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4巻
4-1
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異世界ものによくある〝神様のミス〟で異世界へと転生することになった私は、またも神様のミスにより記憶喪失に。気が付いたときには幼女姿で森の中にいた。
何がなんだかわからぬまま危険な森を彷徨い、とある冒険者パーティに助けられた。名を【黒煙】という。ガルドさん、ジュードさん、モルトさん、コルトさんの四人パーティで、得体の知れぬ私にも親切なとてもいい人達だった。街に連れていってくれると話していたんだけど、ここでまたも問題が発生し、離れ離れとなってしまった。
満身創痍の私が辿り着いたのは、ガルドさん達と向かうはずだった国の二つ隣の国の廃教会。気を失うように眠っていたところを騎士団の人に保護された。保護してくれたのはキアーロ国、カリダの街、第二騎士団のフレディ副隊長。私が目を覚ましたのは第二騎士団の宿舎だった。そこで出会ったのは第一から第四まである騎士団をまとめているブラン団長、保護してくれたフレディ副隊長、パブロさん。記憶を取り戻した私が何かと濁しつつも身の上話をしたところ、三人の厚意でそのまま宿舎にお世話になることになった。
宿舎での生活は基本的には快適だった。ただ一つネックなのが、ブラン団長達の心配性。宿舎内の移動は毎度抱っこ。なんとか説得して街中は自力で歩けるようになったものの、最初のうちは当たり前のように誰かしらに抱えられていた。冒険者ギルドに冒険者として登録したまではスムーズだったのに……冒険者として活動することにはあまりいい顔をされなかった。彼らの口癖は「心配だ」である。街の宿屋に移る際にも心配性と過保護を発揮され、三人を説き伏せるのに苦労したのは記憶に新しい。そのときに出された〝しばらく街で暮らすこと〟という条件を守るべく、ギルドで依頼を受けつつ、気ままに生活していた。
あ、もう一人、忘れちゃいけない人がいる。冒険者ギルドのサブマスである、ジョバンニさんだ。この人は最初から好意的で、とても安心できる、めちゃくちゃええテノールボイスの持ち主。公にできないことが多い私を担当してくれている。
セナ・エスリル・ルテーナと神に名付けられてから、いろいろとあった。その最たるものは私の家族と言える存在ができたことだろう。エアリルパパとアクエスパパの他、今では火のイグニス神はイグ姐、土のガイア神をガイ兄と呼んでいて、気安い態度を取っても咎められることはない。なんならこちらが不安になるくらい可愛がってくれている。そして、呪淵の森のときから一緒にいてくれているクラオルを筆頭に、クラオルファミリーだったグレウス、蜘蛛のポラル、青い精霊のエルミス、黒い精霊のプルトン、そして……ほんの数日前に契約した、古代龍のグレンだ。多くない? この世界に来てからまだ二ヶ月ほどしか経っていないんだけど……
そんな私はグレンと契約したことと、ムレナバイパーサーペントという魔獣を倒したことで、この国の王様に呼び出されたのだ。約束の期間がもうすぐ終わるというタイミングだった。
第一話 王都へ出発
朝ご飯を食べた私は部屋でブラン団長達を待ち、迎えに来た彼らと一緒に、ひと月もの間お世話になっていた宿――【切り株亭】の女将であるアンナさんと、息子のサジュール君にお別れのご挨拶。
「毎日美味しいご飯もお弁当もありがとう! いっぱいお世話になりました。サジュ君もいろいろありがとうね」
「おま……セナなら、また泊まりにきてもいいぞっ。か、歓迎してやってもいいっ」
「まったく……ホント素直じゃないんだから。正直に寂しいって言えばいいじゃないか……」
言い終わった途端、プィッと顔を背けたサジュ君にアンナさんが呆れた視線を送っている。サジュ君は顔も耳も真っ赤。歓迎してくれるんですね。相変わらず可愛いツンデレショタ君だ。
「ふふっ、ちゃんと優しいの知ってるから大丈夫。私もすごく寂しい」
「こちらこそありがとうね。毎日セナちゃんに元気をもらってたから、あたしも寂しいよ。またこの街に来たときはぜひウチに泊まりにきておくれ」
アンナさんは最後に「道中で食べな」とお弁当を渡してくれた。二人は宿の前まで出て、私達が見えなくなるまでお見送りしてくれた。サジュ君は片手で目元をゴシゴシと擦りながらもブンブンと大きく手を振っていた。本当に優しい人達。温かい宿だった。
