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番外編まとめ

【番外編】お年玉企画:とある虎の独白と一日

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 今日からお仕事始めの方が多いかと思います。年末年始はゆっくりできましたか? 寒いので暖かくしてご自愛くださいませませ。

 今回はおNEWのネタが思い浮かばなかったのですが……年明けてからちょっと思い付いたので書いてみました。
 需要はないかもしれない&年始関係ない&主人公本人は出てこない感じの小話です。
 寅年だから虎っていう安直なネタです。ただのあの虎サイドと言った方がいいかもしれない……
 一応書ききったもののウピウピルンルンな楽しい話ではありません。
 そのまま続きの本編が読みたいよ! って方は、スルーして15日をお待ちくだせぇ(土下座)
 読んでくださった方、期待ハズレだったらごめんなさい。


--------キリトリ線--------


 ぼくはグランドタイガー。名前はまだない。ないから、あの子に付けてもらえたら嬉しいな……なんて思っている。
 魔物じゃなくて魔獣だよ。土魔法が使えるんだ。ちょっとしか使えないから、いつもスモールエイプにバカにされちゃうんだけど……
 でもねでもね、ぼくを見ると大抵の人族は逃げるんだよ。吼えたら効果はてきめん。レベルが低い魔物なら、咆哮だけで動きを止めることもできる。それもあって、結構狩りは得意だったりする。カッコイイでしょ?

 だからあの日までは人族に捕まるなんて思ってもみなかったんだ……


 あの日ぼくは森の中で漂ってきた肉の匂いを追いかけてた。それで箱の中にあった肉を食べた瞬間、閉じ込められちゃったんだ。
 出ようと思って体当たりしても、爪で切り裂こうとしてもビクともしない箱ーー檻ってやつだった。
 今でも忘れない。捕まったぼくを見た呪術師が「こんな簡単な罠にハマるなんてずいぶんとマヌケな魔物だな」って言ったんだ。
 ぼくは魔物じゃなくて魔獣だよ!

 呪いをかけられ、隷属の首輪を着けられたぼくは、三年? 五年? よく覚えてないけど、サーカスってところで何度も同じことをさせられていた。
 ぼくと同じように捕まった仲間は多かった。ぼくがいた檻もそうだけど、とっても窮屈なんだ。入りたくないのに、言うこと聞かないと首輪が締まるんだよ。えらそうに命令してくるサーカス団員の首を、何度掻っ切ってやろうと思ったことか。……苦しめられるのがイヤだからできなかったけど。

 嫌でも慣れてくるもので、なんとなく言うことを聞いていれば苦しくならないことがわかった。
 そうそう、命令を一回でやっちゃダメなんだよ。ポイントは命令違反にならないていどにちょっとだけ失敗させること。そうすれば面倒な命令がこないから。ぼく、頭いいでしょ?


 肉は少ないあげくにおいしくないし、檻は狭いし、テントは臭いし、サーカス団員はえらそうだし、本当につまらない毎日だった。
 でもあの日、ぼくたちに転機が訪れたんだ。

 命令通りに向かった先には優しそうな子供がいた。
 周りにいた人族も強そうだし、肩に強そうな魔獣を乗せてたけど、ぼくにはわかった。
 ぼくの予想通り、撫でる手も優しくて温かい子だった。とっても気持ちいい!
 しかもその場で、一瞬にして呪いも首輪も解いてくれたんだ! すごいよね! あまりにも嬉しかったから顔を舐めたら、肩に乗せていた魔獣に怒られた。でも一番怖い魔力の人は何も言わなかった。この人も優しいのかな?

