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3巻

3-3

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「えぇっと……どうしてそうなったのか聞いても?」
「んとね、核を攻撃して倒すって聞いて、核がなくなったらどうなるのかな? って思って実験したの」
「そんな危険なことをしたのですか!?」

 うお! ビックリした……いきなり身を乗り出さないでほしい……

「ゴホンッ。いいですか。スライムの体には消化液が含まれており、触れたものを溶かしてしまうのです。しかもこちらはポイズンスライム。毒を含んでいて大変危険なのですよ? ケガはしていませんか? 何事も気になる年齢だとは思いますが、もっと気を付けてください」

 ジョバンニさんは怒りのオーラを纏っている。
 耐性持ってるし、大丈夫だからやったんだけど……そういえば私、五歳児だった。

「……うん。ケガは大丈夫」
「セナ様の身に何かあればセナ様が何を言ったとしても、一緒にいた【ガーディアン】の責任になったでしょう。それに……セナ様の心配をしている者が悲しみます」

 なんてこった! それは困る。勝手にやったことだからね。心配してくれてるのは騎士団のみんなか……心配性に拍車がかかりそうだ。

「はい。気を付けます。ごめんなさい」
わたくしもとても心配していますので、もっとご自身を大切にしてくださいね」

 ショボンと肩を落とした私にジョバンニさんは優しい顔になった。

「はい」
「ですが、こちら貴重な資料として買い取らせていただいてもよろしいでしょうか?」 
「まだあるから大丈夫だよ」
「……セナ様、何体に試したんでしょうか?」
「えっと……十匹?」
「ハァ……以後、本当に気を付けてくださいね?」

 ため息をつき、念を押すように最後に力を込めて言われた。

「はい」 
「そうですね……国の研究所が欲しがるでしょうから……とりあえず白銀貨一枚でいかがでしょうか?」

 白銀貨って……百万!?

「そんなにするの?」
「おそらくそれでも安いです。初めてのものですので、国の研究所に問い合わせて差額を後で払います」

 おおぅ……思ってたより大事おおごとになったな……

「全然いいよ。ジョバンニさんにお任せする」
「かしこまりました。ではお金を取って参りますので少々お待ちください」

 ジョバンニさんの移動に合わせて一度結界を消し、戻ってくるのを待って再び結界を張る。

「お待たせいたしました。こちらになります。今回の件で国の研究所から連絡が来たらまたお知らせいたします。結界を解除していただいて大丈夫です」
「はーい」
「では宿までお送りします」
「へ? 大丈夫だよ?」
「いえ。もう遅くなっておりますので」

 話し込んでいたみたいで、確かに外は暗くなっていた。結局、ジョバンニさんに甘えて抱っこしてもらい宿まで送ってもらった。宿屋の女将さんにすごく心配をかけていたらしい。もう少し遅かったら騎士団に連絡するところだったそう。危なかった……連絡がいったら連れ戻されそうだもん。



   第二話 副産物と神からのお願い


 朝食を食べ、お弁当を受け取ったら女将さんに鍵を預けて教会に向かう。昨日の夜、クラオルに約束を取り付けてもらったんだ。
 教会には二人ほどお祈りに来ている人がいた。邪魔にならないようにパパ達の像の前で二礼二拍手をして目を閉じる。

「パパ~――う゛!」

 今日も後ろから体当たりの勢いで抱きつかれて変な声が出てしまった。目を開けて振り返ると案の定エアリルパパ。その後ろにはパナーテル様以外の神が勢揃いしていた。

「待ってたぞ」

 アクエスパパが私をエアリルパパから引き剝がして抱きしめる。不満そうな顔をしていたエアリルパパは私と目が合うとフワリと微笑んで指を鳴らした。お花畑からいつものリビングへ一瞬にして移動。私を抱えていたアクエスパパによって私はソファに下ろされた。
 ソファに座ると恒例のマグカップのお茶が出てくる。
 うまーい! 飲み干してもおかわりあるとか最高!

