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16章
家族会議……?
しおりを挟む過去、日本の歴史にあったみたいに、仲違いからの権力を巡った暗殺事件! といった具合にはならなそうで一安心……ではあるものの、二人の雰囲気は付き合いたての初々しいカップルのよう。
この状況に文句を言いそうなグレンは予想通りソファに横になっていて、我関せずと言わんばかり。
アデトア君とフラーマ王子は尚もお互いがお互いを褒めあって照れている。
(ナンダコレ……私達もいること忘れてない?)
その惚気は二人きりのときにやっていただきたい。もう一時間以上経ってるのよ。眠いよ、私は。
申し訳ないけど、話を進めさせてもらおうとタイミングを見計らって話に割り込む。
「えーっと、二人がお互いを尊敬しているのはわかったけど、結局王位はどっちが継ぐの?」
「ん? フラーマだな」
「え? 兄上ですよね?」
私の質問に顔を見合わせる二人に苦笑いが溢れる。
わだかまりがなくなったとはいえ、振り出しに戻ったな……
「一度、王様も交えて話をした方がいいかもね」
「「……」」
「ふふっ。仮にさ、どっちかが指名されたら、二人はきっと祝福できると思うんだよね。でもさ、選ばれなかった方は〝自分はやっぱりいらない存在だ〟って考えるでしょ?」
不満そうな視線を向けてくる二人に説明すると、二人は少し目を見開いた。図星だったらしい。
「王様には王様の考えがあると思うけど、今のままだとどっちにも釈明しなそうだなって。だから王様にも腹割ってもらうんだよ」
「……否定されたらどうするんだ」
「それはないと思うよ。テルメの街で『アデトアを助けてくれ』って私に頭下げてたくらいだし。フラーマ王子は……ごめん、わかんない。でも嫌われてはないよ。それは断言できる」
「気遣いをありがとう」
あ……フラーマ王子め、信じてないな。この世界に来てからは割と私の勘は当たるんだぞ。
少し不安そうなアデトア君とは違って、さっきまで自然体だったのにフラーマ王子は微笑を貼り付けていた。
フラーマ王子の笑顔の仮面は己を守る防具ってところだろう。貴族、王族って大変だ……
ごめん、アデトア君。フォローは任せた。私は王様と話す機会がなかったんですよ。王様がフラーマ王子をどう思ってるかは知らないんす。
「アデトア君とフラーマ王子が仲よくなった今だからこそ、聞ける話があると思うんだよね。付き人とか仕事の分担とかのことも話せるじゃん?」
「まぁ、それはそうかもしれないが……」
アデトア君の煮え切らない態度に首を傾げる。
そんなに嫌なの? それとも不安なの?
「最悪、二人がタッグを組めばどうとでもできると思うよ?」
「「タッグ?」」
「相方とか相棒って言えばわかりやすい?」
「あぁ、なるほど……ふむ。そうだな、わかった」
何か考え付いたらしいアデトア君はニヤリと笑みを浮かべた。
その顔がちょっと気がかりではあったものの、ひとまず一段落ってことでいいかな?