 連れ戻されたぼくは殴られたり蹴られたりしたけど、あの子が「また会いにくるから、いい子で待っててね」って言ってたからバレないように大人しくしていた。ぼく頑張ったよ。
 サーカス団のやつらは、あの子をサーカス団に引き込みたいらしい。一番はあの子に隷属の首輪を着けて、ぼくたちの世話をさせること。それがムリなら、あの子の親族か師匠を。あの幼さで従魔が二匹もいるなんて通常ならば考えられなくて、従魔の契約について教えた人がいるハズって言ってた。だから宿まで付いていって、出身地や正式な名前を調べるんだってさ。
 一時間もしないうちに逃げられたって話になってたけどね。
 ざまぁみろ。あの子が無事でよかった。それにあの赤い人がいる限りムリだと思う。あの人魔力がすごく怖かったもん。人型だったけど、絶対人族じゃない。怒ったら間違いなくヤバいよ。あ、想像しちゃった……ちびりそう……
 
 仲間には「助けにくるハズなんかない。人族を信じてどうする? 今のように利用されるか、狩られるだけだ。だいたい、どうやって助けるって言うんだよ」って言われた。
 あの子はそんな子じゃないと思うんだけどな……やっぱりここからは出られないのかな? もう嫌になって会いにきてくれないかな?

 そんな心配をしてたぼくは夜中、テントに入ってきたあの子を見て驚いた。
 あまりにビックリして声を上げたら注意されちゃった。ごめんなさい。

 眠らされて、どうやって移動したのかわからないけど、起こされたときにはすでに森の中だった。
 そこで紹介されたのは目の前に建つ古い家の持ち主、グーさん。
 優しそうだし、この子と仲よしならこの人もいい人だよ、きっと。
 最後に【クリーン】と【ヒール】をかけてくれ、あの子は去ってしまった。
 また会えたらいいな! 会えるよね?



 あれからぼくはグーさんの森で暮らしている。
 そうそう、あの子はセナって名前なんだって。赤い怖い人は古代龍エンシェントドラゴンらしい。これはグーさんが教えてくれた。まさかそこまで強いだとは思ってなかったよ。じゃれついたときに怒られなくてよかった。


 ぼくの一日はグーさんの家からちょっと離れた場所にある泉で目覚めの水浴びから始まる。
 夜明け前に水浴びして、小さい獲物を狩るか、グーさんが食べられるものを探しにいくんだ。仲間と協力することも多いよ。

 今日はあの呪術師が仲間に仕掛けた罠をマネて張っていた罠にかかっていたエギューラビ、二匹。
 前にいっぱい狩ったら「森に魔物がいなくなったら困る」って言ってたから、仲間と相談して、ちょっとずつ狩ることにしたんだ。
 グーさんが起きる時間に合わせて、みんなグーさんの家に集まるのが習慣になっている。

「おはようございます! わぁー! 今日もありがとうございます!」

 そう喜んでくれるグーさんの前に一列に並ぶ。こうするとね、撫でてくれるんだよ!
 セナさまほどじゃないけど、グーさんの手も気持ちいい。
 撫でてもらったあとはグーさんと一緒に朝ご飯を食べる。そして予定に合わせてお手伝いするんだ。
 あのサーカスにいたときはみんな嫌々だったけど、今では積極的にやっている。最初はぼくだけだったのに……
 理由はね、日ごろやってると遊びにきたときにグーさんがセナさまに話して、セナさまが褒めてくれるから。みんなセナさまに撫でられるのが好きになったみたい。あのスモールエイプも。


 今日はタルゴー商会から行商人がくるから、ぼくたちは森の入り口まで移動する。
 グーさんの家は大事なモノを守ってるから、行商人は護衛を連れてこられない。場所がバレないようにしているんだって。
 だから、いつもの行商人がきたら、見つからないように護衛してあげるんだ。「見つかるとセナさまのことを説明しないといけない。そうなると、どこから連れてきたのかって話になる」ってグーさんが言ってたからね! エライでしょ?

「お待たせしました。本日はセナ様からお手紙がありますよ。お先に渡しておきますね」
「わぁ! 嬉しいです!」
「頼まれていたシラコメと耐火レンガ、セナ様から要望があった赤グレフルに白グレフル、モウミルクと……」

 行商人が荷台から荷物を下ろしている間に、グーさんはもうセナさまからの手紙を読んでいた。
 いいな、いいな! なんて書いてあるんだろ? あとで教えてくれるかな?