「ご飯とっても美味しかったです! パンも美味しかったですし、セナさんすごいです!」

 隣に座ったエアリルパパは興奮冷めやらぬ様子だ。

「あのチャーハンってやつが美味かったな。あれがシラコメだとは想像できん。セナが炊飯器なるものをやたら欲しがっていた理由がわかった」

 アクエスパパはチャーハンがお気に召したらしい。

「ふむ。どれも美味しかったのぉ! わらわはジャムが好きじゃ!」

 イグねぇは甘いものが好きなのね。

「そうだね。どれもとても美味しかったけど、衝撃を受けたのはチャーハンだね。私はセナさんが作ったものはどれも好きだけどね」

 ガイにぃはイケメン発言ですな。

「ふふっ。気に入ってもらえてよかった!」
「それで、今日はどうしたんじゃ?」
「んとね、これを見てもらおうと思って」

 パパ達が見やすいように、昨日手に入れたスライムの核を四つテーブルの上に出す。

「ほぅ。面白いことになっておるのぉ」

 イグねぇがひとつを手に取ると、三人もそれぞれ手を伸ばした。

「これはどうやってこうなったのかな?」

 ガイにぃに聞かれたので、昨日のスライム討伐のこととギルドでのことを説明した。

「ハッハッハ! さすがセナじゃ! また面白いことを思い付いたのぉ!」
「それで、これってなんなのかみんなならわかるかな? って思って」
わらわ達も考えたことがないゆえわからぬが……これは面白い! わらわも調べてみようかのぉ。人族の考察はわらわ達と視点が違いそうじゃからの」

 イグねぇだけじゃなく、パパ達も調べたいらしいので、この核はプレゼント。私は疑問を実践しただけ。ただの副産物だから、むしろ調べてもらえることがありがたい。

「そうだ、セナさん!」

 エアリルパパに勢いよく呼ばれて首を傾げる。

「なぁに?」
「セナさんが前に欲しがっていた料理アプリですが、セナさんのスマートフォンという機械に入っていたやつでよければ使用可能になりました」
「えぇ!? 本当に!?」
「はい。ただ更新はされませんので新しく内容が追加されることはありません。それでもよろしいでしょうか?」
「もちろんだよ! 私のスマホに入ってた料理アプリ全部??」
「はい。全ての内容をコピーしてスキルを作りました」
「わぁ~‼ 超嬉しい! ありがとう‼」
「今回はここにいる全員が協力してくれたんですよ」
「みんなありがとう! すんごく嬉しい‼」

 満面の笑みでエアリルパパから順番に抱きついていく。パパ二人だけだと思ってたのに、予想外にガイにぃとイグねぇに手を広げられたんだよ。

「本当に嬉しそうじゃの。そこまで喜ばれるとわらわ達も嬉しいのぉ」
「日本の料理アプリはすごいんだよ! これでいっぱい日本の料理が作れるよ!」

 なんて言ったって私のスマホには五つの料理アプリが入っていたからね! 向かうところ敵なし! ふふふ。これでケチャップの作り方もわかるぞぉぉ!

「そうだ! 料理で思い出した。イグねぇに作ってもらったパン型で食パン作ったんだよ」

 小さい型で焼いた食パン一斤を出し、風魔法でスライス。お皿にのせてみんなに渡す。パンは日本の六枚切りの厚さ。完全に自分の好みの厚さです。

「とりあえず何もつけないでそのまま半分くらい食べてみて!」

 みんながモグモグと食べている間に説明する。

「これはね、白パンでできてるんだよ。半分くらい食べたらジャムを付けて食べてみて」

 適当に出したらオレンジマーマレードだった。四人とも、順番にジャムを付けて食べていく。
 イグねぇは好きだと言っていただけあって山盛りだ。喉渇かないのかな?

「ほう! これがあの白パンと同じとな? ジャムを付けてもジャムパンとは少し違うのぉ」
「でしょ? これはこれで美味しいでしょ? 表面をあぶる感じで焼いても美味しいんだよ」
「ほう!」

 イグねぇが残っていた食パン二枚のうち一枚を手に取り、手をかざすといい具合に焼き色が付いた。

「こんな感じかのぉ?」
「そうそう! イグねぇすごいね。まさにそれくらいがベストだよ! それちょっと貸してもらってもいい?」

 イグねぇから食パンを受け取って、バターを塗って風魔法で四等分に。それぞれのお皿にのせてあげる。

「はい! そのまま食べるか、ジャム塗って食べてみてね」
「「「「!」」」」

 みんなちょっとかじったあと一口で食べてしまった。

「なんじゃこれは! 全然違うものになったぞ!」

 大興奮のイグねぇを筆頭に、口々に美味しいという感想がきた。やっぱトーストは美味しいよね!