向かうは冒険者ギルド。通りの角を曲がったあたりで、私はグレンに抱えられた。話しづらかったらしい。騎士団の三人から説明を受けながらギルドに到着すると、聞いていた通り、大きな馬車が三台並んでいた。
一つ目はブラン団長達用で、休憩や仮眠をするためのもの。二つ目は私達用。グレンがいるからか、ブラン団長達用の馬車と大きさは変わらなかった。三つ目も馬車は馬車なんだけど……御者さんが座るところが超小型馬車仕様になってはいるものの、メインは車輪付きの大型の檻。外からは格子越しに丸見えで、イスすらない。完全に犯罪者を移送する専用のものだろう。
その檻の中には、三人が収容されていた。一人は領主。もう一人は領主邸のパーティーで見た記憶がある。おそらく、情報漏洩の嫌疑がかかっていた騎士団の人だ。最後の一人は知らない人。多分、ギルドで聞き耳を立てていた人だと思われる。三人して、格子に張り付いて何か騒いでいるけど、外には何も聞こえてこない。遮音の魔道具が使われているっぽい。全ての馬車には御者さんがいて、魔馬の世話など全部やってくれるんだって。
魔馬とは普通のお馬さんとは違い、スピードも持久力もある魔物の馬のこと。一般的に〝魔馬〟と一括りにされているものの、戦闘に強いタイプや、荒れた天気に強いタイプ、走ることに特化したタイプ、荷物を運ぶための力に特化したタイプ……と、さまざま。
(ブラン団長達と馬車が離れてよかった。これならコテージに行っててもバレないね)
お見送りに来てくれたジョバンニさんにもお別れの挨拶を済ませ、指定された魔馬車の魔馬とフレディ副隊長の白馬に「よろしくね」と挨拶してからグレンと馬車へ乗り込んだ。外から見たら四人乗りくらいの大きさだったけど、中は空間拡張されていた。ベンチみたいなイスがあるのに、私達が横になって寝られるほど広い。
小窓から確認したところ、ブラン団長は並走する馬に乗っていた。最初はあの馬車使わないのかね? そんなことを思っている間に馬車が動き始めた。出発したみたい。馬車のドアは鍵付き。何か緊急の要件がない限り、私は休んでいていいと言われている。つまり、自由時間である。
「ねぇねぇ、グレン。前に言ってた、お酒の滝ってここから行くとどれくらいかかる?」
〈ふむ。そうだな……我が向かって、往復で八、九日くらいか〉
「そっかぁ。うーん……王都に着くのギリギリになっちゃうね……」
〈欲しいのか?〉
「欲しいは欲しいんだけど、王都っていうかお城にはグレンも一緒にいてほしいんだよね。何があるかわからないからさ。移動中の間に行って帰ってこられるならちょうどいいかなって思ったの」
〈なるほど。そうだな……セナのパンケーキを褒美にくれるなら、真面目に飛んでやってもいいぞ。真面目に飛べば……往復五日くらいか?〉
「パンケーキでよければ作るけど……それってグレンが無理するってことにならない?」
私の発言に目を丸くするグレン。
〈……ちょっと疲れるくらいだから問題はない〉
「本当に?」
〈ハハハッ! セナは心配性なんだな〉
疑いの眼差しを向けたのに、笑われてしまった。
〈大丈夫だ。その代わりにセナのパンを持っていきたい。食べながら飛ぶ〉
パンを持っていくのはもちろんいいんだけど、グレンのアイテムボックスのスキルに時間停止が付いているかが問題。カピカピになっちゃったら美味しくない。聞けば大丈夫とのことだったので、寸胴鍋に山盛り出すことに。グレンは器用にパンだけアイテムボックスに入れていた。
〈次の休憩のときに出発する〉
「ありがとう! ワガママ言ってごめんね」
〈構わん。役に立つと約束したしな〉
そう答えたグレンは私の頭の形を確かめるように撫でた。グレンってわりと律儀だよね。
まだ出発したばかりだし、コテージに入らずに様子見するつもり。影に入ってもらっていたポラルも呼んでみんなでおしゃべり。クラオルとグレウスをモフモフしつつ、暇そうなみんなにしりとりを教えてみた。意外にもグレウスが強い! 私は思い付くのが日本のものだらけで、途中から地球のもの禁止令が出たため、早々にギブアップすることになった。
続いて、紐を輪にして〝あやとり〟も教えてみた。ここで一番の器用さを見せたのはグレン。ホウキのやり方を二回ほど見せただけですぐにマスター。最後には自力で東京タワーと四段はしごを作っていた。私、それ作れないです。器用すぎィ!
