転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン

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2巻

2-2

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 ブラン団長は他の人に気を取られることなく、真っ直ぐ受付けに向かっていく。

「この時間はさすがに人が少ないですねー」

 お? パブロさんが敬語になったぞ。外だからかな?

「……もう大体は依頼を受けて出発したんだろう。それを狙って辻馬車に乗らず、歩いてこの時間にしたからちょうどよかったな」
(ほうほう。もうちょっと早い時間だと混むのね。覚えておこう)

 受付けは並んでおらず、すんなりとカウンターのダンディなおじさんの前へ。

(キレイなお姉さんじゃないのか……)

 マンガなんかでよく見る、美しいエルフのお姉さんみたいな人を想像していたから、ちょびっと……ほんのちょびっと残念。

「これは、これは。今日はどうなさったんですか? 依頼ですか?」
(ふぉぉぉ! おじさんめっちゃいい声! テノールボイスっていうの? とにかくイケボ!)
「……いや。冒険者登録と従魔登録をお願いしたい」
「冒険者登録ですか。どちら……」

 言いかけたところで私と目が合った。なので、ニッコリとおじさんに笑いかける。

「なるほど。かしこまりました。ではこちらにご記入をお願いします。文字は書けますか?」
「うん! 大丈夫!」

 受付けのカウンターが高く、降ろしてもらうと書けない。ペンを持った私をブラン団長が書きやすい位置でキープしてくれた。

「細かく書かなくても大丈夫です。書いた方がパーティに誘われやすくなりますが、後で更新もできますので」

 ほう。いいこと聞いた! パーティなんて組む予定はないし、好き勝手に動きたいから一人がいい。


 名前:セナ・エスリル・ルテ―ナ
 年齢:五歳
 種族:人族
 攻撃手段:魔法


 文字を書くのも、読むのも、エアリル達の刷り込み情報でバッチリよ!
 誕生日とか、性別とか、得意不得意とか他にも項目があるけど、こんなんでいいでしょう。誕生日なんて知らないし。目立つのは面倒だしね。

「これでいい?」
「――っ! ……ありがとうございます。はい、大丈夫です。念のため、この水晶に魔力を流してもらえますか?」

 読みやすいようにと紙を上下逆さにしただけなのに、何故か驚かれた。
 この水晶、犯罪歴を調べるやつかな? それともスキルを覗くやつ? エアリル達が設定した〝スキル隠蔽いんぺい〟が機能しているはずだから大丈夫……だよね?
 どれくらい魔力を込めたらいいのかわからなくて適当に水晶に魔力を流したら、ピカーッ! と白く光った。さっきまで賑やかだったのにギルド全体が静かになっちゃった。

『ちょっと! 込めすぎよ! 止めなさい!』

 クラオルにバシバシと叩かれ、慌てて水晶から手を離す。

(あれ? またなんかやっちゃった?)
「「「……」」」
「……すご、いですね。こちらは犯罪歴を調べるものだったのですが、色は問題ありません」

 いち早く我に返った受付けのおじさんが告げる。
 なんだ大丈夫なんじゃん! ビックリさせないでよ~。

「では……こちらのカードとこちらの小さなカードの二つに血を。あ! 一滴で大丈夫ですので!」

 そんなに強く言わなくても血の海みたいにはしないのに。
 渡された二種類のカードをカウンターに置き、針を左手の人差し指に刺して血を垂らす。血が触れた瞬間、ポワァッと淡く光り、垂らしたハズの血は消えてしまった。

「はい。これでひとまず冒険者登録は終了です。続いて従魔登録ですね。従魔は……ご一緒のヴァインタミアでしょうか?」
「うん! クラオルって名前なの」
「ふふっ。可愛らしいですね。ちゃんと従魔用の首輪もしていらっしゃいますね。魔力の登録はしてありますか?」
「うん。ちゃんとやったよ~」
「でしたら大丈夫です。先ほどのカードを首輪に近付けてセナ様の魔力を流してください」

