537 / 540
17章
辺境伯
しおりを挟む目的地である丘に到着したのは予定時刻の一時間前だった。
「ここで降りてよかったのか?」
「うん。ここが指定された場所なんだよね」
「んならいいんだけどよ」
ガルドさんの心配はごもっとも。さほど街から離れていないこの丘は、二つある丘のうち高い方。街に近い、低い丘からは街に向かって畑が広がっていて、街まで遮るモノがない。つまり、街から丸見えなのだ。
ココから街を目視出来るくらいだ、龍化したグレンの大きさを考えると、私達が到着したことは確実に分かっていることでしょう。
丘とは聞いていたけど、ここまで見通しのいい丘だとは予想外。本来なら一時間もかからないって言ってたし、ジュードさんのおかげで機嫌よかったし、車とは違ってスピード調整難しいんだろうな……早すぎるって怒られないことを願おう。
「セナっちー、皮剥きは終わってるからすぐに作れるけど、作っちゃっていいのー?」
「んー、お昼分だけだと早いご飯になりそうだから、作り置き用のも作っちゃおうかな」
「あ、なら、久しぶりに魚食べたいなー。いいー?」
「いいね!」
ジルには引き続き書類チェックをお願いし、グレンとガルドさん達にはバドミントンモドキ、ネラース達にはボールを渡しておいた。
いつもお肉ばっかりリクエストされるから、魚のリクエストは嬉しい。嬉しすぎてちょっと作りすぎた気もする。
今日のメニューは、ジュードさん作の野菜コロッケ、人参の豚肉巻き、ジャーマンポテト、お味噌汁。私作のアマゴの南蛮漬け、ニジマスの干物、お刺身の盛り合わせである。
作り置きって話だったのに、リクエストしただけあってジュードさんが「やっぱ今日食べたいなー」って。その代わり、ジュードさんが作った人参しりしり、じゃが芋のチーズ焼き、人参とゴボウのきんぴらの三品は無限収納へと仕舞われた。
〈セナ、おかわり!〉
「もう? 早くない?」
〈コレはシラコメが進む〉
「あぁ、こっちの刺し身ってやつもうめぇ。特に右側の白いやつ」
「オレっちはこのサッパリしたやつー」
「強いて選ぶとするなら、自分はジンベリの木のすりおろしとネギ草が載ったやつですかね」
「……全部美味しいけど……ピンクの……」
グレンが指差したのは干物。ガルドさんは平目の刺し身、ジュードさんは南蛮漬け、モルトさんは鰯の刺し身、コルトさんは金目鯛の刺し身が気に入ったらしい。
お刺身率が高い。鮪がいないのが意外じゃない? そしてグレンが珍しくメインに肉じゃなくて魚を食べている。
ちなみに、ネラース達は『どれも好き』って。アクランは白熊なだけあって干物意外の魚料理をおかわりしていた。
ご飯も食べ終わり、腹ごなしにネラース達とフライングディスクで遊んでいると、街からお迎えと思われる騎士団員が馬に乗って来た。デカい男性と小柄な女性の二人。デカい男の人はニコやかだけど、女の人の方は眉間にシワを寄せている。
「騎士団長より命をうけてお迎えに上がりました。セナ様でしょうか?」
「はーい、私がセナです」
「全員のギルドカードを確認させていただきたい」
「どーぞ」
「…………確かに、本人のようだ。街まで案内する」
「お願いします」
声をかけてきたのは男性で、その後は女性の対応だった。性別だけ聞くと言葉遣いが逆な感じがするけど、表情を見ればとても一致している。女性の方が冷たい感じ。まぁ、男性は男性で二面性がありそうなニコニコなので、どのみちあんまり歓迎はされてなさそうだ。
女性の騎士、まともに見たの初めてだよ。キアーロ国、ジィジの国、ヴィルシル国……三つのお城ではチラッと見た程度。アーロンさんの国、シュグタイルハンなんているって話だったけど、一人も見かけなかった。
ネラース達には影に入ってもらい、グリネロを呼んで乗せてもらう。ネラース達の大きさチェンジは見せない方がいいってクラオルから注意が入ったからね。
雑談をすることもなく、彼らは馬を飛ばし、街までは二十分ほど。意外と距離があったみたい。
再度ギルドカードを掲示してから街の中へ。私達はそのまま領主邸へと案内された。街の中は人っ子一人出歩いていなくて、グリネロに乗ったままで大丈夫だった。
領主邸は装飾などは施されておらず、貴族らしさがない。っていうか街全体がシュグタイルハンほどじゃないものの、無骨な雰囲気なんだよね。
男性騎士がドアノッカーを鳴らすと、すぐに内側からドアが開けられた。
正面に立っていたのは、ボブヘアで意志の強そうな瞳を持った、二十代後半に見える女性。ドレス姿ではなく、動きやすそうな冒険者みたいな服装だった。
腰に片手剣を携えているし、護衛に雇われ冒険者かな?
