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16章
閑話:【裏】メイド達
しおりを挟む第一王子であるアデトアの〝ご友人〟という子供……セナ一行が来てから城に勤めている者達は目が回るほどの忙しさに見舞われていた。
ある者は過去の帳簿を調べ、ある者は過去の他国間とのやり取りを調べ、ある者は怪しい人物の取り調べ……日ごろの仕事もある中、降って湧いた問題にメイドは疎か、普段は野菜の皮剥きなどをしている厨房の見習いにまでシワ寄せが及んでいた。
例外だったのは、件のご友人を担当することになった数人のメイドだ。他国の王族とはいえ、宰相がキレ散らかしていたことと、忌み子であるアデトアの関係者であることも相まって、家格の高い者達から仕事を押し付けられた中級や下級メイド達である。
そのメイド達は内心戦々恐々と怯えていたが、自身の価値観を根底からひっくり返されるような驚きの連続だった。
それは急遽開催された庭での交流会にて、グレンと呼ばれている男が「何が入っているかわからない」と用意した菓子や茶を拒否したことから始まった。
その男が懐いている少女は子供に言い聞かせるように注意。ひとまずフラーマ殿下が場を収めたと思ったら、少女が不思議な食べ物を配ったのだ。
少女は「アデトア殿下に魔力制御を教え、暴発防止の魔導具を渡した」と聞いている。しかし、魔導具代は恐ろしく高額であり、その料金を徴収しにきた人物である。騙されているのでは? というのが城に仕えている者達の総意であった。
フラーマからこっそりと手で制されたため毒味はせずに済んだものの、そんな人物をそこまで信用して大丈夫なのか……何かあったら……と表情を取り繕うことでいっぱいいっぱいだった。
さらに歓談とは言い難いミリエフェ殿下と公爵子息のやり取りにヒヤヒヤしっぱなし、極めつけは〝公爵子息歯折れ事件〟である。
一部始終を目撃することになった者からすれば公爵子息がセナ嬢の腕を引っ張ったことが原因だ。だが、平民の少女が公爵子息の鼻から血を流させ、歯を折ったことには変わりない。セナの仲間はセナの心配しかしておらず、誰がこの責任を取らされるのか……と傍にいたメイド達からは血の気が引いた。まぁ、それは天狐と呼ばれている女性が治したことでなんとかなったのだが。
城ではなく宿に泊まる。飛来した際にケガをした民衆の回復を依頼。シュグタイルハン国の王を気安く呼び、注意。置いてあるピアノの使用は可能なのかとメイドに確認……と、サロンに入ってからも偉そうかと思えば他者を気遣う様子に頭が追いつかない。感情の振れ幅が大きすぎて無表情となっていた。
「ねぇ……アデトア殿下、普通だったわね……」
「えぇ、そうね……しかも私達にありがとうって言ってたわよね……」
「……やっぱり幻聴じゃなかったのね……初めて言われたわ」
「「「私もよ」」」
サロンを退室し、メイド用の控室に戻った際の会話である。
やらなかった場合に叱責こそあれ、やって当たり前のことに対して礼など言われることはない。それは王族はもちろんのこと、貴族であれば似たようなものである。雇っている側が礼を言うことが稀なのだ。いい意味で意表を突かれた場合などは別として、礼とは対等な間柄、商談相手、もしくは目上の人に対しての場合が多い。
ドキドキ、ヒヤヒヤ、アワアワ、ドッキリ……幾度となく血の気が引き、心臓に悪い一日を過ごしたメイド達は心労から疲れており、早々にそれぞれの部屋へと引っ込むことになった。
◇ ◆ ◇
自分達が担当であるため、否が応にも関わらねばならない。
生きた心地がしなかった初日から数日もすればセナ一行の人となりを理解することになった。
基本的に横柄な態度を取ることもなく、無茶や無理は言わない。事ある毎に礼を言う。王族だろうがメイドだろうが平民だろうが態度を変えることがないのだ。
それはセナだけに留まらず、シュグタイルハン国の王であるアーロンやナノスモ国の王族二人、歴史上の人物であるニェードラ国の元国王とその子孫であるスタルティも同様であった。ニキーダの態度は分かりやすく好き嫌いがハッキリしていて、アリシアは誰に対しても腰が低い。護衛している【黒煙】のメンバーは彼らに付き合わされている感が否めなくて親近感がわく。例外はグレンとジルベルト……この二人はセナ至上主義だったのだ。
理解さえすればセナ一行は他の貴族や他国の王族なんかよりも断然付き合いやすかった。
アデトアの居住区である〝離れ〟を修繕するために呼ばれた職人の案内、搬入の品々の置き場所の相談や確認……と慌ただしくもあったが、日ごろ家格が上の先輩達から回される仕事よりも充実した日々を送ることになった。
セナから「いっぱいお手伝いありがとう。よかったらこのゼリー食べてね。サッパリして美味しいよ」とプルプルしたスイーツなるモノをもらったことを皮切りに、度々差し入れをもらうこととなったのが大きい。
最初は「毒でも入っていたら……」と心配したものの、「私達に何かしたところで利になることは何もないだろう」と落ち着いた。セナ達が作ったものは漂ってくる匂いからして美味しそうなのだ。実際、アーロン達が奪い合うようにおかわりに走っているのを何回も目撃している。一口食べればあまりの美味しさにメイド達は揃って相好を崩すことになった。それからはありがたくいただいている。
アーロン達が帰ってからはメイド達は自分の時間が持てるほど時間に余裕を持てるようになった。
日中は掃除などがあるものの、邪魔をされることも余計な仕事が舞い込むこともない。時間がくれば仕事は終わり。夜は完全に自由時間である。
アデトアに対しても慣れ、忌み子ということなど気にならなくなった。それはアデトアの人柄を知ったこともあるものの、修繕中に魔法を常人ではありえないほど連発し、肩に乗せている従魔と会話してしまうほどの能力を持ったセナに「心配しなくてもアデトア君は大丈夫だよ~。私が保証する」とにっこりと断言されたことが決定打だったが。
後日、宰相からメイド達に「本日よりアデトア殿下を担当するように」と正式にお達しが出た。メイド達からすれば願ったり叶ったりである。
それからしばらく……城に勤めている者全員に絵本が配られた。セナとアデトア、忌み子の話の絵本だった。
それを読み、本当のことなのか? と疑う気持ちは無きにしも非ず。しかし、宰相がセナに媚を売るような態度を取るようになったこと、「セナ様は規格外だからありえることだし、仮に騙されていたとしてもセナ様にならいい」と一人のメイドがした発言により、担当メイド達は「それもそうね」と揃って頷いた。
--------キリトリ線--------
今年中に更新したい……!ということでなんとか。
皆様はどんな年末をお過ごしですか?
作者は洗車と大掃除で全身筋肉痛であります。
そして本日は年越し蕎麦を買ったことを忘れており、奮発して買った寿司と手巻き寿司でおなかがいっぱいになりました。食べ終わってから蕎麦の存在を思い出すという……とんでもねぇ失態。反省して明日二人前食べたいと思ってます。
本年中は大変お世話になりました。
つい先日コミカライズ版の第二巻も発売され嬉しい限りです。
来年中に嬉しいご報告ができるよう頑張っております。
来年も変わらずの応援をぜひよろしくお願いいたします。よいお年を~ノシ
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