 言われた通りカードに魔力を流すと、またポワァッと一瞬だけ淡く光った。

「はい。これで問題なく登録できました。これからもし従魔が増えた場合、この一連の動作をお願いいたします。ヴァインタミアなど小型のものは大丈夫ですが、大型ですと街に入れないこともあるでしょう。余計な混乱を招くことになりますので影に控えさせてください。もし、登録していないまま街などで従魔が暴れたり、他人にケガを負わせた場合、登録してある従魔が暴れたときよりもひどい罰則になります。従魔契約をしたら早めに登録することをオススメいたします」
「はーい!」
「ではカードの説明をしますね」


 ・大きい方のカードは名刺サイズの金属板。
 ・一般的に冒険者カードと呼ばれ、身分証として使える。
 ・先ほど紙に書いた情報+ランクが記載される。
 ・今は日本の学校にある黒板みたいにくすんだ深緑色だが、Bランクから色が変わる。
 ・SSが黒。Sがゴールド。Aがシルバー。Bがブロンズ。それ以外がくすんだ深緑色。
 ・再発行には金貨一枚が必要。


 ・小さなカードは日本のドッグタグネックレスみたいな大きさの金属板。
 ・こちらは冒険者の生存確認のために使われるもの。
 ・ほとんどの人は首にネックレスとしてかけ、肌身離さず持ち歩く。
 ・普段はシルバーだが持ち主が死亡すると赤く色が変わる。ただ外しただけでは色は変わらない。
 ・ダンジョンや森で冒険者の亡骸なきがらに遭遇した場合や、パーティメンバーが亡くなった場合は赤く変色したネックレスをギルドに持ってくる。
 ・こちらも先ほどの紙に書いた情報+ランクが記載される。
 ・再発行には金貨五枚が必要。


 ふむふむ。なるほど。小さいカードが高いのは失くすなって意図っぽいな。

「ネックレス状でよろしいですか?」
「うん! でもこれ、自分の好みにチェーンを替えてもいいの?」
「はい。身に着けてさえもらえれば大丈夫ですが、失くさないよう丈夫なものでお願いします」
「はーい!」

 いい革紐とかチェーンがあったら、そっちに替えちゃおっと。

「ではお渡しします。セナ様は最下位のHランクからになります」
「ありがとう!」

 受け取ったネックレスはパブロさんが着けてくれた。

「ギルドのシステムの説明もいたしましょうか?」
「うん!」

 エアリル達の刷り込み情報とガルドさん達に聞いた情報があるけど、確認のため。一応聞いておいた方がギルドからの印象もよさそうだしね。
 そうして聞いた説明は、単語が若干違うくらいで、知っている内容とほぼほぼ一緒だった。〝ファンタジーものあるある設定〟まんまでっせ。

「何かご質問などはありますか?」
「今のところは思い付かないから大丈夫。でも聞きたいことができたら聞いてもいい?」
「もちろんです。わたくしがいない場合は他のギルド職員に聞いてください」
「はーい。あ、ギルドのことは大丈夫なんだけど、安くてご飯が美味しい宿を教えてもらってもいい?」
「「「え」」」
「え?」

 みんなの驚いた声を聞いて、私は首を傾げる。

「オススメの宿……オススメの宿となると……セナ様のことを考えて安全面も……あそこはオススメですね。【切り株亭】。ご飯も美味しいですし、設備が充実している割には安価で安全面も大丈夫だと思います」

 ブツブツと呟いていたおじさんが宿の名前を教えてくれた。

「それはどこにあるの?」
「えっと……あ。この街の簡易地図を差し上げます。無料なので安心してください」

 なんと! 優しい!

「ありがと~!」
「いえいえ。前は冒険者のみなさんに渡していたんですが、みなさんいらないとおっしゃるので失念しておりました。申し訳ありません。ギルドがココで……切り株亭は……ココですね。わかりやすいように印を付けておきます」

 指で辿りながら印を付けてくれた。
 この地図、便利。お店のオススメご飯とか、貴族も来るお店とか、いろいろと豆知識が書いてある。

「これすごいね! こんなにたくさんメモが書いてあるなんて。本当に無料なの? 販売しちゃえばいいのに! 見ながら街を歩いたらとっても楽しそうだし、ここに書いてあるオススメメニューも食べてみたい!」

 一人で興奮して、身振り手振りもしつつおじさんにまくし立てる。ブラン団長がしっかりと抱っこしてくれているおかげで落ちずに済んだ。
 私のあまりの興奮具合にみんなが地図を覗いてきた。