「地球はすごいのぉ……」
「ふふっ。これが食べたくてイグねぇにパン型を頼んだの。作ってくれてありがとう!」
「よいよい、セナのためじゃからの! わらわ達も美味しいものが食べられて大満足じゃ!」

 みんなのリクエストで最後の一枚もトーストにして、みんなのおなかの中へ。
 そのまま近況報告に話題が移ったとき、そういえばと気になっていたことを聞いてみる。

「ねぇねぇ、転移の魔法って私でもできる?」
「セナの空間魔法であれば大丈夫だと思うぞ」
「おそらく、行ったことのある場所や魔力を辿って目当ての場所に行けると思います」

 アクエスパパの簡潔な答えにエアリルパパの補足が入った。

「森の中で場所がよくわかっていない場合は?」
「セナさんが行った場所はマップに記載されていますので、おおよそはわかると思いますが……何故か聞いてもいいでしょうか?」
「すぐ行けたらクラオルが実家に帰れるでしょ? そしたらクラオルが家族に会えるからお互い嬉しいかなって。でも私あのとき、現在地を把握できてなかったから、マップ見てもわからなくてさ……」

 そんな話はしていなかったから驚いたのか、クラオルが肩の上で固まった。

「セナさんはクラオルのことも考えてくれてるんだね」

 感心したようにガイにぃがしみじみと言う。

「それはもちろん! クラオルがいなかったら多分死んでたし、いつも助けてくれるのに私、何もできないし……」
『何言ってるの! そんなこと考えてたの!?』
「クラオルは家族と離れて私と一緒にいてくれるでしょ? 私の今の家族はパパ達だからこうして頻繁に会えるけど、クラオルは私が呪淵じゅえんの森に行かなきゃ会えないなんて寂しいじゃん?」
「セナさん……」
『主様……優しすぎるわよぉぉ!』

 エアリルパパが瞳をウルウルさせているなぁって思ってたら、クラオルまで泣いちゃった。クラオルを肩から降ろし、膝の上に乗せて撫でながら話しかける。

「クラオルが大好きだからね」
『うぅ……ワタシも大好きよぉ!』
「ふふっ。両思いだね」
『うぅ……』
「あと、マップ見てもなんか上下っていうか、斜めに長くてよくわからなかったの」
「それは……」

 クラオルを撫でながらマップのことを言うと、エアリルパパが言葉を詰まらせた。

「俺が説明しよう。セナは最後に走って逃げただろう? あのとき、北西から東南東に向かって三日間ぶっ通しで走ったんだ。身体強化してありえないスピードでな」

 アクエスパパが衝撃の事実を述べた。

「三日間!?」
(マジか……よく生きてたな……)
「そうだ。正確には三日目の昼過ぎにあの廃教会に辿り着いた」
「マジか……無我夢中すぎて覚えてない……ごめんね、クラオル。そんな状態で連れ回しちゃったんだね。早くリンゴを食べさせてあげられたら、もっと早くケガも治してあげられたのに」
『ワタシのことより自分の心配しなさいよぉぉぉ!』

 せっかく収まりかけていたのに、私の言葉で余計に泣かせてしまった。

「セナが走ったことで国境を越えている。あの【黒煙こくえん】が活動しているのは、今セナがいる国の二つ隣。つまり隣の隣の国だ」
「え!? じゃあ、私完全に丸々一つ分の国またいだってこと?」
「そうだ。と言っても、呪淵じゅえんの森の周りの国は呪淵じゅえんの森を各国で保有する形を取っているから、国を越えると言っても普通に横断するよりは距離は短い。まぁそれでもあの森は元々セナがいた地球の一番デカい国くらいの広さなんだがな……」
「なんでガルドさん達に当分会えないって言われたのかわかった。隣の隣か。そんなに離れていたとは……魔力も覚えてないから飛ぶのはムリだね……」
「ちょっといいかな? クラオルの故郷の場所なら私が教えてあげられるよ」

 ガイにぃのセリフで一気に気分が浮上する。

「本当!?」
「元々私の眷属けんぞくで、何回も報告を受けていたからね」
「教えてくれる?」
「もちろん構わないよ」
「わぁ~、ありがとう!」

 エアリルパパと場所を変わったガイにぃは私のおでこに人差し指を伸ばした。言われた通り目を閉じると、おでこに温かい力が注がれている感じがする。頭の中にマップが展開され、呪淵じゅえんの森の一点にピンが立った。そのとき、おでこにチュッと予想外の感触がして驚きに目を開ける。