もうちょっと私が活躍できるものをってことで、次は折り紙。鶴の折り方を説明していく。あやとりが得意だったグレンだけど、細かすぎると苦手みたい。才能を発揮したのはエルミス。小さい姿のまま、私が折ったものより綺麗な鶴を折り、しまいには紙風船を作り出した。紙風船の折り方なんて覚えておりません。くそぅ。教えたのは私なのにみんな私より上手いだなんて! 手裏剣でも作れたらグレンが楽しめるかなって思ったんだけど……学生時代に授業中に手紙のやり取りをするのに覚えたハートがギリギリでした。調子乗ってごめんなさい。でもでも、クラオルがそのハートを気に入ってくれたから私は満足。そんな感じで馬車内は盛り上がっていた。
馬車が止まったな~と思ったら、ドアがノックされた。お昼ご飯だそうです。鍵を開けて外に降りると、既にパブロさんが焚き火を起こしていた。聞けば、スピードが早い分、魔馬達を休ませるためにちゃんと休憩を取るんだって。
「セナさん、朝言いそびれちゃったんだけど……スープ作りをお願いしてもいい?」
「いいよ、いいよ~。食材出す?」
「僕達がお願いしてるのに出させないよ! ちゃんといっぱい持ってきたから!」
アワアワとパブロさんがマジックバッグから食材を出していく。
野菜は人参、玉ねぎ、じゃが芋、キャベツなど、王道なものが揃っている。お肉も討伐隊のときに狩ったボア肉、干し肉、ウィンナー、ベーコン……と大量だ。調味料の中にコンソメキューブを発見! この材料なら、コンソメポトフにしよう。パブロさんはブラン団長達や御者さん達とお話があるそうなので、ソワソワしているグレンに廃教会の廃材を渡し、火の番を頼んだ。
串焼きはグレンが見てくれているし、あとは煮込むだけ。蓋がなかったから、アレンジした結界魔法を使ったんだけど、クラオルが『こんなことに結界魔法を使うなんて……』って呆れ声を出していた。そんなこと言われても、蓋が見当たらなかったんだもん。代用できるならよくないかい?
いざ、ご飯を食べるってとき、御者さん達は少し離れていた。
「御者さん達は一緒に食べないの? 後で食べる⁇ 串焼き冷めちゃうよ?」
無限収納かマジックバッグで保管しておいてもいいんだけど……特にやることもなくて見てるだけなら一緒でもよくない?
「そうですね。三人もご一緒にどうぞ」
「串焼きも多めに作ってあるし、まだまだ鍋にスープもいっぱい入ってるから、おかわりしたかったら自分で取りに行ってね」
フレディ副隊長の許可も下り、みんなでいただきます。御者さん達は私達が声を揃えたことに驚いていた。困惑させてごめんね。
おなかが減っていたのか、ブラン団長達はあっという間に二杯目のおかわりに向かった。ちゃんと噛んでるんだろうか……いっぱい作ったから焦らなくても大丈夫なのに。
檻の三人のご飯はどうなっているのか聞くと、死なない程度に黒パンと干し肉と水を与えられているそう。「ざまぁみろだよねー」とパブロさんが笑っていた。パブロさん、言葉の端々にちょっと黒い部分出ちゃってるよ。
私が食べ終わるころには大きな寸胴鍋は空っぽになっていて、みんな満足そう。周りを見回したとき、何故か御者のおじさん三人に拝まれていることに気が付いた。……え、何故?