「へぇー。僕こういう地図初めて見ました。確かにこれ面白いですよ。僕も何年もこの街に住んでますけど、知らないお店も載ってます」
「……ほう」
「なるほど。確かに素晴らしいですね」

 人目があるからか敬語でパブロさんが褒め、ブラン団長とフレディ副隊長は納得している感じ。

「これ本当にもらっちゃっていいの?」
「ふふふっ。そんなに褒めていただけるとは思っていませんでした。光栄です。ぜひどうぞ。ちゃんと情報は新しいものを載せておりますので」
「これをいらないって言うなんて勿体ないね。情報はとても貴重なのに……お金を出してでも買いたいくらいだよ。作るの大変でしょう?」
「ふふっ。ありがとうございます。最初は大変でしたが、今は趣味のような感覚になっているので大丈夫ですよ。そこまで喜んでもらえると感慨深いものがあります」
「そっかぁ。でも作ってくれてありがとう!! とっても嬉しい!」
「今日ほど作っていてよかったと思えた日はありません。わたくしも嬉しいです」
「あのー。もしよかったら僕にももらえませんか? 冒険者じゃないんですけど……知らないお店も載っていたので」
「私にもよろしいでしょうか?」
「……俺にもくれるか?」

 パブロさんがおずおずとおじさんに聞くと、フレディ副隊長とブラン団長も便乗した。

「はい、もちろん。こちらをどうぞ」

 三人はお礼を言いながら、おじさんから新しい地図を受け取る。

「ふふっ。ありがとうございます。次はどちらに行かれるのですか?」
「……次は教会に行こうと思ってるが、その前に昼食だな」
「なるほど。今の時間ですと大抵のお店は混んでると思いますが、こちらの……このお店ならそんなに待たずに食べられると思います」

 おじさんは新しい地図を出し、お店の場所を説明してくれた。この街のマスターだね!

「……ありがとう。早速行ってみよう」
「はい、ぜひ。またセナ様に会えるのを楽しみにしていますね」
「うん! 今日はいっぱいありがとう! またね~!」

 笑顔でブンブンとおじさんに手を振ってギルドを後にした。


 抱っこされたままおじさんのオススメのお店まで向かう。
 お店の看板には店名が書かれておらず、大きい熊がガオーと口を開けている絵が描いてあった。
 四人でお店に入ると、中は賑わっているものの普通に座れそうだ。すでに美味しそうな匂いが漂っている。
 これは塩味以外を期待できそうだよ!
 すぐに赤茶色の髪の毛が目立つ可愛いお姉さんが寄ってきて、席に案内してくれた。

「いらっしゃい! 今日のオススメはボア肉の炒め物だよ! あとはメニューを見てね!」

 元気よく説明して他のお客さんのところに行ってしまった。
 席に座ってメニューを見せてもらったはいいけど、メニュー名を見てもわからない。
 シチューとか炒め物とか、そういうのはまだわかる。ただ……今まで食べたこの世界のものはジュードさんが作ってくれたスープと、騎士団で食べさせてもらっている塩スープ、後はガルドさん達と一緒にいたときに作らせてもらった豚汁やロールキャベツくらい。リンゴや自分作は別とすればスープとパンしか食べていないため、〝ミド豆と黄ポテ芋のレッドスープ〟なんて書いてあっても、全く色も味も想像がつかない。
 緑なの? 黄なの? 赤なの? どれなの? 全部なの? 
 悩んでお姉さんのオススメのものを頼むことにした。飲み物はお茶か水がよかったけど、ないので果実水。これもお姉さんに任せちゃお。
 他のみんなはすぐ決めたみたいで、パブロさんが代表で頼んでくれた。

「今日のオススメ二つとボア肉のステーキ一つ、山盛りパン三つと……あと、あたしのオススメメニューと果実水だね!」

 確認してくれたお姉さんを見送った後でもらった地図を広げたら、みんなも地図を取り出して各々おのおの見始めた。
 教会はここからそんなに離れていないみたい。
 それにしても、コピー機みたいな機能の魔道具でもあるんだろうか? 手書き感があるのに、他の人が持っている地図をチラ見した感じでは差異がなさそう。文明レベルが中近世だから紙は貴重なのかと思ってたけど普通にくれたし、無限収納インベントリの中にもいっぱい入ってたんだよね。
 あ! おじさんの名前を聞けばよかった! 次ギルドに行ったときにもあのおじさんがいたらいいな。