二人に聞いたところ、二人共何やら納得したっぽい。理由はよくわからないけど。
時刻はもう夜中の三時を回っている。私は眠い。重要性が高い話とはいえ、神経を張り巡らすほどではない。眠いもんは眠い。
明日の仕事を考えてフラーマ王子にポーションを渡し、私達は戻ることになった。
◇ ◆ ◇
翌日、私が起きたのはお昼すぎだった。
夜更ししていた私を気遣って、寝かせてくれていたみたい。起きたらチートなリンゴポーション飲むからいつも通りで大丈夫って言っておいたのに。優しいよね。
本日、アデトア君はお仕事デーのため、私達とは別行動の予定だ。
アデトア君にもポーション渡しておいたけど、大丈夫だったのかな? と心配だったため、探ってきてもらったら、弟との誤解が解けたのが嬉しかったのか、ここのところのゴタゴタで溜まっていた仕事をいつも以上のスピードで捌いていたらしい。
別室で補佐的な仕事をしている人がビビっていたとプルトンが笑っていた。
二人がちゃんと仕事をしている中、私は動き回るの禁止令が出されたため、スタルティやジル、ガルドさん達と一緒に室内でリバーシやダーツ、ネラース達をモフモフしながら遊んでいた。
ちなみにジィジとニキーダはずっと会議。内容は件の行方不明のお金についてっぽかった。
◇ ◆ ◇
それから三日――朝、慣れたように私達と食卓を囲むアデトア君から声がかけられた。
「セナ、ようやく執務が落ち着いたから明日からはまた出かけられるぞ。悪かったな、オレに合わせてもらって」
「おぉ、お疲れ様。大丈夫だよ。思ってたより早かったね」
「城下でも街の外でもどこでも付き合う。ただ、今日の夕方はオレに付き合ってくれないか?」
「いいよ~。何するの?」
「フラーマとの話し合いだ。陛下も含めての。家族会議ってやつだな」
「は?」
軽く考えていた私は、返ってきた返答に固まった。
「フラーマと予定を合わせて一番近い日が今日だったんだ」
「え、いや、なんで私? 三人で話せばよくない?」
「前もいたんだからよくないか?」
「いやいやいや、よくないよ。前回が異例なんだよ。家族間の問題に第三者がいちゃダメでしょ」
「セナがいた方が冷静に話せる。前回で実感した。フラーマも希望している」
「えぇ……」
何故だ? そんなに懐かれた記憶も、先日も特に何かした覚えはない。私がしたことなんて話に割り込んだこととくらい。え、私が忘れてるだけ?
「頼めないか? セナの結界なら確実だろ?」
「あぁ、そういうことね。わかった、いいよ」
「助かる」
了承した途端に笑顔になったアデトア君に笑みを返す。
結界だけでいいならそう言って欲しかったよ。そしたらすぐにOK出したのに。
すっかり安心した私は、フッと口元を緩めたアデトア君の意味深な笑みを見逃していることに気が付かなかった。
指定の時間まで時間を潰し、仮面を装着したアデトア君の迎えで私は部屋を移動する。
今回の場所は――この離れ。アデトア君の執務室の隣にある、応接室だ。
グレンは前回がつまらなかったからと出席を拒否。
ジルは行く気満々だったところをニキーダに止められて、違う仕事を任されたため不参加。
ジィジとスタルティは他国の王族のため、常識的に考えてアウト。
ガルドさん達は危険ならもちろん護りたいが……危険はなさそうだし、アーロンさん達のように平民に友好的ではない他国の王族なんぞ勘弁して欲しいとのことで辞退。
結局参加するのは私だけ。みんなが来ない代わりに、普段精霊の国にいるメンバーまで加えた契約精霊達が全員集合した。何かあってもすぐ解決できそうな豪華な布陣に過剰戦力感が否めない。
まぁ、ジル以外のみんなは部屋で待っていてくれるみたいだから、何かあったら飛んできてくれることになっている。って言っても結界張るだけだから、一瞬なんだけどね。
応接室のドア前にはすでに兵士が待機していて、警戒の視線を送ってくる。ただ、アデトア君が怖いのか、私が怖いのか……若干怯えも混じっている模様。
「アデトア殿下がお戻りになられました!」
声を張り上げる兵士の横を通り、手を引かれてドアをくぐる。王様もフラーマ王子もソファに座っていたのに、私が入った途端、立ち上がった。
「あれ? 私が最後だったんだね。もう、結界張って大丈夫?」
「頼む」
「はーい! もう大丈夫だよ。じゃ、終わったら……ってアデトア君? 手を放してくれないと戻れないんだけど」
繋がれたままの左手をプルプル振ってアデトア君に抗議する。なのに、彼は繋いだままの手と反対の手で袖をギュッと握ってきた。
「……ここにいてくれ」
「はい? え、結界だけって話だったよね?」
「オレは一言もそんなこと言ってない」
「む! 謀ったね!? 家族会議って言ってたじゃん。家族で会議しなよ」
「(頼むよ、友達だろ!?)」
力強くブルブル振って離させようとしていると、アデトア君が小声で叫んだ。
いくら小声とはいえ、王様とフラーマ王子には聞こえていることだろう。
赤い顔とその目から、かなり勇気を出したことが窺える。
「ふはっ。いいよ、わかったよ。ホントは家族だけの方がいいと思うけど、友達だから特別ね」
「ありがと」
普段なら「助かる」とか「感謝する」とか言うのに、恥ずかしそうにお礼を言うアデトア君が可愛い。
フラーマ王子も王様も目玉がとびでそうなくらい驚いてるけどね。
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