〈セナ、我は行ってくるぞ〉
「あ、うん! お願いします」
人化したまま羽を出したグレンは、私を一撫でして飛び立っていった。それを見送ってから御者さんの方を見ると、もう既に動き出していて、何も聞けなかった。
ブラン団長達にはこのまま王都に向かって大丈夫なことを伝え、私は馬車に乗り込む。これから夜ご飯まで自由時間。ご飯を食べて元気が出たとパブロさんがやる気満々だったから、ちょっとやそっとの魔物くらいじゃ呼ばれることもないでしょう。よっしゃ、コテージ行っちゃおう。
みんなに「時間まで自由にしていていいよ」と言うと、いつも私と行動を共にしているクラオルとグレウスも揃ってどこかに遊びに行った。私は木工部屋でみんな用の食器作り。ストローも作った。クラオル達もそうなんだけどさ、精霊二人がコップから飲むの大変そうなんだよね。ちゃんと前と同じように防水加工も施してバッチリ完成。我ながらいい仕事した。ストローに時間がかかったせいで、もういい時間だ。
念話で声をかけて戻ってきたクラオル達は揃いも揃って土まみれだった。プルトンとエルミスまで砂で汚れていて驚きである。キミ達、そんなアクティブに遊ぶタイプだったの⁇
コテージから馬車内に戻った私は精霊達には魔力水を、クラオル達にはパンを配った。精霊とポラルのことをブラン団長達は知らないからさ。契約しているから食事はしなくてもいいんだけど……禁止されているワケじゃないし、本人達も喜んでるし、何より、なんか気になるのよ。
その後は馬車が止まるまでクラオル達をモフモフして癒されていた。
ノック音で馬車を降りると、ここで野営だとブラン団長から告げられた。連続でコンソメスープは微妙かなと、夜ご飯はこの世界ではオーソドックスな塩スープに決定。
フレディ副隊長とパブロさんも手伝ってくれるそうなので、二人にお肉を切ってもらうことにした。パブロさんは切るというより、ダンッ! と音を立て、裁断でもしているかのよう。フレディ副隊長はフレディ副隊長で解剖するかのようにスッと繊維に沿って切っている。
(ものすごく性格の違いを実感する……)
スープは塩味にしたから、串焼きにアレンジを加えることに。何故って? 私が食べたいから。毎度同じじゃ飽きるじゃん? 足りない調味料やハーブは手持ちから出します! と、いうことで、普通の塩コショウとスパイシーの二種類を作ってみた。火の番をフレディ副隊長とパブロさんが買って出てくれたので私は魔馬達にご挨拶。お礼を伝え、【ヒール】をかけてあげ、ナデナデ。撫でやすいように寝そべってくれる子や顔を寄せてくれる子など、みんないい子達だった。
夕食時はスパイシーな串焼きが大好評。御者さんの一人が串焼きを天に掲げるようにしていて、二度見した。神に感謝でもしてたのかね? お昼はそんなことしてなかったと思うんだけど。
食後はブラン団長達とおしゃべり。そういえば、一つ聞こうと思っていたことがあったんだった。
「ねぇねぇ、夜って見張りするつもりだった?」
「えぇ。ですがセナさんは大丈夫ですよ。私達で交代してやりますので」
「うんうん。セナさんはご飯作ってくれてるし、僕達に任せて!」
ブラン団長は頷いただけだったけど、フレディ副隊長とパブロさんが答えてくれた。
「あのね、結界張ろうと思って」
「……魔力の消費が激しいだろう。俺達はセナの負担になるようなことをさせるつもりはない」