「お待ちどう! これがあたしのオススメの〝フォン肉のシチュー〟だよ! で、これが一緒に食べると美味しい〝麦パン〟。こっちが〝ピモの果実水〟。あたしのオススメなんて聞かれたことなかったから迷っちゃったよ!」

 あははっと笑いながらお姉さんが説明してくれた。
 お姉さんのオススメのシチューはビーフシチューみたいな香りで、おなかが空いてくる。

「うわぁ! 美味しそう!(量が多いけど)」
「うん、うん。熱いからゆっくり食べてね!」

 お姉さんは他のお客さんに呼ばれてしまい、私の頭をひと撫でして離れていった。
 手を合わせ、元気よくいただきますをしてから、まずピモの果実水を飲んでみる。
 うまっ! ピーチだ! ピモってピーチとモモを合体させた名前か!
 昔飲んだモモ味の天然水って感じの飲み物を思い出す味だった。見た目は前に日本で流行はやったデトックスウォーターみたい。中にフルーツが沈んでいて、少しだけ水がフルーツの色に染まっている。
 では、いざ実食!

(美味しぃぃぃぃぃ!! 匂いのまんまビーフシチューじゃん!)

 お肉は牛肉じゃないけど、よく煮込まれていて、口の中でホロホロと溶けていく。一緒に煮込まれているのは、ジャガイモ、人参、玉ねぎ……マッシュルームまで入ってる! 軟らかく、味も染みていてパクパク食べられちゃう!
 パンは……全粒粉のパン。小麦の香りがよくてこれまた美味しい! これは……これはさ、パンにシチューを付けて食べたいよね!? お行儀悪いかしら? でも欲には勝てない! 怒られたらやめればいい話よ!
 パンを一口サイズにちぎって、シチューに付けて食べてみる。

(相性抜群~! 超まいう! なんて幸せな時間なのぉぉぉ!)

 心の中で歓喜の雄叫びを上げつつ、パンにシチューを付けて食べていく。

「((ねぇねぇ。クラオルも食べない? 美味しいよ!))」

 この感動をわかち合いたくて念話でクラオルに聞いてみた。

『((主様の顔が喜びに満ち溢れてるから、美味しいのはわかるわ。でも主様のご飯じゃない))』
「((ちっちっち。クラオルさんや。そんなの気にしなくていいんだよ。美味しいものは分け合って、美味しいねって言いながら食べるのがいいんじゃん。足りなかったらお店なら追加で頼めばいいし、外ならまた作ればいいんだよ! あ、でも嫌いだったら無理しなくていいよ。私もピーマン嫌いで食べたくないからね!))」
『((ふふっ。主様らしいわ。じゃあもらおうかしら))』

 そう言って肩からひざの上に移動してきてくれたクラオルにパンをちぎって渡す。

「((これ小麦の香りがいいんだよ!))」
『((あら。本当ね))』

 次にビーフシチューに付けたパンを渡す。

「((これぞメインディッシュだよ!))」
『((あら! 本当に美味しいわ!))』
「((でしょー!? もっと食べる!?))」
『((えぇ。もう少しいただこうかしら))』

 シチューに付けたパンを再度クラオルに渡してあげる。二人で美味しい美味しいと念話で会話しながらパクパク食べていく。


 ふと気付くと、ブラン団長達三人に注目されていた。
 え? 何? なんかした? と、首を傾げた後で気が付いた。あ! もしかしてお行儀悪いって怒られる!?

「変わった食べ方ですね。その食べ方は美味しいのでしょうか?」

 フレディ副隊長にそう聞かれた。あれ? 怒られない感じ?

