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16章
第二王子の腹のイチモツ【3】
しおりを挟む以前聞いていたこととかなり違う。確かアデトア君は「フラーマは次期王として教育されている」って言っていたハズだ。だから第一王子派よりも第二王子派の方が人数も多いし、軒並み権力者が揃っているって話だった。ただ、宰相が第一王子派のため、大手を振って第二王子を担ぎ上げられないと。まぁ、この辺の話はギルドで聞いたからアデトア君が知らない可能性もあるけれど。
「えっと……なんかとてもマズいタイミングで帰ってきちゃってごめんね。((クラオルさん、肝心な話終わってないじゃん。気まずいんですけど……))」
「いや、それはいいんだが……」
後半はクラオルに念話を飛ばしつつジト目を向ける。
フォローをしてくれているアデトア君もどうすればいいのかわからないみたい。
そういう込み入った話をさせるためにこの場をセッティングしたとはいえ、そこに私がいるつもりはなかったんだよ。クラオルもそれに賛成してたよね?
『((あまりにもどうでもいい話しかしないから、意味のない対談ならもういいでしょって主様を呼んだの。そしたら最後の最後であのおバカがぶっ込みやがったのよ! ホント空気読まないやつだわ!))』
念話でキレるクラオルに苦笑いが溢れる。
王子が計ったタイミングと、クラオルが諦めたタイミングがダブったってことね。ひとまず、この状況をなんとかしなければ。
「大事な話だろうから、ちゃんとお話した方がいいよ。また後で迎えに……アデトア君?」
「ここにいろ。相談事は得意だろ? アーロンもフェムトクトも言ってたぞ」
私の袖を引っ張っていたのはアデトア君。言動とはあべこべに心細そうに瞳を揺らす姿に「子供か」とツッコミたくなった。
「別に得意でもなんでもないんだけど……私がいていいならいいよ」
「いろ」
有無を言わさぬような強引な態度はアデトア君としては珍しい。
居残りが決定したところで、グレンは何も言わずに少し離れたソファにどっかりと腰を下ろした。そのうち寝転がりそうな態度だ。
私はフラーマ王子が運んできたイスに座り、二人の会話を見守ることにした。
影からグレウスを呼んで、クラオルとグレウスをモフモフしながら耳を傾ける。
「……先ほど言った通り、僕は兄上の邪魔をするつもりはありません」
「オレは邪魔だなんだと思ったことはない!」
「はい、ありがとうこざいます。ですが魔力の心配もなくなった今、兄上が継ぐべきだと思うのです」
「…………」
柔らかな笑顔を浮かべるフラーマ王子に若干の違和感を覚える。
シュグタイルハンのパーティーのときのような食えない態度や、初日の庭でのお茶会~お供を連れて~のときとも違う。憑き物が落ちたというか、何か吹っ切ったというか……いや、仮面を貼り付けたという方が近いかもしれない。何かがおかしい。
「ねぇ、話の腰を折って悪いんだけど、なんで田舎で暮らそうと思ったの?」
「ずっと兄上が努力してきたのを知っているし、僕は兄上ほど国に愛着がないんだよ」
対アデトア君とは打って変わって、敬語を止めたフラーマ王子は私に微笑んだ。
うん、やっぱりおかしい。よく目が笑ってないって言うけど、それとは違って一見、目も自然だ。でも笑っているのに笑ってない。目の奥底に温度がないって言えばいい? そんな感じ。
「フラーマ王子はさ、自分を隠すのが上手いよね」
「おや、それはありがとう。褒め言葉として受け取っておくよ」
「この話し合いはさ、私が発案したことなの。アデトア君が王位に魅力を感じなくなったって、私みたいに旅に出るのもいいなって言うから」
「は……?」
フラーマ王子が呆気にとられた今がチャンスだと腕をツンツンして合図を送る。
アデトア君は私の意図がわかったのか、以前私と話したことから話していないことまで語り始めた。
