は、もう寿命が短くない。
君が、もしもこの島にいるのならば、以下の事項に注意しろ。
 ・この島では、一定の規則性がある。
 ・この島の隅々に目を向けろ。
 ・毎日記録をつけろ(ノートを森奥の山上にあるロッジに置いておく)。
 ・客観的な立場で物事を見よ。
 ・裏切り者がいる。
 ・私が書いてきた物に虚偽が書かれている物がある。
 ・この文書は読み次第、再び、埋められていた場所に戻しておけ。
                                                以上である

 突然こんな紙を見た手前、信じるのは難しい話である
だが、信じてほしい
そのため信じてもらうために、これから、この島で起こる事を次のページに記す。
 本当に、すまなかった。
君の命運を祈る。
そして、君が人間であることを祈る。
_________________


 一枚目は、ここで途切れていた。
二枚目を読もうと、ページをめくる。
だが、ここで違和感を覚えた。
「二枚しかなかったのか…」
それにしては少し重さがあった。
 しかし、その正体は直ぐに分かった。
一枚目をめくった後の裏表紙に、異様な出っ張りがあった。
めくった一枚目を、ほんの少しだけずらして、見ると、そこにはホッチキスの針に留められた、小さな紙の欠片の束があった。
「これだったのか…重さの正体は…」
不思議には感じたが、間違えでもあって破ったりしたのだろうと思うことにした。
 そんなことより、一枚目に書かれていた通り、二枚目の文章にも目を通した。
そこには、こう書かれていた。
_________________
化け物が、空から降ってくる
_________________

「…はぁ?」
(唐突過ぎるだろ)
 しかし、そんな気持ちも一瞬で心変わりする。

ズドンッ

突如、近くで地響きが鳴り響く。
紙から目を離し、その音源の方へゆっくりと目を向けた。
「何だ…」
そこに居たのは、白い髭を生やし、目は白目を向き、背中から無数の手足を生やして、四足歩行をして歩いて来る、上半身裸で白いズボンを履いたおっさんだった。
しかし、よく見ると身体の前方側に無数の腫れができていた。
「あれが化け物なのか…?」
シュール過ぎる姿に一瞬、笑いそうになってしまったが、次の瞬間であった。
目の前の化け物?は、立ち上がり、口から長く伸びた舌を出してきた。舌は、自分の顔面横すれすれを一瞬で通り過ぎ、後方の、海面上に見えた岩石を破壊した。
「…まじでか…」
すぐさま、紙に書いてあった通りに、下の砂浜にへと持っていた紙の束を隠すと、全力で走り出した。
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