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15章

物品即売会

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 ご飯はジュードさんとエフディアさんが担当してくれ、私は基本的にフリーだ。
 ガルドさん達と精霊達は帰ってきたものの、挨拶だけして慌ただしく何かやっていた。
 クラオルによると〝準備〟らしい。普段精霊の国にいるアレス達まで集合したんだよ。なんの準備だろうね?

 ネライおばあちゃんやカリダの街の第二騎士団のみんなにも会いに行ったけど、ほとんどはクラオル達と一緒に音楽室に入り浸っている。
 なんでかって、触るとその楽器が演奏できたから。楽譜もロクに読めなかったハズなのに、楽器に触るだけで弾き方がわかるんだよ。音楽再生しながら弾けば、完全なる耳コピが可能。自分、天才なんじゃないかと勘違いしそうになったわ。スキルさまさまでっせ!

 あとは……ネラース達を呼んで、もふもふをモフモフ。ひたすらモフモフ。
 唯一頑張ったのは、グレンに頼まれてドラゴン便を頑張っているあのドラゴン達のためにパンを大量生産したくらい。

 そうそう、南パラサーのギルマスにアレを頼むためにオーク肉を一体分ドラゴン便で送ったんだけど、お礼の手紙と共にすごい量の赤カワクサが届いたんだよ。頼んだとはいえ、驚いたなんてもんじゃなかった。そんなに肉が嬉しかったんだね……

 ヌイカミさんに頼んでいたガルドさん達用の大型テントも届いた。
 あの行燈あんどんと根付けストラップの製作で工房は大忙し。タルゴーさんが他の工房にも目を付け、村全体に仕事が舞い込む事態となったんだって。タルゴーさんから聞いていたよりも大掛かりだったことが判明した。



 ニキーダやジィジ達も揃い、ガルドさん達の準備も整ったとお知らせを受けたのは二週間ほど経ったころだった。
 やっと何していたのかがわかるのかとウキウキな私が案内されたのは首里城にある会議室。
 部屋のドアを開けた瞬間、私はフリーズした。
 まず目に飛び込んできたのは長テーブルとその後ろに山のように積まれた木箱。各テーブル、それぞれが担当者となっているみたいで、テーブルの上には木箱から出したと思わしき一品が置かれている。

(え……ここはコ◯ケ会場かな……?)

 ポスターやアクスタなどの華やかさはなく、ダンボールが木箱に変わった地味~な同人誌即売会っぽい。誰かが鑑定したのか、パパ達が言っていた言葉か……説明書きっぽいのが置かれているところが余計に。
 呆気に取られていた私のほっぺをプシプシしたクラオルによると、私が渡したお金でいろんなモノを買ってきたそう。それぞれが渡すと時間がかかりそうだから、この発表会になったんだって。

「みんなのご飯代と暇つぶし用に渡したつもりだったんだけど……」
『主様のために買ってきたのよ? 受け取ってくれないの?』
「ありがたい反面、なんか私のせいで申し訳ないね……」
「そんなこと気にしなくていいの。さぁ、まずはこっちよ」
「え!? ずるいー! 順番って話してたじゃんー! もー!」

 私の手を引くニキーダにジュードさんからブーイングが入る。それを気にしてないニキーダにジュードさんが口を尖らせていた。

「はい、これ脱いで~」
「へ!? 脱ぐの!? って自分で脱げるよ?」
「いいから、いいから。任せなさい」
「こちらに足を通してくださいね」

 パーテーションで区切られたところに連れられたと思ったら、中で待っていたアチャと共に問答無用で服を引っペがされ、何かホワホワしたモノを着させられていく。

「ここを閉めて……ふんっ。最後にフードも被りましょうね~」
「わわっーーってこれ……きぐるみ?」
「あぁ、もう! 最っ高に可愛いわぁ!」
「わぁ! とってもお似合いです!」

 ムギュムギュと抱きしめてくるニキーダからの返事は答えになっていない。さらにいつになくアチャまでテンションが上がっている。

「セナちゃん、右手上げてーーそのままバンザーイ」
「「可愛い!」」
「セナ様、後ろを向いてから振り返ってください」
「「はぁ……可愛い……」」

 ポーズを取る度に満面の笑みで褒めてくる二人の要望に応えながら、確認してみる。
 毛並みは毛先が長めでフワフワ。気持ちいい。色は……かなり白味の強いベージュ。白茶色って言えばいいのかな? お尻のところにはしっぽらしきモノがあるから、魔物か獣族かのどちらかがモデルだと思われる。鏡がないからがわからないんだよね。
 おそらく……いや、ほぼ確定的にきぐるみ。ただ、テーマパークなんかにいるガチなきぐるみじゃなくて、ド◯キで売ってるようなきぐるみパジャマみたいな感じ。
 靴は一体型仕様だけど、手は手首のところにスリットが入っていて、出せるようになっていた。

「オレっち達も見たいのにー! セナっち出ておいでー!」
「……チッ。しょうがないわねぇ」
「おい、ニキーダ。聞こえてるぞ。舌打ちすんな。セナが真似したらどうする」
「あ~ら、ごめんなさい? つい出ちゃったわ」
「ではセナ様、慣れていないと思いますので、転ばないようにお手をどうぞ」

 ガルドさんに注意されたニキーダは悪びれる様子はなく、それどころか「可愛さに悶えるがいいわ!」とパーテーションを開け放った。
 私を見た面々は一瞬だけ目を見開き、すぐに「可愛い!」と叫んだ。

「ふむ、予想以上に似合ってるな」
「ありがとう? ねぇ、ジィジ、これきぐるみだよね?」
「ふむ。そういう名称らしいな」
「なんのきぐるみ?」
「ん? 着るときに見ていないのか?」
「うん」
「あぁ、んならちょうどいい。これで見てみろ」

 ジィジと話してたら、横からガルドさんが何かを渡してきた。
 それはこの世界に来てから久しく見ていなかったモノ。

「おぉ! 鏡だ……ってこれクラオル?」
「あぁん、もう、可愛いんだから。そうよ、今着てるのはクラオル。グレウスとグレンのも作ってあるわ。このジッパーってやつ便利よねぇ」
「ジッパーって……おぉ! ホントだ!」

 手をスリットから出して背中に回してみれば、懐かしい感触が。
 これがあればボタンと紐で面倒だったのが楽になる!

