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15章

閑話:目撃者達

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◆ ◇ ◆

 セナが逃げるように去った後、追いかけようとしていたガルドをクラオルが止める。

『ムダよ。今の主様はカラオケのことしか頭にないわ』

 プルトンによって通訳された言葉と、魔通によって知らされた内容を見て、ガルドはため息を吐いた。

「俺達はセナに金もらうほど落ちぶれてねぇぞ」
『それは主様もわかってるわ。ワタシ達やジャレッドにも用意してるくらいよ? 主様の好きな〝みんな一緒〟なのよ。それよりそのお金の使い道について相談があるの』
「相談?」
『そう。主様は貴族を嫌ってるわ。一度カリダの街で嫌な思いをしてから、タルゴー商会以外の貴族相手のお店には入りたがらないの。でも貴族のお店でしか取り扱っていないものもあるでしょ?』
「そりゃ、対貴族の店で買い物しろってことか? 俺達は平民だぞ?」
『主様が服屋エフトスで作らせた服があるでしょ? あれを着ていれば、どこかの貴族の護衛だと思われるハズだわ』
「なるほどな。だがそれなら俺達が普通にプレゼントとして買ってやればいいんじゃねぇのか?」
『主様よ? 普通に渡したら「申し訳ないからお金払う」って言うに決まってるじゃない。だから「主様のお金で買ってきたんだから受け取りなさい」って渡すのよ』

 クラオルの案にガルド達やジャレッド達は渋り顔だ。
 彼らはプレゼントなら、なおさらセナのお金を使いたくなかった。本人のお金で買ったものはプレゼントとは言えない。
 普段ワガママも言わず、自分のことには無頓着。関心があるのは魔導具と食事に関係することのみ。
 そんなセナにだからこそ何でも買ってあげたくなる。……現実はセナが自分で買ってしまうか、精霊達が作ってしまうが。
 
 クラオルはガルド達の気持ちも理解できた。そこで、事前にポラルや精霊達と打ち合わせた内容を語り、プレゼントではなく〝セナからのお使い〟としてどうにか全員に了承させた。
 もちろん、プレゼントを買うなとは言っていない。それは好きにすればいい。見た目や使われている素材が高級そうなものでなければセナも受け取るだろう。

『神達も協力してくれるって言ってたから、ガルド達はアプリークム国の街まで飛ばしてもらって』
「は⁉︎ ここの話じゃないのか?」
『別にここだけじゃないし、貴族の店に限った話じゃないの。思い出して。主様はスライムのドロップ品も料理や便利道具にしてたでしょ? そういうことよ。の知識も伝手もあるガルド達なら最適じゃない。何も知らない場所に行けなんて言わないわ』
「はいはーい、質問いいー? オレっちちょっと考えがあるから一人がいいんだけどいいのー?」
『大丈夫だと思うわ。詳しいことはあの〝神の間〟に行って神本人に聞いてちょうだい』
「りょーかい!」

 クラオルはさらにジャレッド達ニェドーラ国出身の四人にも指示を出した。
 セナは数日籠もると言っていた。ニ、三日は確実にカラオケに夢中だろう。その間が勝負となる。



 クラオルとグレウスとポラルは王都での買い物から帰ってくるなり、セナの無事を確認しに向かう。肩に乗せていたニキーダは帰宅したその足で転移門ゲートをくぐってしまった。
 三人はブンブンとタオルを振り回しながら楽しそうに歌っている姿を見て、ホッと息を吐いた。
 離れ離れになって以来、離れているのはどうにも不安になるからだ。
 だが、今回はセナが音量でクラオル達の体調が悪くなるんじゃないかと気にしていたし、何より、いつも自分のことは後回しなセナにサプライズをしたかった。
(全く、主様ったらワタシ達の気持ちも知らないで……次はワタシ達も一緒なんだからね!)
 しばし見つめていた三人は、それぞれ動き出した。
 その後、グレンやガルド達もバラバラではあるが、セナの様子を覗きに行っていた。

 ジルベルトが訪れたとき、セナはこぶしを握り、熱唱していた。
(あぁ……セナ様。あの曲とは違うのですね。いつか聞かせてくださるでしょうか……)
 普段とは少々異なる様子に多少驚いたものの、セナの新しい一面を知れたとジルベルトは喜んだ。


 グレンが見たのは、セナが髪の毛を振り乱している……俗に言うヘドバンをしている姿だった。
 カラオケとは気を狂わせるのかと、歌うだけではないのかと、グレンはおののく。
 その間にセナはヘドバンをやめ、手をクネクネと動かし始めた。
 狂気を感じたグレンがドアノブに手をかけたとき、ゾーノがそれを阻止した。

〈だいじょうぶ。じゃましちゃダメ〉
「どこが大丈夫だ!」
〈だいじょうぶ。しんぱいない〉

 何度も大丈夫だと繰り返すゾーノにグレンは中断させるのをやめ、戻ってき次第確認することにした。


 モルトが見に行ったときは、セナは靴を脱いでソファに立ち、笑顔で歌いながら踊っていた。
(か、可愛い……! 後でコルトに自慢しよう)
 天使だと再認識し、機嫌よく来た道を戻っていった。


 ジュードが目撃したのは、ケミカルライトを振り回し、たまに変なポーズで手を叩いているところだった。
 目が点になった次の瞬間、堪えきれずに吹き出した。
(ハハッ! ホント、セナっち最高だよー)


 コルトが覗いたときは、ちょうどご飯タイム。
 壁に貼られた光るディスプレイには風景画が映されているものの、音が聞こえてこないので音楽が流れているかもわからない。
(……残念……)
 新しい曲が聞けるかと期待していたコルトは内心肩を落とした。

 ガルドはセナがマイクを片手に、歌いながら静かに涙を流している姿に目を見張った。
(なんで泣いてる⁉︎ 何かあったのか⁉︎)
 どうするべきか悩み、今は得策ではないと様子を見ることにした。


 各々おのおのバラバラ行動であるため、三日は集まらないことになっている。
 ある者はソワソワと落ち着かず、またある者は思い出してニヤニヤと……それぞれがセナを想って過ごす。
 それはあまりの遅さにブチ切れたクラオルが部屋に飛び込む八日後まで続くこととなった。

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