「パンに付けて食べない?」
「えぇ。初めて拝見しました」
「お行儀悪いかもしれないけど、パンに味が染みて美味しいよ?」

 私が言うと、三人とも自分のお皿のソースみたいなのにパンを付ける。

「んん! 美味しい!」

 パブロさんが食べた瞬間、頭からうさぎの耳がピョッコーンと飛び出した。

「……パブロ。耳出てる」

 ブラン団長が冷静につっこむと恥ずかしそうに耳をしまった。
 ビックリして出ちゃったのかな? 可愛いね!
 これならソースがある限り美味しく食べられる! とすごい勢いでパンを食べ進めるパブロさん。残りの二人もソースに付けてパンを黙々と口にした。
 気に入ったみたい? よかった、よかった。
 その後もクラオルとシチューを食べ進めたけど、さすがに量が多くて残ってしまいそうだ。勿体ないとシチューを見つめていたら、三人が食べてくれることになった。
 すでに山盛りのパンと、二人前はあろうかというおかずをたいらげているのに、三人は我先にと食べ進め、あっという間にシチューをからにした。食欲……すごいね。

「いい笑顔で食べてくれてたね。しかも美味しいから残したくないなんて初めて言われたよ! 周りのお客さんまでみんなパンにシチュー付けて食べ始めちゃうし……気に入ってくれたなら、またぜひ食べに来ておくれ!」

 帰り際に、お姉さんにカラッと笑いながら話しかけられた。
 言われて他のお客さんを見てみると、確かにみんなパンにシチューやソースを付けて食べている。
 わお! みんな美味しいものに目がないんだね!

「うん! すっごい美味しかった! 絶対また食べに来るね!」
「おっ、ありがとうね! 待ってるよ!」

 お姉さんに手を振られてお店を出る。自分の分の代金を払おうとしたら、すでにブラン団長が全員分払ってくれていた。
 優しい! イケメンは行動もイケメンですね!
 お店を出たら教会に向かって歩いていく。私はまたブラン団長に抱えられましたよ。

「美味しかったねー。僕気に入ったよ。また行きたい! 次はシチューにする!」

 パブロさんはパンをシチューに付けて食べるのが大層気に入ったらしい。



   第二話 教会にて再会


 到着したのは白く大きな建物で、キラキラと光を通すキレイなステンドグラスの窓が目立つ教会だった。
 中はステンドグラスのおかげで全体的に明るく、外と同じように白を基調としたシンプルながらも威厳のある雰囲気。入口正面にはどどんと立派な像が五体並んでいた。花畑で会ったエアリルとアクエスにそっくりな像もあることからして、この世界の五神の像だと思われる。
 エアリルとアクエス以外の神様を見たのは初めてだ。
 私から見て、真ん中に優しそうなザ・女神。女神の左隣にエアリル。エアリルの隣にアクエス。女神の右隣に勝ち気そうな女性。女性の隣に優しそうな男性。像の雰囲気からして勝ち気そうな女性が火の神イグニス様で、優しそうな男性が土の神ガイア様だろう。そうなるとやたら大きい真ん中は主神のパナーテル様か。
 来たからには一応お祈りをして行こうと、ブラン団長に降ろしてもらう。エアリルとアクエスの像に近付き、日本の神社の二礼二拍手をして目を閉じた。

「待ってましたよ!」

 いきなりエアリルの声がして驚きに目を開ける。
 目の前はなんとまた花畑! え? さっき教会じゃなかった!?

「俺達が呼んだんだ」

 キョロキョロしていた私が振り返ると、そこにいたのはエアリルとアクエスだった。

「呼んだ? なんで?」
「その……ごめんなさい!」
「んん? そんなキッチリ頭を下げられても……意味がわからないんだけど?」
「その……僕達のミスで呪淵じゅえんの森に落としてしまったので……」

 エアリルが申し訳なさそうに眉を下げる。

「あぁ! なるほど。そのことか! なんで謝られてるんだろうと思っちゃったよ」
「「ごめんなさい」」
「過ぎちゃったことはしょうがないさ。手紙をもらって理由もわかったし。まぁ、まさかミスされるとは思ってなかったけど。リンゴくれたから死んでないし、クラオルにも会えた……ってあれ? クラオルは!? クラオルはドコ!?」
「あの眷属けんぞくのヴァインタミアは今ガイアのもとに行っています! 無事です! ご心配無用です!」