「むむっ! オレっちのも見て!」
「んん? シラコメ……じゃなくてマルコメ? んああああ! もち米じゃん!!」
「モチゴメ? 丸いからマルコメだよー?」
「あぁ、なるほど。丸米ってことね」
「セナっち、セナっち、これもシラコメみたいに食べられるー!?」
「もちろん! これでお餅が食べられるよ! ジュードさん、ありがとー!」
「ジュードさんのもいいですが、自分達のも見ていただきたいですね」

 私が反応すると、違う人物からお呼びがかかる。
 モルトさんは【ミンティ】っていう葉っぱと、【ドマタス花】っていう花を十本。葉っぱは名前から想像できるようにミントの葉っぱで、花の方は種からマスタードが作れるらしい。

 コルトさんのは【セキズスライム】って名前のスライムの核と、ドロップ品の粉。
 これはなんと! あんこだった。和菓子なんかに使われてる、あのあんこね。しかも。つぶあんもありそうだよね。

 ジィジからは【ロク麦】と【フタ麦】っていう名前の麦。これで麦茶が飲めるよ!
 ちなみに、この麦はナノスモ国産。押し麦にして家畜のエサに使われているんだって。白米や黒米も家畜のエサだし……家畜、わりと日本食よりじゃない?

 ジルはこれまた嬉しい【ソバク】と呼ばれる植物、の実。
 この情報源はアルヴィンだったそうで、ゲットするために前に契約したファーダやそのお仲間とお出かけしたみたい。

 精霊達からは業務用サイズのお肉スライサー。ついに手に入れちゃったね……これがあればガルドさんやコルトさんにも手伝ってもらえるぜ! 時短、時短♪

 アチャは繊細な刺繍がされたハンカチ。模様自体はジィジの紋章で、アチャの手縫いだ。ジィジの国の風習らしく、本当なら親から子へ渡されるんだって。
 ジィジっていうか王家の紋章を私が持ってていいのかねぇ? ジィジに聞いたら「旅をするなら持っておけ」だってさ。

 グレンは今着ているきぐるみを作るのにあたって、魔獣狩りで大活躍したそう。さらに、いつもと同じく大量のお肉を渡された。

 ニキーダはこのきぐるみなのかと思ってたんだけど、化粧水、顔面パック、髪の毛用のオイル、ハンドクリームと女性に嬉しいケア用品が用意されていた。
 パパ達とも協力したらしく、「セナちゃんが好きな香りだから安心してね」だそうです。

 ガルドさんは大小さまざまな大きさの鏡。そういえばお城の部屋にも鏡なかったね。
 聞けば歪みのないキレイな鏡は高級品の部類にはいるんだって。昔の青銅とか銅鏡みたいな扱いなのかな?

 大トリはスタルティだ。
 興奮しまくりの私を見て、スタルティは困ったように眉を下げた。

「みんなセナが望むモノだったんだな……僕のはそこまで大したモノじゃないんだ。僕が遅くてみんなに合わせてもらったが……最初にしてもらえばよかったかもしれない。……これだよ」
「……わぁ~! 似顔絵だぁ!」

 スタルティが布を引っ張ると、下にあったのは可愛い額縁に彩られただった。
 いつもくっついているクラオル、グレウス、ポラルに囲まれ、満面の笑みを浮かべる

「すごい、すごい! 写真がないから諦めてた……超嬉しい!! ありがとう!」
「そっ、そうか。気に入ってくれたみたいで僕も嬉しい。他にもあるんだ」

 そう言って後ろの木箱から取り出したのはガルドさんやジュードさん、寛いでいるジィジにアチャ、龍化しているグレン、微笑んでいるパパ達などさまざま。
 どれもこれもめちゃくちゃ上手い。これは飾らなきゃ! でも一つ気になることが……

「……ねぇ、スタルティ。スタルティは? スタルティがいないよ……?」
「僕?」
「うん、スタルティも一緒がいい……」
「一緒か……セナのことしか考えてなかったから自分のことなど思いつきもしなかった」
「……ふむ。そうだな。自分を描くのは大変だろう。近々絵描きに頼むとしよう」
「本当?」
「欲しいんだろう?」
「うん! みんな一緒がいい! 目立つところに飾る!」

 ジィジが頭を撫でてくれたから、もうこれは決定だろう。
 どうせなら人物集合バージョンと従魔大集合バージョンも欲しい。
 ジィジにおねだりすれば快諾してもらえた。
 喜びが爆発した私はーー

「一番はスタルティでしたね」
「だな。あんなにはしゃいでんの久しぶりじゃねぇか? しかも格好あのまんまだし」
「ちぇー。マルコメ、自信あったんだけどなー」
「喜んではいたじゃないですか」
「そうだけどさー。あの絵に敵うワケないじゃんかー。ま、スタルティも嬉しそうだからいいんだけどさー」
「んだな」

 ーーとガルドさん達が笑っていたことに気付いていなかった。


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