「心配してくれてありがとう。魔力は大丈夫。元々結界を張る気だったんだけど、ブラン団長達に言っておけば、三人もゆっくり休めるかなって。街を出るまで忙しかったみたいだし……」
うっすらと目の下にクマができているブラン団長を真っ直ぐ見つめていると、フッと笑みを零したブラン団長は私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「……ありがとう。御者にも俺達がうまいこと言っておく」
そっか。結界の話ってあんま言わない方がいいんだったね。まぁ、今回結界を張るのはプルトンが担当してくれるから、私じゃないんですけどね。なんなら食事のときには既に張られていた。
◇ ◆ ◇
クラオルとグレウスに起こしてもらった私はモゾモゾと動き出し、一瞬止まった。あぁ、そうか。昨日は念のためとお試しとして、コテージに入らず、馬車内に置いてあった毛布にくるまって眠ったんだった。やっぱりベッドの方が疲れが取れるね。
ストレッチをしようと馬車を降りたら、ブラン団長が起きていた。昨日結界の話をしたから、てっきり寝ているかと思ってたのに。
「……おはよう。早いな」
「おはよう。寝てないの? 結界張ってるよ?」
「……仮眠は取った。起きていたのは……アレの見張りの意味合いが強い」
ブラン団長の視線の先には檻。形だけでもってことらしい。納得した。
その後は朝食を終えたら出発。今日もお昼までノンストップらしいので、コテージタイムとします! でもその前に、クラオル達の朝ご飯。ストローを試してもらうと、大好評だった。特に精霊の二人がべた褒めだった。喜んでもらえて私も嬉しい。クラオル達は機嫌よくまたどこかに遊びに行ったので私一人で錬金部屋へ。エプロンを付け、気合充分に作業開始だ。
まずは小さな魔石を砕いてすり潰し、粉状に。抽出した神銀に魔石の粉を魔力を使って混ぜ込んでいく。ブラン団長は結界の消費魔力を心配してくれていたけれど、この作業の方が魔力の消耗が激しい。まぁ、それも普通に作業できるくらいの消費量である。やっぱ、人よりちょっと魔力が多いんだろうね。そうして混ぜた神銀を十円玉サイズの円形状に。それを四つ。ニードルみたいな道具も駆使して、魔力を注ぎ、形作るのは神達のネームプレートのマーク。炎、森、竜巻、雪の結晶。そうそう、ガイ兄のマークがいつの間にかクラオルマークじゃなくなってたんだよ。で、そのクラオルマーク、私の部屋のドアに付いていた。羽根つきハートの右隣がクラオルで、左隣がグレウス。クラオルマークもグレウスマークもめちゃカワで見るたびにニヤニヤしちゃう。
四神の各マークが浮き彫り調になったら、次は裏面だ。裏は各神達の名前。これも浮き彫りになるように魔力を流しながら道具を使っていく。裏表ができたら、上にネックレスのチェーンを通す輪を付ける。これでペンダントトップが完成。続いてネックレスチェーン。最初の神銀から適量取り、軽量化をイメージしつつ魔力でコネコネ。それを四等分にして細いチェーンを想像して伸ばしていく。しばらく無心で伸ばしていると、いつの間にやら、アズキチェーンの形になっていた。
(何故……確かに想像してたけど……ま、いいか。気にしたら何もできなくなっちゃう)
四つのコインにそれぞれチェーンを通し、忙しいパパ達が少しでも和んでくれたらいいなと願いながら、錆防止コーティングを施した。うんうん。結構可愛くできたんじゃない?