 目の前にはイタズラが成功したと言わんばかりのガイにぃの笑顔。咄嗟におでこに手を当てたものの、恥ずかしさから顔に熱が集まってくる。

「ふふっ。真っ赤になって可愛いね」

 真っ赤って言われてさらに羞恥心が増していく。
 くそぅ、からかいやがって! 私はこういうのに慣れてないんだよ‼

「――んなっ⁉ 何してんだ!」
「ちょっと! 僕のセナさんに何してるの⁉ 僕もしたことないのに!」

 後ろからアクエスパパに抱き寄せられ、エアリルパパがガイにぃに詰め寄った。

「そうなの? じゃあ私がセナさんの一番だね」
「ハッハッハ! セナはモテモテじゃのぉ。わらわも好きじゃが」

 シレッと言うガイにぃにイグねぇが笑っている。
 笑いごとじゃないよ! 恥ずかしすぎて顔の熱が引かないよ! イケメンじゃなかったら許されないんだからね!

「俺が上書きしてやる」

 顔を近付けてきたアクエスパパの口を手で塞ぐ。

「何故だ!」
「恥ずかしいからヤダ! あんまり恥ずかしいことするとお手紙あげないんだから!」

 私が言った瞬間、神達はピタリと静止した。

「なんだそれは?」
「みんなにお手紙書いたの……でもでも恥ずかしいことするならあげない!」

 みんなに日頃の感謝を書いただけのただの手紙なんだけど……咄嗟に出ちゃったから後には引けない。なんとか切り抜けなければ。

「俺はまだしていないからもらえるんだな!」
わらわは女同士だから問題ないのぉ」
「ぼ、僕も大丈夫ですよね?」

 アクエスパパは一気にテンションが上がり、イグねぇは得意げに笑みを浮かべ、エアリルパパは期待しているのか目がキラキラと輝いた。
 そんなに嬉しいもの? 本当にただの手紙だよ? 神様なんだから日頃教会で感謝を捧げられているんじゃないの?

「それは私はもうもらえないってことなのかな?」

 肩を落としながら聞いてくるガイにぃにウグッと答えにきゅうする。
 う……イケメンがそれしちゃダメ。ショボーンって可愛すぎるから。

「……もうしない?」
「嫌がるならしないよ(今は)」

 最後声が小さくて聞き取れなかったんだけど……なんか付け足されてなかった?

「嫌っていうか恥ずかしいの。私に面白い返しを期待しないで。もうしないならあげる……」
「それはよかった。嫌われたくないからね」

 ニッコリと笑いかけてくるガイにぃは何事もなかったかのよう。
 くそぅ。ほだされてしまった。でもあれは断れる気がしない!

「そうだ。呪淵じゅえんの森のあの場所に行くなら、その前に一度近くに転移してからの方がいいよ。慣れないうちは一気に長距離を転移するのは魔力の調節が難しいと思うからね」
「そしたら……廃教会辺りがわかりやすくていいかな?」
「そうだね。ちょうどいいと思うよ」
「あの教会か……なぁ、セナ。廃教会に行くなら、廃教会をキレイにしてくれないか?」
「ん?」

 思い出したかのように話すアクエスパパの様子に首を傾げる。

「あそこの教会は呪淵じゅえんの森の脅威が外に行かないように守る役割も持っている。廃教会になって久しい。中に入ってセナが【クリーン】をかけるだけでいいんだが」
「それくらいなら全然いいよ~。でもキレイになったら悪いやつが勝手に住んだりしない? あのノーモカヴァの人達みたいな」
呪淵じゅえんの森だからそういないとは思うが……完全には否定できないな」
「それは結界石にわらわ達の結界魔法を込めれば済むんじゃないかのぉ? は無意識に忌避きひするじゃろ」
「そうですね。それならセナさんにも負担がありません」
「そうだね。それは私達が用意しようか。転移時だけでなく、採取などで呪淵じゅえんの森に寄る際、セナさんの休憩所としても使えそうだからね。用意できたらセナさんの無限収納インベントリへ送るよ。使い方は私がクラオルに連絡するから、クラオルに聞いてもらえるかな?」

 悩むアクエスパパにイグねぇが案を出し、エアリルパパが賛同、ガイにぃによって今後の動きが決まった。

「わかった!」

 なるべくキレイにして秘密基地みたいにしちゃお!