王と王妃の話、歴代忌み子の話、魔力暴走の話、自身を取り巻く環境の話、魔導具の話……側室と正妃のやり取りや貴族の権力の話なんかもあった。
昼ドラのような男女のドロ沼から、アニメの小学生探偵もビックリな殺人事件の数々まで幅が広すぎる。
聞いていた私の顔は盛大に引き攣っていることだろう。
「オレは自分の存在意義がわからなかった。怯えられることもなく、普通に接して欲しかった。王位に就きたかったのは存在してもいいと、生きていていいんだと思いたかったからだ。それしか方法が思い浮かばなかった」
「そう、だったんですね……」
「オレがしぶといばかりにフラーマは苦労していただろう? 年齢に合わない帝王学、他国との交渉、社交に執務……知ってはいたが見て見ぬふりをしていた。オレの周りには人がいない。頼られているのが羨ましかったんだ。僻みだな。今更だが、何もしてやれなくて悪かった」
頭を下げたアデトア君は「今までできなかった分、フラーマの本当の希望を叶えてやりたいと思っている」と締めくくった。
「いえ! いつもさり気なく助けてくれて感謝しています。僕は……兄上に嫌われていると思ってました……」
「……初めて会ったときのことを覚えているか?」
「え……」
「覚えていないかもしれないな。フラーマが二歳のころだ。書庫にいたオレ目がけてフラーマが駆け寄ってきた、と思ったら目の前でコケた。泣くかと思って構えたオレに『にぃたま! あいたかた!』って笑いかけてきたんだよ。乳母やメイドからいい話なんて聞いていないだろうにな。ズルいと思ったことはあるが、オレの大事な弟だ。嫌われていたとしても、オレはフラーマを嫌ったことはない。これまでもこれからもな」
当時を思い出したのか、優しく微笑むアデトア君にフラーマ王子はポロリとひと粒涙を流した。
「兄上は僕の憧れです。僕は……兄上のように望まれた子供ではありません――」
フラーマ王子が語ったのは私達が知らなかったフラーマ王子側の事情。
母親である側室は息子であるフラーマ王子に無関心。教師にはアデトア君と比べられ、母方の親族からは「あなたは国王になりなさい」と耳にタコができるほど聞かされる。怒られることはあっても褒められることはない。近付いてくるのは王に近付きたい者だけ。心から友人と呼べる人物はいない。耳にする声は父と母の不仲や自身を利用しようとする噂話、そして兄の境遇。
「僕が生まれなければ兄上が継ぐことは確定でしたし、正妃があんなに心と体を蝕まれることもなかったでしょう。恨まれても仕方がないと思います。でも兄上は優しかった。僕が執務や勉強で手間取っているときは助言や的確な指南を。他国との会談のときは相手国の特産や名物、相手の趣味嗜好を。僕の体調の心配……直接ではなく手紙でしたが、いつも助けられていました」
「そうか……」
「だからこそ、唯一の懸念事項であった兄上の魔力問題が解決した今、僕の存在は余計な火種になると思ったんです。僕は兄上の邪魔をする気はありません」
うん、間違いなくブラコンブラザーズだね。なんだよ、お互い大好きなんじゃん。今回のカチコミ、アデトア君の部屋の掃除だけでよかった疑惑が出てきたぞ。
話しているフラーマ王子の姿は今までからは想像できないほど幼さを感じる。
嘘を吐いているようには見えないから、本来は年齢よりも精神年齢が低いのかもしれない。もしくは、外面で大人っぽく演技している弊害か……
「あの子達は友達じゃないの?」
「あの子達? ……あぁ、あれらは権力に惹かれた者と僕の監視だよ。宰相は第一王子派だからね」
「マジか……周りに信用できる人がいないってことね。レイン君は?」
「兄上を悪く言うやつを信用できるワケがない。レインは可愛い従兄弟だよ」
やっぱブラコンだなと半目になる私とは裏腹に、アデトア君は顔を赤く染めて照れていた。
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