「……これで今回のは全部です。次回必要なものは……グールさん! グールさーん!」
「はっ、はい!」
「セナ様からの手紙に夢中になるのはいいですが、先にこちらに受け取りのサインをお願いします。……はい、ありがとうございます。次回必要なものはありますか?」
「あ、えっと……そうだ! オワダウンと布が欲しいんですけど、可能ですか?」
「構いませんが、何か作られるんですか?」
「いえいえ、布団を直したくて。この前破れちゃったんです」
「……なるほど。をお持ちしますね」
「へ? 直せば使えますよ?」
「どうせグールさんのことですから、何十年も使ってらっしゃいますよね?」
「えっと百年は……」
「……やっぱり。むしろよくそこまで持ちましたね……思い入れがないのでしたら新調しましょう」
「えぇ……ただでさえアーロン陛下のご厚意なのに迷惑じゃ……壁も直してもらいましたし……」
「……では、確認を取ってからにしますね。布団に思い入れはないんですよね?」
「はい、特には。でも本当に直せば使えますよ? 羽毛がムリでしたら布だけでもお願いしたいです」
「……わかりました。確認して持ってきますので。他に……あ、これ運ぶの大変でしょうから、中に運ぶの手伝いますね」
「いいんですか? ありがとうございます」

 グーさんと行商人は荷物を持って中に入ってしまった。
 会話が聞こえるかな? って耳を澄ませたけど、聞こえなかった。残念。

 しばらくして出てきた行商人は「では近いうちに一度お持ちしますね」と言って馬車に乗った。
 その馬車に合わせてぼくたちも護衛のために移動する。
 行商人はグーさん家から離れた途端、独り言を言い始めた。

「はぁ……物持ちがいいのは素晴らしいことだが、敷布も棚も何もかも劣化が激しいじゃないか……アーロン陛下だって絶対納得するに決まってるだろうに。唯一劣化していないのは全てセナ様が修理したところと、初っ端にセナ様に言われた道具類だけ。全部自分でやってたクセが抜けてないのかなぁ? 主にセナ様からの要望が多かった理由がわかったぜ。謙虚っていうか遠慮しすぎだろ……これは支店長に言って回数増やさなきゃダメだな……」

 ふーん、なるほど。なら、しばらく森の入り口を見張ってないとだ。あとで仲間と相談しなくちゃ。
 行商人は馬車を走らせながら、何かを紙に書き付けていた。
 配達するもののリストかな?

 グーさんはぼくたちが戻ってくるのを家のドア前で待っていてくれた。

「護衛、ありがとうございました。みなさんもセナ様からの手紙気になりますよね? みなさんのことも書いてありましたよ。『お願いした子達は元気にしてますか?』って」
『ガウガウ!』
「ふふっ。元気に手伝ってくれていますって書いておきました』
『ガウ!』
「ニェドーラ国で辛味酒というお酒を飲んだそうです。喉が焼けそうになるほど強いお酒らしいですよ。どんな感じなんですかね? 前に聞いたんですが、ミンミンエビというものも気になりますよね。どんな味なんですかね? 食べたことありますか?』
『ガウゥ……』

 グーさんはぼくたちの言葉がわからないハズなのに、よく話かけてくれる。

「そうそう、今度時間が出来たら遊びに来てくれるらしいですよ。みなさんはガルドさん達に会ったことないですよね? 彼らもとても優しい人達なんですよ」

 わぁ! いいこと聞いた! 楽しみ!

「さて、今日は新しい脚立を作りたいんです。木を切らなきゃいけないので、手伝ってもらってもいいですか?」
『ガウ!』
「あ、その前にお昼ご飯にしましょうか? さっきパンが届いたので、以前セナ様が教えてくれた麦パンサンドにしますね」
『ガウ~!』

 やったー! パンだ、パン!
 行商人がきた日だけはぼくたちもパンをわけてもらう。毎日食べてたらグーさんの分がなくなっちゃうからね。
 グーさんはぼくたちが訪問日以外パンを食べないから、いつもお肉を焼いてくれたり、スープをわけてくれたりするんだ。それがまた美味しい。サーカスで出てきた腐りかけの肉とは大違い。
 美味しい料理を食べたら、グーさんのお手伝い頑張るぞー!


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