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16章
第二王子の腹のイチモツ【2】
しおりを挟む「……わかりやすいネーミングですね。それはセナ嬢が?」
「あぁ、まんまだろ? レインに少年なんて付けて呼ぶのはセナくらいだ」
ひぃひぃと笑いが治まらないフラーマに、笑いすぎじゃないか? と思いながらもアデトアは頷いた。
「そういえば、以前連絡の手紙に書いてあったやつ、セナに聞いたぞ」
「おぉ、セナ嬢の好みの男性のことですね」
ワクワクと少し身を乗り出したフラーマを見ながら、アデトアはそのときのことを思い返した――
◆
アデトアはセナが連れてきた人物達と自分の生活エリアである離れの修繕作業を行っていた折……
それはちょうどタイミングよく、グレンやジルベルトどころか、普段肩にいるクラオルやグレウスもセナの近くにいないときだった。
アデトアは今がチャンスだとセナに質問してみたのだ。
「前にガルド達に恋愛感情は持っていないと言ってたが、セナの好みはどんな男なんだ?」
「え、好みのタイプ? 好みのタイプねぇ……ん~、そうだなぁ……ガルドさんみたいに私のワガママになんだかんだ付き合ってくれて、ジュードさんみたいにノリがよくて、モルトさんみたいに優しくて、コルトさんみたいに甘えさせてくれて、ジルみたいにサポートしてくれて、グレンみたいに強くて、パパ達みたいに可愛がってくれて、グレウスとクラオルみたいに心の支えになってくれる……人?」
指折り数えるようにメンバーの名前を上げていくさまに、アデトアは半目になった。
要望が多すぎる。結局ガルド達の名前も出してるし……似たような言葉でも言い回しから、微少に違いがあるんだろう。しかも古代龍であるグレンと同等の強さを持っている人など、世界に存在するのか疑わしい。
当の本人は「エルミス達やキヒター達もいるから他にもあるんだけど……ま、理想は理想だし、本当にそんな人が存在したら完璧すぎてちょっと気持ち悪いよね」なんて、つい今しがたした自分の発言を笑いながら否定しやがった。つまり、適当に誤魔化されたということ。
知らない名前も出てきたが、驚きよりも呆れが勝ったアデトアにツッコむ気力はなかった。
ただ、最後の最後に零すように告げられた「覚悟ができるまで恋愛は無理かな」という言葉にセナの心の内がほんの少しだけ垣間見えた気がした。
それは以前言っていた寿命に関する思いだろうか……そう聞きたがったが、セナがあまりにも寂しそうに笑うから、聞くことは躊躇われたのだ。
◆
「兄上?」
あのときのセナの表情を想起していたアデトアは、フラーマに呼びかけられたことで意識を戻した。
「あぁ、悪い。セナの好みだったな。確か……」
アデトアはセナのセリフを思い出し、彼女がやっていたように指を折りながら一つ一つ挙げていく。
それを聞いていたフラーマはだんだんと顔を引き攣らせていった。
「ドラゴン並に強い人物ですか……わかっていたことですが、レインは眼中にないことと、一緒にいる彼らのことをとても好いていることだけはわかりました」
「うん、わかってもらえて何よりだ。まぁ、ここから先はオレの意見だが、セナは差別を嫌っていて、貴族だろうが平民だろうが基本的には平等に扱う。好むのは素直な反応……簡単に言えば平民のようなやり取りだな。シュグタイルハンのアーロンが最たる例だろう。王族のくせに貴族らしくない。貴族的な遠回しな発言は言葉のまま受け取っていいのか、はたまた裏を考えなきゃいけないのかわからないから面倒くさいと前に言っていた記憶がある」
アデトアは当時セナに「京都人の皮肉とイギリス人の嫌味みたいな高度な言い回しは人間不信になっちゃう」と言われたことも思い出した。
だが、〝キョートジン〟と〝イギリスジン〟がわからなかったため、自分が理解できていないことを言うのもな……と、伝えることをやめた。全てを言わなくてもいいだろう。
「なるほど。貴族が好きではないと聞いていましたが、そういうことだったんですね」
「とりあえず、余計なことをしないようにレインに釘を刺してくれると助かる。キッカケはオレだが、国を救われたんだ。これ以上借りを作りたくない」
「……そうですね、それは同感です」
アデトアとフラーマの頭の中ではニキーダが「オーッホッホッ!」と高笑いをしている姿が思い浮かんでいた。実際にその様子を見たことはない。だが、奇しくも二人が想像したのは同じ様相だった。
共通の頭の痛いタネの話題となったせいか……〝二人きり〟という状況に多少なりとも構えていた二人は肩の力が抜け、その後は穏やかな懇談となっていく。話している内容は政治や経済に情勢、隣国の問題……と到底優しいものではなかったが。
そんな中、耳を傾けていたクラオルだけは「さっさと本題に入りなさいよ!」とアデトアに向けて念を送っていた。
◆ ◇ ◆
抱えられたまま空中散歩を楽しんだり、ミリエフェちゃん達と遊びに行った湖のほとりでおやつという名目の夜食を食べたりしつつ、グレンとの逢瀬をエンジョイ。
その間グレンに話しかけられまくり、コミュニケーションを取っているつもりで取れていなかったんだなと痛感。気を付けなきゃね。
日付けが変わるころ、クラオルから念話が入り、アデトア君を迎えに行くことになった。
少し気が晴れて機嫌のいいグレンと共にバルコニーに降り立つ。窓を開けて中に入ると、クラオルが私の胸に飛び込んできた。
「おっと! ただいま、クラオル」
『おかえりなさいっ』
「んふふ、クラオルさん、くすぐったいよ~。ってどうしたの?』
スリスリと首に体を擦り付けるクラオルを撫でつつ顔をあげると、なんとも言えない表情を浮かべたアデトア君がいた。
「私達、帰ってくるの早かった?」
「いや……ちょっと混乱しているだけだ」
「混乱?? なんでか理由を聞いても?」
「僕が『臣籍降下でもして田舎でのんびり暮らしたいので、国のことは兄上にお願いしますね』と言ったからですかね?」
首を傾げる私に答えたのはアデトア君ではなく、フラーマ王子だった。
え、なんて?
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