「セナ様方御一行をお連れしました。こちらの男性がドラゴンだそうです」
「ご苦労。アレは解除だと通達してくれ。セナ様方は案内する」
そう告げ、すぐに踵を返して歩き出した女性の後を追う。無駄口叩いちゃいけない雰囲気だよ。
連れて行かれたのは応接室だった。片側のソファは二列。私達の人数に合わせて用意してくれていたみたい。
「そちら側に座ってくれ。……さて、私はこの街――パソヴァルの領主、サーシャ・グラフ。貴殿らの名前を聞いてもよいだろうか?」
雇われ冒険者じゃなかった。本人だった。勘違いして申し訳ない。
順番に自己紹介すると、「幼子とは聞いていたが、まさかここまで幼いとは……」って言われちゃった。
「この街はここ数年、ヴァリージェ国の情勢の煽りを受けている。今では国境から先は賊が多く潜み、商人などの荷馬車が襲われる事件が頻発していると報告を受けている。陛下より貴殿らは強いと聞いているが、よくよく準備をしていくことを勧める」
「あ、だから街に全然人がいなかったんですか?」
「いや、それは貴殿らがドラゴンで来訪すると聞いていたからだな。混乱させぬように近隣地域一体に外出禁止の措置を取った。先ほど解除したから、じきに平常に戻るだろう」
「え!? 超ごめんなさい!」
玄関のところで言ってたアレってやつか! まさかそんな大掛かりな対策を取られているとは思ってなかったよ。だから外の街道も人が全く通らなかったのね。納得。仕事にならないじゃん。街の人も冒険者もマジでごめん。
ガバッと頭を下げた私にグラフさんは虚をつかれたように目を丸くした。
「…………フハハハッ! 本当に平民のようなのだな。この街ではたまにあることだ、気にしなくていい」
「たまに……近くにドラゴンが生息してるんですか?」
「そうではない。既知だと思うが、この街は国境がほど近い。高く切り立った山々の間に街道と関所ある。正規で入国出来ない者――所謂、賊や犯罪者だな。そいつらが危険な山を越えてまで不法に入国してくることがある。近隣で略奪行為などが発覚した場合、街から出ないように通達している。魔物の場合も同様だ」
「……なるほど」
でもそれは街から出ちゃダメなだけで、家からの外出禁止じゃなくない? とは思ったものの、あまり深堀りすると申し訳なさが倍増しそうだ。気にするなって言葉に甘えてしまおう。
「えっと、グラフさん」
「あぁ、サーシャでいい。その代わり、私も名前で呼ばせてもらおう。それに話しやすい口調で大丈夫だ。私もこうだからな」
「あ、うん。ありがとう。質問してもいい?」
「あぁ」
許可を得たので、街の特産品や物価、この辺の魔物の種類や強さ……隣国――問題のヴァリージェ国と、海に面したキューマレ国の情勢などなど。
思いつくままに質問を重ね、ざっくりとした概要は理解できた。
国境に位置する切り立った山は危険度からあまり人が立ち入れない。その点では人の脅威は街道に集中しているが、魔物はそうもいかない。さらに、ここ数年のヴァリージェ国の情勢のせいで、流れてきた人達が山に立ち入るようになり、魔物が以前よりも降りてくるようになった。
賊や犯罪者、流れ者、魔物……問題が起きれば、基本的には騎士団が派遣される。
先日には賊と魔物の戦闘で山崩れも起きたらしい。だから騎士団もピリピリしているんだそうだ。
迎えの騎士の態度は「なんで大変なときに旅行者の相手をせにゃならんのだ」ってところかな?
サーシャさんは祖父と母親が元冒険者だそうで、本人も魔物との戦闘に参加することもあるんだって。
私達の早い到着もわかっていたけど、アデトア君が「到着後に昼食にするらしい」って伝えてくれていたみたいで、それに合わせて迎えを寄こしてくれたんだそう。
アデトア君が「おそらくになるが、セナは気にいると思うぞ」って言っていた理由がわかった。考え方が柔軟で、貴族っぽくないからとても話しやすい人である。
1,956
お気に入りに追加
24,932
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
だが夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。