 私が詰め寄ると、エアリルが焦りながら説明してくれた。

「ビックリしたじゃん。よかったぁ。クラオルになんかあったらブチ切れるところだったよ」
「えっと……とりあえず場所を移動しましょう」

 サッと話題を変えたエアリルがパチンと指を鳴らし、周囲の光景がどこかの家の広いリビングに変わる。海外的に言えば、ラウンジみたいな、ソファやテーブルがあるゆっくりできる空間だ。

「どうぞ座ってください」

 エアリルに促されて一番近いソファに座る。エアリルとアクエスは正面のソファだ。
 今度はアクエスがパチンと指を鳴らすと真ん中のテーブルにマグカップが現れた。マグカップには私にとって馴染み深い緑色の液体が注がれている。
 おおおぉぉ! この匂いは!?
 期待に胸を躍らせながら早速口を付ける。

(おおおぉぉぉぉぉ! 大好きなペットボトルの銘柄と同じだ! これこれ! 超飲みたかった!)

 急須で淹れたお茶よりペットボトルのお茶が大好きな私は、嬉しくて一気に飲み干してしまう。飲み終わってからふぅと息を吐き、もうちょっと味わって飲めばよかったと後悔に襲われた。
 アクエスが笑いながらまたパチンと指を鳴らす。すると、なんとマグカップにお茶が復活した!

「ありがとう! このお茶大好きなんだよね!」
「見ていればわかる。おかわりできるから好きなだけ飲め」

 ここにいる間はアクエスが出してくれるのか。ありがたく、しかし遠慮なく飲ませてもらおう。

「ありがとう! で、どうして呼び出したの?」
「謝りたかったのと……いろいろと聞きたいことがありそうだったのでお呼びしました」
「納得。じゃあ聞いてもいい?」
「はい」
「まず、気になったのが日本の両親なんだよね。元の私が消滅したってことは、死体もないでしょ? どうなったの?」
「ご両親は記憶をいじり、セナさんは交通事故で亡くなったことにさせてもらいました。悲しんでおられましたが、今は悲しみを乗り越え生活しておられると日本の神が言っていました」
「悲しんでくれたんだ……乗り越えた……もしかして時間の流れが違う?」
「はい。こちらより地球の方が早いですね。一日二十四時間、一ヶ月は三十日……まぁ一週間が五日なので一ヶ月が六週という点では違いますが、こちらの世界で生活しても変わりがないように感じられると思います。しかしあちらでは、セナさんがこちらに来てから三年ほど経っています」
「こっちに来てから約三週間経ってるはずだから……つまりこっちでの七日間が向こうでの約一年ってことね?」
「そうです。さすがセナさんですね」
「いや、普通でしょ。……私はグータラで全然両親に恩返しなんてしてなかった。むしろ実家に寄生してスネかじりまくり、親の優しさに甘えまくってたのね。そして親より早く死んだ。お父さんにもお母さんにもこれから幸せになってもらいたいの。日本の神様に見守ってもらえるように頼めないかな? ささやかな幸せがいっぱいで笑顔でいられるように」
「もちろんです。セナさんが気にされるとわかっていたので、すでに日本の神から守ると答えてもらっています」
「そっか。見守るじゃなくて守るって言ってくれたんだ。よかったぁ……」

 安心感から涙を流す私の頬を、隣に移動してきたアクエスが拭ってくれた。

「やはり呼んで説明して正解だったな。手紙では実感しにくいだろう」

 そうかもしれない。手紙よりも目の前で説明してもらった方がより真実味がある。

「……うん。ありがと、大丈夫。あともう一つ。これも超重要! ガルドさん達は無事って手紙に書いてあったけど、本当?」
「はい。セナさんが心配している後遺症などは全くありません。ちゃんと彼らにはセナさんが無事だと知らせてあります。あの依頼も完遂され、今も冒険者として活躍されていますよ。ただ、今は離れた距離にいるのですぐには会えないでしょう。そのことも伝えてあります」
「そっかぁ……ならよかったぁ……みんなが無事でいてくれるならいい……」

 ガルドさん達が大丈夫だと言われ、安心感から一度止まった涙が再びこぼれてしまう。しばらく泣き続けている間、アクエスとエアリルが慰めてくれた。


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