「残念じゃが、そろそろ戻った方がよさそうじゃのぉ」

 みんなにギュッと抱きついてから手紙を渡す。本当はご飯と一緒にロッカーに入れようと思ってたから手渡しするのも恥ずかしい。いたたまれないからさっさと帰ろ。

「バイバーイ!」

 教会に戻ってきたので最後に一礼してから教会を出た。



   第三話 デタリョ商会①


 さてさてお買い物ですよ。近々クラオルの実家に行けることになったからね。ファミリーへのお土産を買わなくちゃ。
 フルーツ、ドライフルーツ、ナッツ類、パンの材料もどんどん購入。マップを使って個人店を巡っていたけど、ふと、大型商会なら鍋とかキッチン用品もいっぺんに揃うんじゃなかろうかと思い至った。
 再びマップで検索をかけて向かうと、目の前に現れたのはすごく大きな建物だった。貴族のお屋敷って言われたら納得してしまいそうなほど。キラキラと輝く装飾まで付いている。デカデカと【デタリョ商会】と看板に書いてあった。
 意を決して中に入る。入口正面には受付けがあり、お姉さんが二人座っていた。大手の会社なんかにいる受付嬢みたい。とりあえず、お姉さんに場所を聞こうと受付けへ歩いていく。受付嬢の一人と目が合った途端、驚いた顔をしてどこかに走っていった。
 え……なんで? 目が合っただけなのにまさかの入店拒否系? お子様お断りってこと?
 軽くショックを受けたものの、気を取り直して違うお店に行こうかとクルッと反転して出口へ向かう。

「お、お待ちください!」
「お待ちください!」

 大声で呼び止める声が聞こえ、誰をそんなに引き止めているのかとチラッと後ろを振り返ると、私に向かって走ってくる執事みたいな燕尾服えんびふく? を着た男の人と、さっき走り去っていった受付嬢がいた。キョロキョロと周りを見ても私の周りには誰もいない。
 え、私? なんかした? 入ったばっかりだけどあらぬ疑いをかけられてる感じ?
 驚いて固まっている間に、執事? と受付嬢は私の前で止まった。

「何か?」
「申し訳ございません」
「っハァハァ……申し訳ありませんっ」

 何もしてませんよ~という意味を込めて声をかけたのに、執事と受付嬢に謝られてしまった。しかも受付嬢の方は息切れが激しい。

「それはなんの謝罪ですか?」
「セナ様でよろしいでしょうか?」

 ワケがわからず首を傾げていた私は、執事に名前を呼ばれて警戒を強めた。
 なんで名前知ってるの? 怪しすぎるでしょ。しかも答えになってないし。

「私のさっきの質問には答えてはもらえないんですね。帰ります。お邪魔しました」
「お待ちください!」

 執事が呼んでるけど知らん。関わりがないのに名前知ってるなんて怖すぎる。
 構わずスタスタと出口に向かう。もう出口! ってところで、入口を守っていた二人の男性が入ってきて、出入口を塞がれた。
 はぁ? なんなの? 逃がさないようにする意味がわかんないよ。クラオルも臨戦態勢になり、肩の上で威嚇いかくし始めてるし。

「出たいのでどいてもらえませんか?」
「「……」」

 警備の男性二人に問いかけても、二人は顔を見合わせるだけ。前には男性二人、後ろには執事と受付嬢。四面楚歌しめんそかである。穏便に済ませたいと思いつつもイライラが腹の底から湧き上がってくる。

「無視ですか、そうですか。無理矢理通ってあなた方がケガしようが、この店に被害が出ようが私は責任を取りませんがいいですかね?」

 私から漏れ出る魔力で髪が波打ってパチパチと静電気が弾けた。それに伴って周りの温度が下がっていく。

「……何事だ?」

 突如として聞こえた安心する声に魔力が霧散した。この声は……バッと声の主の方に顔を向けると、やっぱりブラン団長だった。救世主現る!
 ブラン団長は私と視線がかち合うなり、こぼれ落ちそうなほど目をまん丸にした。

「……セナ?」
「うぅ! ブラン団長ー!」

 名前を呼びながら走って飛びつく。ブラン団長はフラつくことなく、私をしっかり抱き留めた。

「……セナ? 何があった?」
「あの人達が意地悪するの!」
「……どういうことだ?」

 優しく問われ、私がビシッと指差すと、ブラン団長は眉間にしわを寄せた。
 そこで私はさっきまでのことを説明する。

(今こそ過保護を発揮してくれ!)
「……何故そんなことをしたのか説明してもらおうか?」
「私共はセナ様に商品を見ていただこうと……乱暴はしておりません」
「そう、それ! まずなんで名前知ってるのかわかんないんだよ。気持ち悪い」

 執事と話している途中でブラン団長にギュッとしがみつく。鳥肌立つわ。

「……とりあえず騎士団に連絡させてもらおう」


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