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16章
雪国育ちはお酒に強い
しおりを挟む呆気に取られている王様とフラーマ王子を気にすることなく、アデトア君は私の手を握ったまま足を進める。誘導されたのは部屋のソファ。私を座らせたアデトア君は私の隣に腰を下ろした。
「えっと……王様達も座ったら?」
事の成り行きを呆然と見送っていた二人に声をかけると、気を取り直したように対面のソファに座った。若干変な空気が漂い、なんとも形容しがたい雰囲気だ。
「「「「…………」」」」
(……えぇ……誰か何か話そうよ)
誰も何も言わない状況に私が困惑する。何かキッカケがないと話せないのかもしれない。
「……えっと……何か、食べる?」
私がいきなり突っ込んで核心について聞くのはどうかと、この雰囲気を打破するにはどうしたらいいか……と、グルグルとない頭をしぼらせた結果、出てきたのはそんな言葉だった。
「フッ……セナが作ったやつか?」
「そうなるね」
「食べる」
口許を綻ばせたアデトア君から食い気味に返答がきた。
王様と王子は再び目を見開いていた。
「おやつと主食系どっちがいい?」
「このあと夕食だろ? おやつの方がいいんじゃないか?」
「あぁ……そうだね。じゃあ、冷たいのと温かいのは?」
「冷たいの」
「はーい」
話している間に、お酒でも入れちゃえばこの雰囲気がよくなるんじゃないかと思った私は、清酒入りフルーツポンチを出すことにした。この国のバチバチ丸を使った、スパークリングのやつ。
グレン用の甘いシロップタイプと、ジィジ用の甘くないタイプがあるんだけど、今回は甘いシロップタイプにする。
ここにいる三人がお酒を飲めることは知ってるからね。少しでも緊張が解れたら、スムーズに会話出来そうじゃない? アチャ達も普通に食べてるから、酔っぱらうことはないでしょう。
作っておいたボウルを出すと、匂いでわかったのかクラオルがクスリと笑った。私の意図がわかったらしい。さすがクラオル。
どんぶりサイズのプラスチック容器によそい、三人に配る。
「フルーツポンチだよ。はい、どーぞ」
「ん、いただきます」
「いただきます」
「ん! 美味しいな」
「それはよかった」
私とアデトア君の顔を交互に見ていた王様と王子は、アデトア君が感想を述べたところでようやくスプーンを握った。
一口食べたところでフルーツポンチをしばし凝視し、そのあとは手を止めることなく、パクパクと食べている。
「これはバチバチ丸か?」
「そうそう、この白っぽいやつがちょいと特殊で、これはレシピ登録できないやつなんだよね」
「登録されても、セナが作ったやつとは少し違うんだろ? アーロンが言ってたぞ」
「セナ嬢」
アデトア君と話していると、フラーマ王子に呼ばれた。
「なーに?」
「これに残っているやつは食べてもいいのかな?」
フラーマ王子が指差したボウルには、まだたっぷりとフルーツポンチが残っている。グレン好みのやつだから量が多いんだよね。
「おかわりする?」
「セナ、オレも。陛下は?」
「え、あ、はい」
アデトア君、王子はおかわりするとは言ってないよ。そして王様、その返事はどっちかわからないよ。まぁ、三人とも容器を持った手をこっちに伸ばしているから食べるんだろうけど。
「これももちろん美味しいが、この前食べたドウダモチってやつも美味しかったな」
「ドウダモチ? 何それ?」
「あの緑色のタレ? がかかってるやつだよ。アンコノモチと似てるやつ」
「あぁ! ずんだ餅だよ、ずんだ餅。そしてアンコノモチじゃなくてあんころ餅だよ」
ドウダモチって……お餅の妖怪が「どうだ?」って聞きながらお餅を食べさせてくるのを想像しちゃったじゃん。美味しいって言わないとエンドレスになるし、〝マズい〟なんて言ったらブチ切れられるやつ。あのゲームに妖怪として出てきそうじゃない?
王様とフラーマ王子が喋らないので、アデトア君と他愛もないことを話し続ける。
「セナ嬢」
「ん? なーに?」
「もう一杯、もらってもいいかな?」
フラーマ王子もついに話題に入るか!?
なんて思ったのは一瞬で、まさかのおかわりの要求。気に入ったんかな?
「いいけど、おなか冷えちゃうから、あと一杯ずつね」
よそったフルーツポンチを配り、ボウルは無限収納にしまう。
再びアデトア君との会話を続けていたとき、疑問に思っていたことがポロっと口をついた。
「そういえば、アデトア君って王様のこと陛下って呼んでるよね」
「そうなのだ!」
「「!」」
いきなり声を張った王様にビックリ。隣に座るアデトア君もビクリと反応していた。
「昔からだ……フラーマも昔は父上と呼んでいたが、今では陛下と呼ぶ。何故だ?」
「え、いや、私に聞かれても……普通に考えて、王族なんだから公私混同しちゃマズいんじゃないの?」
私を真っ直ぐ見つめて問いかけてくる王様に困惑する。
「父と呼んでくれてもいいと思わないか?」
「いや、時と場合によるでしょ。私用のときならいいと思うけど、公務のときなんかはアウトかと」
「壁を感じないか?」
いや、知らないよ。本人達がいるんだから、本人達に聞いてよ。
私を見つめてくる王様の顔は普段よりも若干赤みが増しているように見える。まさか……酔った?
「確かにアデトアはいつ暴発するのかと恐ろしかった。忌み子だぞ。妻のこともあって魔術師に魔導具を作らせた。暴発の危険性がなくなれば、アデトアがケガを負うこともなくなる。フラーマは周りが周りだったからあまり構えなかった。フラーマを構いすぎるとアデトアに、逆にアデトアを構えばフラーマの境遇に影響する。なのに――」
何も言っていないのに語り始めた王様に、三人で顔を見合わす。
うん、ごめん。これ、確実に酔ってらっしゃるわ。ジィジやニキーダならいざ知らず、アチャやスタルティもフルーツポンチくらいじゃ酔わないのに……
よく見てみれば、フラーマ王子も少しだけ目がトロンとしていた。
(マジか……)
ポーションでも飲ませるかと、無限収納に手を突っ込んだとき、アデトア君に袖を引かれた。
「ん?」
「様子がおかしいが何かしたのか?」
「えっと……ごめん。これ、お酒入ってるんだ。たぶん酔っ払ってる」
「は? ……何かしたワケじゃないのか? そんなに弱くはないハズだぞ?」
「これ出しただけだよ。緊張が解れるかと思ってだしたんだけど……アチャもスタルティも酔うことなかったから、まさか酔っ払うとは思ってなかった。ポーション飲ませたら酔いは覚めると思う。飲む?」
「フラーマ、今の体調はどうだ? 酔っているか?」
「少々気分がいいくらいですね。倒れたり、記憶が飛んだりすることはなさそうです」
フラーマ王子に確認を取ったアデトア君はニヤリと口角を上げて一つ頷いた。
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