さて、次が今日のメインですよ。いや~、パパ達のネックレスが練習みたいになっちゃったのは、プレゼントとして私が最初に作るものはパパ達のものの方がいいかなって。いろんな人にお世話になりまくってるものの、やっぱり一番はパパ達だろうからさ。
これから作るものには、防犯ブザーっていうか、警備会社の防犯システムみたいな機能を搭載させたい。私にお知らせが届き、周りに小さくても結界が張られる感じの。欲を言えば身に着けているだけで疲れが緩和したり、身体能力をサポートしたり……まぁ難しいだろうけど。そんなことを考えつつ、神銀と魔石の粉を混ぜ込んでいく。機能が多い分、魔力含有量が必要そうだから、パパ達のやつより魔石を多めにしてみた。形はRPGなんかでよく見る、オーソドックスな剣。一センチほどの大きさのそれを九本。柄頭の部位に小さな穴を開けておくことが重要だ。続いて、指輪を作るべく、神銀を細長く伸ばす。いい感じに細くなったところで、剣の穴に通していく。三コイチってことで一人三本ね。あんまり大きいと邪魔になるかなと、ピンキーリングほどの指輪にした。ピンキーリングに剣が三本ぶら下がってる、トップの出来上がり。パパ達のと同じようにチェーンを作り、それに通せばブラン団長達用のネックレスが完成だ。
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錬金部屋を出た私は作ったパパ達用のネックレスをキッチンに置いてあるご飯ロッカーに入れ、クラオル達に念話を飛ばした。
「あら。今日もみんな見事に土まみれだね」
コテージのドア前に現れたみんなは昨日と同様に土まみれ。全員に【クリーン】をかけてから、馬車に戻る。ネックレス作りで少々疲れた私は馬車内でゴロンと横になり、早めの昼食を終えたクラオル達をモフモフして癒されていた。
今日のスープはどうしようか? と、馬車から降りて考える。気分的には春雨入りのピリ辛中華スープがいいんだけど……春雨も豆板醤も唐辛子も鷹の爪もないんだよね。塩とコンソメ以外で今できそうなものとなると……ふむ。ビシソワーズなんていかが? 辛くないけど。
フレディ副隊長とパブロさんは串焼きの串刺し作業と火の番を担当してくれ、私は一人でスープ作り。結界魔法と風魔法と水魔法を駆使して作ったビシソワーズを見た面々は困惑顔を浮かべていた。
なんと、ブラン団長達も冷製スープを食べたことがなかったらしい。でも、恐る恐る口に含んで目を見開いたブラン団長達は早々にスープ争奪戦に発展していた。
「あなた六杯食べたでしょう! 私に譲るべきでは?」
「美味しいのがいけない! まだまだ食べたいの!」
フレディ副隊長とパブロさんが言い争っている間にシレッとブラン団長がおかわりをよそっている。それに気付いた二人は揃って「あぁ⁉」と声を上げていた。
そんなやり取りをBGMに、私は久しぶりの味をゆっくりと味わう。風魔法の攪拌に時間をかけたおかげで、口当たりもまろやか。私がビシソワーズをパンに付けて食べているのを見た御者さんがマネして黒パンに付けて食べ始めた。一瞬目を丸くして、破顔した様子から気に入ったことが窺える。でもね、その後私を拝むのは何故⁇ 私は神様じゃないよ?
お昼ご飯を終えた後、私はコテージの木工部屋へ。クラオル達はまた遊びに行っちゃった。
昨日、おもちゃとかゲーム的なものがあればいいんじゃないかと思ったのよ。すぐに思い付いたのはすごろく調のアレ。ただ、コマに書くことがそんなに思いつかないんだよね。ということで、第二候補として思い付いたリバーシです。異世界モノの小説とかマンガによく出てくるでしょ?
木材でコマとボード版を作ってから気が付いてしまった。絵具とかペンキとか染料がないことに。
リバーシ製作は中断。着色については王都で染料を探すことにした。遊びに行っているクラオル達を呼ぶのもあれだから、もう夜ご飯までお休み。植物図鑑を片手に、サマーベッドで横になった。
◇ ◆ ◇
コテージのお風呂に入って、コテージのふかふかベッドで眠った私は元気いっぱい。クセになりそう。ブラン団長達には申し訳ないと思いつつ、この贅沢を止める気はない。
午前中はうどん作りに徹し、お昼休憩を挟んだ午後、ポラルを連れて木工部屋へやって来た。
紙にペンで図を描きながら説明して、ポラルに理解してもらう。木材を成形し、組み立てた木枠にポラルの糸を張る。一センチ幅ほどの幅で張っていたら、三十本ちょいだった。捻じれたりたわんだりしないようにしっかり張って、端は木に埋め込む。ちょっと木枠が大きかったかも。
「よしっ、一品目完成! ポラルにはもう一種類お願いしたいの。今度のはこれみたいに頑丈な糸じゃなくて、ちょっとクッション性が欲しいから、柔らかめの糸をお願いできる?」
〔デキマス〕
「助かる~! 優秀!」
スチャッと手を挙げたポラルが可愛くて撫でまわしてしまった。
先ほどよりも大きな木枠を作り、組み立て、それにポラルに頼んだ柔らかめの糸を張る。縦糸を張ったら横糸だ。上に下にと通して網目状にしていく。夜ご飯までにできたのは五つだった。
夜ご飯はミネストローネ。理由は私がトマト味が食べたくなったから。私の手持ちの食材を出すのはあんまりいい顔されないんだけど……食材に関して私は気にしないし、調理担当者の特権ってことで。それにほら、私、今、子供だし。許してほしい。
串焼きの方は慣れたみたいでフレディ副隊長とパブロさんがせっせと串に刺しては焚き火の周りに並べていた。トマト缶がないために大量のトマトで代用したからか、ちょっと酸味の強いミネストローネになっちゃった。それでもブラン団長達には大人気だったよ。
「……セナはすごいな。このスープも俺は初めて食べた。さっぱりしていて食べやすい」
「えぇ、ペロリと食べてしまいました」
「うんうん! セナさんが作るスープ、どれも美味しい! トゥメイトゥいっぱいごめんね」
「ううん、私が食べたかったから、食材については気にしないで。気に入ってもらえてよかった」
この世界、トマトの名称がやたら発音のいい英語風で、聞く度に笑いそうになっちゃうんだよね。
ブラン団長に私が考案したレシピなのか聞かれたから、私の故郷で食べられていた料理だって説明したのに、食材を見ただけで思い付くこと、それだけの種類のレシピを知っていることがすごいのだと返ってきた。
日本じゃレシピ本、料理動画、私もお世話になりまくった料理アプリ……いろいろあったからねぇ。基本が塩味のこの世界からしたら未知の味付けも多いだろうな……食に関してはマジで発展してほしい。まぁ、そんなことは言えないので思い付いたネタを振る。
「そうそう、聞こうと思ってたんだけど、みんなは塩とコンソメ以外のスープを食べるとしたら、お昼と夜のどっちがいい?」
返答はブラン団長が夜、パブロさんが昼、フレディ副隊長は夜……と意見が分かれた。御者さん達にも聞いてみると、自分達に話題が振られると思っていなかったのか、こちらが驚くほどビクッと反応された。
「え、えっと……夜、ですかね……?」
真ん中の一人が恐る恐る発言すると、両サイドの二人がコクコクと頷いた。
「多数決で夜でもいい?」
「うん! セナさんが作ってくれるのならいつでも大歓迎! 初日のコンソメスープもそうだけど、セナさんが作ったやつってとびきり美味しいんだよね」
初日のコンソメスープ……ポトフかな?
「私は昨日の冷たくて白いスープが好きですね」
それはビシソワーズですね。
「……俺はこの赤いスープだな。硬い黒パンも美味く食べられる」
ミネストローネといいます。好みもみんな見事にバラバラだね。
「そういえばさ、気になってたんだけど、なんで野営のとき黒パンなの?」
「黒パンは日持ちするんですよ。今回は人数が少ないですが、騎士団は大人数で移動することが多いので、白パンよりも安価な黒パンが選ばれるのです」
私の質問に答えてくれたのはフレディ副隊長だ。ごめん。聞き方が悪かったね。
パブロさんのマジックバッグに時間停止か劣化防止みたいな機能が付いてるみたいだったから、少人数である今回は白パンでもよかったんじゃないかと指摘すると、パブロさんは嘆くように打ちひしがれてしまった。野営といえば黒パンだったため、いつも通りに黒パンにしたらしい。
「容量があるなら、白パンも黒パンも入れておいて食べるときに選ぶって手もあるよ」
「うん……そうする……」
元気を出してとドライフルーツパンを渡すと、一瞬にしてパァッと顔が華やいだ。
「ありがとう‼ さすがセナさん!」
日頃隠しているウサ耳まで飛び出しているから、相当嬉しかったんだろう。話している間にスープは食べ終わっていたけど、御者さん含め全員にドライフルーツパンを配っていく。何故か御者さん達は涙目だった。ドライフルーツ嫌いだったのかな? ごめんね。
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救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
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